第3話 カバンとのおしゃべり
リクが倉庫で見つけた不思議なカバン。その中からは、普通では考えられないような道具や食べ物が次々と出てきました。リクは驚きと興奮のあまり、しばらく夢中になってカバンを開けたり閉じたりしていましたが、ふと気づくと、カバン自体が軽く震えているように見えました。
「……ん?」リクが不思議に思ってカバンをじっと見つめると、突然、カバンの留め金が自分でパチンと開きました。次の瞬間、カバンの中から声が響いたのです。
「おやおや、君はなかなか珍しい子だねえ。こんなに楽しそうに私を使う人間は、久しぶりだよ」
リクは驚いて後ずさりしました。「えっ、だ、誰!? 今、喋ったのは……このカバン?」
「その通り!」カバンはまるで当たり前のように返事をしました。「私は魔法のカバンさ。持ち主に力を貸すのが役目なんだ。でもね、ただ力を貸すだけじゃなくて、ちゃんとルールがあるんだよ」
リクは唖然としてカバンを見つめました。「魔法のカバン……? ルールって、どんな?」
カバンは少しおどけた声で答えます。「君が何かを受け取るとき、必ず『ありがとう』と言うこと。それがルールさ。感謝の気持ちがないと、私の力は発揮されないんだよ」
リクは戸惑いながらも納得しました。「ありがとう、か……それなら簡単だよ。別に難しいことじゃないし」
「そうかな?」カバンはからかうように言いました。「君、人に遠慮してばかりだろう? 受け取るのが上手じゃない子は、ちゃんと感謝の気持ちを込めて『ありがとう』を言うのも難しいものなんだ」
リクはギクリとしました。カバンが言ったことは図星でした。彼はいつも人に譲ることを選んで、自分が何かを受け取ることに抵抗を感じていました。「でも、感謝の気持ちは持ってるよ。ぼくは、たぶん……」
「言葉にしないと意味がないのさ」カバンはリクの言葉をさえぎりました。「『ありがとう』って言うことで、初めてその気持ちが本物になる。さあ、試してごらん?」
リクは言われるがまま、もう一度カバンを開けてみました。そして思い切って、「何か暖かい飲み物が欲しいな」とつぶやいてみました。すると、カバンの中から湯気の立つ小さなカップが飛び出してきました。リクはそれを受け取りながら、少し恥ずかしそうに言いました。「ありがとう……」
その瞬間、カップが一層明るく輝き、カバンが満足そうに声を出しました。「ほら、簡単だろう? 感謝の言葉には不思議な力があるんだよ。それをもっと練習しなきゃ、君の冒険は始まらないよ」
「冒険?」リクは目を丸くしました。「ぼくが冒険をするの?」
「そうさ、君にはまだ知らない世界がたくさんある。遠慮しているだけじゃ見つけられないものもね。でも、受け取ることを学べば、その世界が君に開かれるはずだよ」
リクは少し考え込んでから、「でも、受け取るのって、なんだか自分勝手みたいに感じるんだ」と言いました。
カバンは静かに答えました。「受け取ることは決して悪いことじゃないよ。それどころか、受け取ることで相手も幸せになることがあるんだ。誰かが何かを与えたとき、それをちゃんと受け取るのは、その人への最高の『ありがとう』なんだよ」
その言葉に、リクはハッとしました。「誰かがぼくに何かをくれるのは、その人がぼくを大切に思っているから……?」
「そういうことさ!」カバンは楽しそうに答えました。「それを受け取らないのは、むしろ相手に失礼なんだ。だから、これからはもっと素直に受け取る練習をしよう」
リクはカバンの言葉に頷きました。これまで遠慮することが美徳だと思っていた自分の考え方が、少しずつ変わっていくように感じました。
「じゃあ、ぼくはこのカバンと一緒に、その練習をするってこと?」
「そういうことだね」カバンは笑い声を上げました。「さあ、どんな冒険が君を待っているか、楽しみだな!」
こうしてリクは、魔法のカバンとの不思議な対話を通じて、初めて「受け取ること」の大切さを学び始めました。それは、彼がこれから出会うたくさんの冒険の第一歩でした。
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