第3章 竜の目覚め

 忠義の言葉が静かに響いた。「ここまで来るとは…」

 その言葉が朔の心に深く突き刺さった。剣を振り下ろしたその瞬間、確かに忠義の力にひびが入った。しかし、彼の冷徹な目が示すように、戦いは終わっていない。今まさにその力が膨れ上がり、暗闇のように広がろうとしている。

 忠義は一歩後退し、その体を包む暗黒のエネルギーをさらに強くし始めた。周囲の空気が冷たく重くなり、時間さえも止まったかのような錯覚に陥る。彼の手から放たれる闇の力が、まるで周囲の全てを飲み込むかのように広がっていく。

「お前たち、まだ力を使い果たしていないと思うな。」忠義の声が低く、鋭く響く。その目には、どこか自信が見え隠れしていた。

「まだだ。」未蘭が冷静に呟き、手をかざした。その青い光が、忠義の闇の力に再び立ち向かおうとする。しかし、その光さえも忠義の暗黒の力に引き寄せられ、少しずつ飲み込まれていく。

「お前の力は、もはや限界だ。」忠義が低く笑いながら言った。その笑みには、他者の力を屈服させる冷徹な決意が感じられた。

 だが、その瞬間、教行が前に出て、手をかざす。「まだだ!」彼の声が響き、癒しの力が広がる。周囲の空気が一変し、光と闇が交錯するその中で、教行の力が仲間たちを支える。

「みんな…」朔がその力を感じ取り、仲間たちに向かって言った。「お前たちの力を信じる。」

 その言葉が、仲間たちを鼓舞するかのように響き、未蘭は再び青い光を放った。教行も力強く呪文を唱え、靖夫は冷静に忠義の動きを読み取っている。

「お前たちがいくら力を集めても、私には勝てない。」忠義の声は、まるで世界の運命を掌握しているかのような威圧感があった。彼の体から放たれる闇の力はますます強力になり、その影が広がり続ける。

 だが、朔はその闇の中で目を見開き、前進を続ける。「俺たちは負けない。」その言葉が、仲間たちの背中に力を与えるように響いた。

 忠義が再びその力を集め、空間が震えるような衝撃が広がる。暗闇がますます膨れ上がり、周囲の景色を飲み込もうとする。しかし、朔は一歩も引かずに立ち向かう。

 その時、未蘭が声を上げた。「朔、今だ!」

 その言葉に応えるように、朔は力強く剣を振りかざす。剣から放たれる光が、忠義の暗黒のエネルギーに突き刺さるように交錯する。光と闇が激しくぶつかり合い、空間が歪み、周囲の空気が一気に裂けた。

「これで終わりだ!」朔の声が再び戦場に響く。その刃が忠義の闇の力を引き裂き、ついにその力の源に届く。

 忠義の目が見開かれ、その表情に驚愕が浮かぶ。その瞬間、闇の力が崩れ、暗黒のエネルギーが一気に消え去った。

「なぜ…?」忠義がその言葉を絞り出すように呟く。彼の顔には、驚きとともに、どこか無念さが滲んでいる。

「お前の力は強かった。」朔は静かに答えた。その声には、冷徹さや勝利の喜びはなく、ただ戦いの終息を迎えた安堵が込められていた。「だが、俺たちの信念が、俺たちを勝たせたんだ。」

 その言葉に、忠義は一瞬だけ目を閉じ、何かを考えているようだった。しかし、彼の体は次第に力を失い、暗黒のエネルギーは完全に消え去った。

 その時、周囲の空気が一変し、闇が晴れ、光が差し込む。戦いの終息を告げるように、空が明るくなり、朔たちの体を包み込んでいく。

「終わったのか…?」教行が静かに言い、周囲を見渡す。

 未蘭はしばらく黙っていたが、やがて冷静に答える。「ああ、終わった。」彼女の顔には、戦いを乗り越えた者にしか見せない静かな満足が浮かんでいた。

 靖夫がゆっくりと前に歩み出し、その眼差しはどこか遠くを見つめている。「だが、これで終わりじゃない。私たちが進むべき道は、まだ続いている。」

 その言葉に、朔も深く頷いた。これで全てが終わったわけではない。彼らの物語は、今まさに新たな展開を迎えようとしているのだ。


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