彼方の声

菫野

彼方の声

花の名を問はれ答へる時にもう山茶花なのだわたしの指は


生まれるとき失くした鍵を探しをり百合の中にも鍵屋があつて


梨を剥く手つきで拾ふみづいろのピアス水際を切りとるやうに


ひるがへる炎のやうな歌を詠む人よさよならもう会はないよ


光るバスに乗つたわたしをわたくしが見てゐたらしい冬の夜明けに


たましひを鳥のかたちに折りたたみ胸の穴からとり出してみる


橋の上でいつも会ふひと白杖の音は海まで届いてしまふ


左手を二つ失くして三つめの手袋を買ふ願いのやうに


わたくしを蝋燭として燃やしてよきつとあかるく夜を照らすよ


観覧車のどで回つてゐるやうな彼方の声でほのほ、と云ふ

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彼方の声 菫野 @ayagonmail

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