外伝9 乃愛の思ってること


 乃愛は寂しんぼだ。

 誰かといないとやることがない。

 趣味と誇れるものがない。

 何でもそこそこ好きになるけど、熱中するものがない。

 アニメだろうが、漫才だろうが、スポーツだろうが、よく流れてるものをとりあえず見る。

 少し詳しくなるから自然と好きになる。

 その繰り返しだ。

 自分のことを考えるとなんて私は平凡なんだろうとよく思う。

 まず、乃愛はお姉ちゃんみたいにお姫様なわけじゃない。

 確かに乃愛の方が告られている数が多いけど、絶対にお姉ちゃんの方が人気だ。

 いつも一緒にいるから知ってる。

 お母さんの美人遺伝子をより受け継いでるのはお姉ちゃんだ。

 どんなにシュミレーションしても、ミスコンでお姉ちゃんに勝つことはない。

 それに、乃愛は優衣奈みたいにずば抜けて頭がいいわけじゃない。

 学年2位以外は取ったことはないけど、別に努力してるわけでもない。ただ、優衣奈のそばにいると自然とそうなる。

 乃愛は優衣奈の頭に追いつけることは一生ないし、追いつく気もない。

 乃愛が人と比べてばっかりいるようだけど、別に乃愛は自分のことが嫌いなわけじゃない。

 むしろ自分のことは好きである。

 こんなに素敵な人に囲まれて幸せだと毎日感謝している。

 きっと自分はそれに足るだけの魅力があるのだと思う。

 だから乃愛は乃愛に感謝している。

 パパもママも大好き。

 お姉ちゃんも大好き。

 優衣奈ももちろん大好き。

 そして、お兄さんも大好きだ。

 お兄さんを好きになったのは、お姉ちゃんがお兄さんを好きだからだし、優衣奈がお兄さんのことが大好きだからだ。

 お姉ちゃんと優衣奈が好きな人は素敵に決まっている。

 出会った瞬間に分かったけど、予想できなかったことが1つある。

 それは想像以上にお兄さんが素敵だったことだ。

 なぜかって?

 乃愛を必ずお姫様扱いするんです。

 お兄さんと過ごすとすっごくお姫様になれるんです。

 こんな素敵なお兄さんと結婚する人はすごく幸せなんだろうなぁと思った。

 あー見えて、すっごくガードの高いお姉ちゃんも好きになるわけです。

 結婚式は上げなくていいって乃愛は冷めた考え方を持ってたけど、それでもお兄さんと結婚式をあげたいと自然に思いました。

 乃愛はこれ以上好きにならないでいようと決心をしましたが、一瞬でその決意は崩壊してしまいます。

 会えば会うほど好きになっちゃいました。

 いけないことだとは分かってました。

 お兄さんもお姉ちゃんのことしか見てないのも最初からわかってました。

 それは、すごい日常のあるバカなやりとりを見て、確信したことです。

 とある日、お姉ちゃんがお兄さんにひっそり近づきます。

「いつものください」

「ほいよ」

 お兄さんはお姉ちゃんを友達と勘違いして、当たり前のようにエロ本を渡します。

 お姉ちゃんはお兄さんからエロ本を受け取るとすごく幸せそうにします。

 そのあと、必ずお兄さんは慌てるんです。

 そんなお姉ちゃんとお兄さんを見てるとなぜか運命って本当にあるんだなぁって思えました。

 それでも私の恋心は止まりませんでした。

 好きって気持ちを持つだけでとても幸せでした。

 この気持ちがあるだけでずっと幸せでいられる。

 最初はそうだった。

 でも、気づいたら『お姉ちゃんの好きな人』じゃなくて、『私が好きな人』になっていました。

 そう思ったので何度もお兄さんに大好きですって告白をしました。

 お兄さんは笑って受け止めてくれて、姫花お姉ちゃんが好きなんだといつも決まった返事を返します。

 その答えを聞くとますますお兄さんを好きになってしまいました。

 お兄さんとのやりとりを通じて、お姉ちゃんの妹だから実は私もロマンチストなんだとも知りました。

 人生観すら変わってしまいました。

 現実主義であんまり世の中に期待はしてないけど、お姉ちゃんみたいにロマンチックなことを考えて生きるとすごく幸せになれるんだろうかと疑問に思うことが増えました。

 幸せってなんだろう。

 難しいことだけどたまに考えます。

 なんでも知ってる優衣奈に聞くといつも同じ答えが返ってきます。

「私の幸せはおっぱいを揉むことだよ」

「優衣奈らしいね、本当参考にならないよ、全く」

 乃愛は優衣奈のぶれない態度をすごいとは思うけど、尊敬はしない。

「乃愛、幸せってのは自分で見つけるものだよ」

 時々、優衣奈は核心をついたことを言う。

 やっぱり優衣奈は頭はいいのだ。

 それから、印象に残っている優衣奈のこんな言葉がある。

「乃愛は自分の思ってるより何億倍もすごいよ、絶対幸せになってね」

 しつこいぐらいに言われた。

 答えになってないけど、なぜか優衣奈なりの私の悩みに対する答えに思えた。

 優衣奈はクラスメイトとほとんど過ごさず、ずっとラノベとかを読んでる。

 ざっくり言うと、おっぱいに関する資料についての何かを読んでる。

 優衣奈は黙ってればすごい美人。いや、贔屓なしに見ても、確実に私より美人なんだけど。

 ここは本当にお兄さんとそっくりだ。

 そんな優衣奈は私を見かけると必ず話しかけてきて、おっぱいを揉んでくる。

 私のおっぱいが好きなのか、私が好きなのかは正直分からないけど、必ずやってくる。

 ある時、優衣奈に聞いたことがある。

「私とわたしのおっぱいはどっちが好きなの?」

 我ながら変な質問なのは分かってる。

 でも、優衣奈は笑ってこう答えた。

「寂しんぼの乃愛と揉まれたがりのおっぱいどっちも大好きだよ」

「よく分かったよ、私が大好きなのね、優衣奈」

「うんっ!」

 私は必死に照れてるのを隠しながら優衣奈を見つめる。

 その日、優衣奈の期待に応えて、幸せになってやると改めて決意しました。

 乃愛は人生をかけて熱中できる趣味はありません。

 でも、乃愛の自慢できることは素敵な友達と家族がいることです。

 だから、乃愛は寂しんぼの乃愛のことが大好きです。

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