第8話 話したいこと
「――いや〜一度来てみたかったんだよね、ここ。ごめんね、
「ううん、気にしないで
ある平日の、薄暮の頃。
そう、快活ながらも少し申し訳なさそうな笑顔で話す美波。私の数少ない友人の、いつも明るい向日葵のような女の子だ。
『――あっ、優月。その、急でごめんなんだけど……ちょっと、今から会えないかな?』
20分ほど前、美波から掛かってきた電話。部活帰りで疲れてるはずだろうし、少し驚いたけど私としては何ら問題ない。それに、こうして美波と会って話す機会もあんまりなかった気もするし。
さて、そんな私達がいるのは、最近オープンした路地裏のカフェ。隠れ家的なロケーションと、昔ながらのレトロな雰囲気が密かな人気を集めているとのことで。そして、実際に来てみると確かに心安らぐ素敵な場所で、それこそ昭和や大正を思い出……いや、思い出すも何も知らないけどさ。
「……それで、美波。結局、どうなったの?」
「そうそう、それを聞いてほしかったの! なんと、初めてスタメンに選ばれちゃった! まあ、練習試合だけどね」
「ほんと!? ううん、それでも凄いよ! おめでと、美波!」
「うん、ありがと優月!」
それから暫し他愛もない会話を経た後、思い切って切り出してみると、目を輝かせ吉報をくれる美波。……うん、ほんとに良かったね美波。
ちなみに、何の話かと言うと――美波が所属する女子バレー部の練習試合が二日後にあるのだけど、その出場メンバーが今日の練習後に発表されるとのことで。それで……まあ、一応どちらのパターンも想定してはいたんだけど……うん、ほんとに良かった。
ともあれ、ひとまず安堵した後、再び他愛もない会話に花を咲かせる。そして、
「……それで、美波。大事な話って、何かな?」
「…………えっと」
私の問いに、少し目を逸らし呟く美波。重くなったわけではないが、先ほどまでの明るい
大事な話がある――それが、あの通話にて伝えられた美波の用件だった。尤も、それは先ほどのメンバー発表の話であった可能性もあるし、もちろんそれならそれで良い。と言うか、むしろそうであってほしいくらいで。
だけど……少なくとも、私に告げた大事な話というのが別にあることは、ここまでの彼女の様子からも察せられたし――それに、今の反応で確信に至った。
すると、暫し躊躇していた美波だったが、覚悟を決めたようで私を真っ直ぐに見つめる。そして――
「……優月に、協力してほしいの。私が、
そう、甚く真剣な
ともあれ……さて、何と答えるべきか。いや、協力したくないわけじゃない。親友の大切な
「……えっと、駄目?」
すると、逡巡する私の様子に不安そうに尋ねる美波。いや、駄目なわけじゃない。繰り返しになるけど、気持ち的には全力で協力したい。
ただ……今、彼女の申し出を承諾してしまうと、非常に大きな課題が生じてしまうわけで。いや、例え承諾せずとも、今後と美波との関係を考えるとあの展開はどうしても避けたいわけで――
……いや、悩んでても仕方ないか。とにかく、すべきことは――
「――ううん、駄目なわけない。大事な親友の恋、全力で協力するよ」
「……っ、ほんと!? ありがと優月!」
そう答えると、さっと私の手を取り眩いばかりに目を輝かせ謝意を口にする美波。さっきのメンバー発表の時より、いっそう眩い笑顔で。
……まあ、こう答えるしかないよね。今ここで断ろうものなら、今後を待つまでもなく今の関係が壊れかねないわけだし……それに、協力したいのはほんとだしね。
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