第2話 パー子 睡眠学習をする

 受験の敵はゲーム・漫画。


 我が家の娘はゲームはしない。時折、祖母宅で、昔流行ったスーパーマリオのファミコンをする程度だ。しかし漫画は「りぼん」だ「ちゃお」だと読みまくる。

 私の与える「ブラックジャック」「キャプテン」「ゴルゴ13」などの漫画は読まない。←読んだら怖い

 ませているので、恋愛モノ、特に、やれキスした、キスしない、の類が好きである。放っておくと、勉強の時間はどんどん過ぎていき、漫画読んでて一日終わり、ということもある。


 中学受験の熾烈な様子ばかりが伝わっている世の中の母親から見れば、そういう子もいる、という意味で、安心と真心をお届けする素晴らしいエッセイだ。そしてパー子は天使のような受験生。


 しかしパー子は世の母親を安心させるために中学受験するのではない。



 以下は、私の妻からの報告。


 その日も、パー子は学校から帰るなり、漫画を読み始め、読み浸り、読み耽っていた。そして気が付けば午後10時。「勉強」と称して「絵画」と「ふき出し」のセリフの勉強に励んでいたのだ。                                 

 こんな堕落した生活を続けていては、ますます脳が腐る!


 本人曰く「気が遠くなっていって、ハッと気が付いたら、数時間先の未来に飛ばされていた」というのだ。そんな締め切りの迫った人気漫画家のような言い訳が大人に通用するとでも思っているのか?

(以前、編集者にこうした言い訳をしている漫画家がいた)


 仕方無い。寝床で母親と勉強である。


 昔「睡眠学習」というものもあったではないか。

 どうやら眠る直前のアルファ波が出ている時に、色々と語りかけると、それが潜在意識に刻まれていくと言う。


「地軸の傾きは23.4度」(念仏のように耳元で数回繰り返す)

「酸性はリトマス紙を赤くする、BTB液を黄色くする」(同上)

 などと母親は子守唄のように夜のしじまにささやきかける。


 いつもはいびきをかいて寝付いてしまうパー子がその母の声に黙ってじっと耳を傾けている。


 「ああ、美しい、これが受験生なのね」

 詰め込みだなんだと言われても、元々憎くてやっている仕打ちではない。

 ついいとおしくなって「こんな母を許してね…」と横にいる娘の顔を妻は見やった。

 「ぎゃっ」

 その瞬間、妻は息を呑んだ。


 そこにはまぶたを両手の親指と人差し指で必死に広げ、恐ろしい形相で白目を剥く娘の姿があった。

 「眠いよ~、でも起きてるから大丈夫だよ~」←娘の悲鳴


 潜在意識でも何でもなかったのである。


 さすがに怖くなって「もう寝なさい」と言うと、娘は速攻でいびきをかき始めたという。

 疲れていたのだな、パー子。


 翌朝、地軸の傾きの角度を聞いた。

 「ん?直角?」


 パー子は起きているのに必死で、聞いていなかった。

 睡眠学習に効果無し!


 地軸の傾きが直角じゃ南極の夏は暑かろう。


 起きていて覚えられないならどうすりゃいいのだ?親の悩みは深い。

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