第9話 優勝
砂埃が晴れると、そこにはやけに距離の近いヒバリとカイが立っていた。二人は抱き合っていたのかというほど距離が近かった。
カイは呆然とした表情で立っていた。明後日の方を見ており、心ここに在らずといった感じだった。一方でヒバリは先ほどまでと打って変わり、元気な様子だった。
「さぁ、行くよ! 若夏くん!」
「は、はい!」
元気を取り戻したヒバリはカイに発破を掛けた。声を掛けられたカイは慌てて相手と向き合った。
砂埃が落ち着き、視界が晴れた相手は再び攻撃魔法を撃ってきた。カイは前に出てそれを防いだ。カイの堅牢な防御は未だ健在だった。
そして相手が詠唱で隙を見せたタイミングでヒバリは攻勢に転じた。
「『赤矢』!」
「嘘でしょっ!?」
再び攻撃魔法を撃ってきたヒバリに、相手の女子生徒は意表を突かれた。ヒバリは既に魔力切れのはずだと思っていたからだ。
相手の女子生徒は何とか初撃は防いだが、続く攻撃に対応できなかった。ヒバリの魔法により相手の一人の杖が弾き飛ばされた。
残り一人となった相手にヒバリは攻撃魔法の雨を浴びせた。赤い光の矢が雨のように相手を襲った。女子生徒はそれを守り切れずに呆気なく戦闘不能になった。
相手の女子生徒二人がどちらも戦闘不能になったことで、ヒバリとカイの優勝が確定した。会場は劇的な勝利に大歓声が上がった。
※
相手の女子生徒は立ち上がると、涙を堪えながらヒバリとカイと礼をした。勝利が目前に迫っていただけに悔しさがあったのだ。
そしてそのまま表彰式が行われた。一年生の部で優勝となったヒバリとカイには金メダルと盾が授与された。
ヒバリは盾を掲げて喜んでいた。カイも一緒になって喜んでいたが、ヒバリの顔を見ると顔を赤くし、目を逸らした。
表彰式が終わったヒバリとカイは、クラスメイトが待つ観客席に戻った。二人はクラスメイトに揉みくちゃにされて迎えられた。
「すげぇな! よく優勝したよ!」
「ヒバリちゃん、若夏くん、おめでとう!」
一番の功労者であるヒバリにはクラスメイトからの賛辞が止まなかった。
「ヒバリの魔法、凄かったよ!」
「とっても格好良かったよ!」
「ところで、あそこから勝つなんて、どうやったの?」
クラスメイトは劇的な逆転勝利の秘密を知りたがった。あの絶望的な場面から何をしたのか、皆気になっていたのだ。
「ふふ、内緒!」
「何だよー、気になるじゃん!」
ヒバリはそれを明かさなかった。ヒバリは笑って誤魔化した。
一方でカイもクラスメイトから褒められていた。
「流石の防御魔法だったな! やっぱカイもすげぇよ!」
「ありがとう!」
「今度私たちの魔法の訓練に付き合ってよ!」
「良いですよ!」
カイが努力していたのをクラスメイト全員が知っていたので、その努力を讃えた。カイは褒められ慣れていないため、少し気恥ずかしそうだった。
そしてそうこうしていると、二年生の対抗戦が始まろうとしていた。一旦ヒバリとカイに話しかけるのを止めて、皆で上級生の対抗戦を見ることにした。
上級生の対抗戦は一年生のそれとはレベルが違った。一年生は習ったばかりの魔法を撃ち合うのが大半だが、上級生の試合は独創性に溢れた上級魔法が飛び交っており、とても派手だった。
魔法の派手さもさることながら、確かな技術で繰り出される基礎的な防御魔法も見応えがあった。
上級生による、一年生では到達出来ない魔法の高みを見せられて、皆興奮していた。そして自分たちも魔法を上手くなりたいと、向上心を刺激されていた。
そして三年生までの対抗戦が終わり、魔術大会が終わりを迎えると、辺りはすっかり暗くなっていた。
生徒は興奮が冷めやらぬ中、下校の準備を始めた。帰り際にヒバリはカイを見つけると近寄って来た。
「またね、若夏くん!」
「ま、またね、ヒバリさん!」
ヒバリはカイに手を振りながら去って行った。ヒバリに手を振るカイの顔は赤くなっていた。
そしてカイはハクロと一緒に家路に着いた。ハクロは帰り道でカイに気になっていたことを聞いた。
「なぁ、ヒバリちゃんと何かあったろ?」
「い、いや、何もないよ!」
「そんな反応するやつが何もないわけないだろ」
ハクロはヒバリとカイに何かあったと確信した。
「素直に白状しろって」
「わ、わかったよ……」
カイは恥ずかしがりながらも、ハクロにヒバリと何があったかを話した。
「そ、その、ヒバリちゃんと、キスしたんだ……」
「はぁ!? 何で!? どのタイミングで!?」
ハクロはカイを問い詰めるが、カイは恥ずかしがってそれ以上話そうとしなかった。そうこうしている内にカイの家に辿り着いた。
「今度じっくり聞かせてもらうからな!」
そう予告したハクロは気になる気持ちを抑えながら、家路に着いた。
そして家に入ったカイは自室に向かうと、ヒバリのことを思い出していた。
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