第30話 夏休みの終わり

 夏の昼下がり、テレビのニュースで巨人の死体が発見されたことが報じられた。


「札幌市近くの山林で被害を出した巨人ですが、昨日、倒された状態で発見されました。辺りには交戦の跡が見られており、魔法使いが討伐したものと見られています」


 巨人の死体は森に捜索に入った討伐隊が見つけた。そこには腹部に大穴の空いた巨人の死体があった。


 周辺からは魔法の残滓も確認されており、魔法使いと激しい戦闘を繰り広げたと推測された。


 警察と討伐隊は死体を確認して、この巨人が三人の人を殺害した巨人だと断定した。巨人の死亡が確認されたため、森への規制は解かれ、討伐隊は解散となった。


「ふう、戦わずに済んで良かったぜ」


「巨人の討伐なんてやらないに超したことはないからな」


 急遽編成された討伐隊は、巨人と戦う必要がなくなり安堵していた。


 警察はこの巨人を討伐した魔法使いを探していた。討伐対象であったものの、巨人は保護対象の怪物なので、形式的に討伐した人を探しているのだ。


 情報提供を呼びかけて、警察はこの事件を終わりとした。そして巨人対策チームも解散となった。



          ※



 人気のない山頂にある空き地にヒバリとカイはいた。


「それじゃあ、撃つよー」


「はい、いつでもどうぞ」


 巨人を討伐して左腕を取ってから数日が経っていた。今日は夏休みの最終日。二人は新たに得た左腕の効果を試していた。


 ヒバリはカイに向かって杖を構えた。そして人には効果がない『魂送』を撃った。カイは照射された光に左腕を突き出した。


 すると左腕に触れた魔法は霧散した。まるで初心者の魔法使いがやりがちなミスのように魔法が消えた。


「次は攻撃魔法を撃ってみるねー」


「わかりました」


 ヒバリは合図を出してからカイに『赤矢』を撃った。カイはゆっくり飛んでくる『赤矢』に左腕で触れた。


 するとまたしても魔法が消えた。


「どう? ダメージはある?」


「全くないです。痛みもないです」


「すごい……、何でも消せるんだね」


「そうみたいですね」


 これ以上強い魔法を撃つのは危険なため、検証はここで終わりとなった。するとカイの体の主導権をギルバートが奪った。


 カイからギルバートに変わると、胸を張って背筋をしっかりと伸ばした。


「何だ、もう終わりにするのか? もっと強い魔法でも消すことが出来るぞ」


 ヒバリは突然のギルバートの登場に驚いた。しかしすぐに冷静になり、ギルバートに質問をした。


「ねぇ、あなたは何者なの?」


「またその質問か。しょうがない、そろそろ教えてやろう」


 ギルバートは面倒そうな態度を取った。しかしこれからも出てくるたびに正体を聞かれるのも面倒なため、教えることにしたのだ。


「私は、お前たちの概念で言うところの、悪魔だ」


「やっぱり、そうだったのね」


 ヒバリは前に見つけた伝承から、そうではないかと思っていた。そのためあまり驚かなかった。


「でも、悪魔なんて空想のものだと思ってた」


 怪物が溢れている世界でも、悪魔は空想のものだと思われていた。今まで発見された例がないのだ。


 物語にしか出てこないため、都合良く悪心を押しつける先として使われていた。


「どうしてギルバートは体をバラバラにされたの?」


「私を呼び出した女が、私の力の強大さに怯えてバラバラにしたのさ」


 ギルバートはこの世界に呼び出されて、女と契約し、様々なことをした。そしてあるとき女はギルバートの力を自分では制御できないと理解し、ギルバートの力を分散したのだ。


「悪魔を呼び出す方法があるの?」


「あるぞ。ただ歴史上呼び出すことに成功したのは、その女が初めてだ」


 ギルバートは懐かしむように話した。


「まったく、私ほど友好的な悪魔はいないというのに。あの女はもったいないことをしたな」


「抵抗はしなかったの?」


「することも出来たが、私もちょうどこの世界にいたかったからな。何もせずバラバラになってやったんだ」


 ギルバートは目的があり、望んでバラバラになったようだった。


「ギルバートは復活したがってるけど、何が望みなの?」


「私は人間の作る物語にハマってしまってな。それを読み漁りたいだけだ」


「それだけ?」


「そうだとも。無欲な悪魔で驚いただろう?」


 ギルバートは女に呼び出されてから、暇つぶしにこの世界の書物を読み漁った。そして人間の作る物語に見事にハマってしまったのだ。


 しかしそれをヒバリは信じなかった。そんな都合のいい話があるとは思えなかったのだ。


 ただ今は人間に、特に自分たちには友好的なため、放っておくことにした。


「それで、他の体の部位はどこにあるの?」


「今ちょうど日本に向かって来ているぞ」


「海外にあったってこと?」


「そうだ」


 先日の祭りでの動画が広まったため、ギルバートの体を求める者が、日本に集まって来ているのだ。


「とにかく、私から解放されたいのなら頑張って集めることだ」


 ギルバートは立ち上がった。


「お前たちの恋愛模様は見ていて面白い。もっと見せてくれれば、これからも友好的な関係を続けられるだろう。それではな」


 そう言うとギルバートはカイに体の主導権を返した。


「若夏くん、戻った?」


「はい、戻りました」


 二人はベンチに横並びに座り、山頂からの景色を眺めた。


「明日から学校が始まるね」


「そうですね」


「体集めはあんまり出来なくなるけど、少しの間我慢してね」


「僕はゆっくりでも大丈夫ですよ」


 蝉の鳴き声が響く中、二人は少し汗ばむ手を繋いだ。


 そして二人の波乱の夏休みが終わりを迎えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ビッチ・ウィッチ ~魔法学校のビッチな彼女~ 詠人不知 @falilv4121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ