第7話 大仏の日・大仏開眼の日【4月9日】
久々に奈良の大仏に来た。修学旅行以来、来てなかったから、本当に何年ぶりだろう。でも不思議だ。教科書で何度も何度も見てるからか、「ついこないだ、会ったよね。」という感覚になる。それぐらいの親近感がある。
賽銭を入れて手を合わせる。
『今年も、元気に過ごしてます。また、お会いできて嬉しいです。ご縁がありましたら、よろしくお願いします』
祈り終わり、ふと上を見ると、でっかい大仏様がいらっしゃる。それも、「よくぞ来てくれた」と声が聞こえそうな、そんな優しくて寛大な大仏様。そんなことを何も考えずにほけーと見ていたら、頭の中に声が聞こえる。
『よくぞ、参った。そなたを待っておったのじゃ』
えっ、とびっくりした。声が聞こえそうなーじゃなくて、本当に言っていたとは。1人で混乱していると、また声が聞こえる。
『覚えておらんか?わしと約束したんじゃが。』
約束?なんだっけ?と思っていると、大仏様の声が頭の中に響く。
『そなた、修学旅行の後に学校で新聞を作ったじゃろ。ちゃんと完成させて、戻って来ると言っておったじゃ。』
あーあれか。そんな大昔のことを忘れてしまっていた。しかも、戻って来るって、お金がない僕は何を言ってるんだ。
懐かしいな。学校で修学旅行の行ったところについて、新聞を書いて、文化祭で発表したな。
『すいません。すっかり、忘れてました。学生のノリなので、本当に許してください。』
『まあ、そうじゃろうとは思ったが。』
ふと、気になっていることを聞いてみた。
『なんで、僕だけ聞こえるのですか?』
『何故って、聞こえるようにしたじゃからよ。大仏様の力は偉大じゃからな』
自分で言うことじゃないだろ…
『何か言ったかの』
『なんでもないです。』
『それならいいんじゃがな。それよりもじゃ、あの新聞、最高じゃったぞ。建設当時だけじゃなく、再建についても書かれておるのは、なかなかの着眼点じゃな』
あの当時は、新聞など人に見せるものを作るのが好きで、力を入れていた。
『ありがとうございます。大仏様に言われたら、とても誇らしいです。』
ふと、思ったことを伝えてみた。
『どうやって僕の新聞を見たのですか?相当遠いと思うんですけど。』
『それは、虚空蔵菩薩と如意輪観音にどうにかして見せてもらったに決まってるじゃろ』
さすが、大仏様。確かに、自分で偉大だと言うことも分からなくもない。2柱様、お疲れ様です。
『それでじゃな、せっかく来たのだから、当時の様子をみてもらおうと思ってな。今日はわしが開眼した日でもあるじゃからな。ちょっと行ってこい』
『えっえっ』
答える余地すら与えられず、目の前が真っ白になった。
「とうとう、完成しますな。」
「そうだな。ずっと前からの念願だからな。」
「これで、我々の呪いから解き放たれる。」
当時、流行り病、地震などがあり、人々は不安で溢れていた。それを抑えるために作られたのが、この奈良の大仏だった。
「長い時間をかけて我々の手で作ったのだ。これで、世の中が安定する。」
何もない場所から組み上げてここまで作った。それは、危険なこともあった。こんなことしなくてもいいとも思った。でも、これからの世の中のため、諦めてはいけないと励ました合った。そんなことを思い出していた。
開眼式に参加した人たちに長い紐を持つように言われる。ぐっと握りしめて、その時を待つ。
紐が動いた。偉大な僧侶が開眼させたのだ。
「やっと、やっと穏やかな世の中になる…!」
歓喜に満ちた思いが流れてくる。
ふと、我に返ると、あの大仏の前にいた。
何故か、感極まって涙が溢れる。
今日はそんな大切な日だったのか。
『また、来るんじゃぞ』
その声はとても優しかった。
※この文章はフィクションです。史実と異なる場合があります。
参考サイト
聖武天皇・行基~大仏はなぜ作られたか~ | 歴史にドキリ | NHK for School
https://www2.nhk.or.jp/school/watch/outline/?das_id=D0005120257_00000
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