アリーチェ・フェ・アオスレンの話、2/青笛アリーの話、1
〈精霊姫〉として、この異世界に〈異界渡り〉をしてきたわたくしはけれど、相矛盾する感覚を覚えてしまいました。王城に居た時にわたくしを縛っていた眼差しは全て、置いてきたのだと、この世界の空気を吸い込んだ時、思ったのです。
ああ、久しぶりにちゃんと息が出来る――と。
〈曇天の乙女〉を見つけ、王国の、世界のために倒す。
それがわたくし、アリーチェ・フェ・アオスレンの――いえ、〈精霊姫〉としての責務。そう思っていたのに、予知に導かれてわたくしが訪れた「高校」という場所で、わたくしは思い出しました。
わたくしにもかつて、期待も害意も欲望も羨望もなく、対等な相手として接してくれていた人が、居たということを。
……だから、ほんの少しの休息の、つもりだったのです。
いずれにせよ新たな予知を授かり、〈曇天の乙女〉の詳細な情報を得なければ動きようがありませんから。
――それなのに。
彼女を初めて見た時、胸の奥にしまい込んでいた感情がさわさわと忙しなくなるのが分かりました。ここに来て、わたくしは成すべきことを成さなければならないと言うのに。
理由はすぐに分かりました。
視線にさらされ続けてきたわたくしだからこそ、彼女の視線が嫌なものではないと、直観的に分かったのです。わたくしをただの対等なクラスメイトとして見てくれていると、感じる視線だと。だから、きっと惹かれた。
けれどここではわたくしは目立ってしまう。だから、こちらから話しかけることが出来なくて――やっと訪れた機会を逃すまいと、わたくしは走りました。
「青笛さん」
そう言ってくれた彼女の声を、わたくしは忘れることはないでしょう。
ずっと、求められるだけのわたくしを演じていたわたくしにとって、あるいはそれは、初めて出来た対等に向き合ってくれる人で。
「……めぐるさま」
貴女の声が、笑顔が、心が、所作が、わたくしは。
「どうやら、恋をしてしまったようです」
好きになって、しまいました。
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