20.

「無理⋯⋯は、してません。払いたいと思ったのは、伶介くんが大河のことを優しくしてくれるそのお礼がしたいからです。⋯⋯今回のことといい、今払う分では足りないかと思いますが⋯⋯」

「そんなこと⋯⋯」


思わずといったように零れた言葉。しかしすぐに気を引き締めたような顔をした玲美は「そんなことないですよ」と今度ははっきりと言った。


「姫宮さんはうちの子が大河君のことを気にかけてくれたから、お金を払うことで感謝の気持ちを伝えようとしたのですよね。今回は払うのがきっかけでそうしてくれましたが、そのお礼はなにもお金の多さではないのですよ。そうしたい気持ちがあればいいのです。ですから、お気遣いありがとうございます」


満面な笑みでお礼を言った。

伶介が大河に向けるような優しい笑顔に、姫宮もつられて微笑んだ。

少し気遣われてしまったかもしれないが、「では、伶介と大河の分はお願いしましょうかね」と言われたことで、姫宮は改めて引き受けた。


「おねがいします!」

「⋯⋯ま⋯⋯っ」


伶介は礼儀正しく礼をし、大河は持っていたぬいぐるみの一つをこちらに寄越した。


「そのくらげのぬいぐるみ、たーちゃんのままみたいでかわいいってはなしていたんだよねー」

「そうなの?」


うん、と頷いた大河は突き出す動作を繰り返し、促してくるものだから、そのまま受け取る形となった。

水色に近い色合いのクラゲのぬいぐるみは、マシュマロのようにもちもちと柔らかい触感で、気づけばその肌触りを確かめるように軽く握ったり離したりをしていた。


「たーちゃんまま、きにいってくれたみたいでうれしいねぇ」


大河の気持ちを代弁した時、「ありがとう」と言うと、腰に手を当てて胸を張っていた。

大好きな母親に喜んでもらえて、選んだ甲斐があったと思っているのかもしれない。

その行動に可愛らしいと小さく笑っていた。


「さて、私は旦那様にお土産を買ってあげましょうかね」


そんな傍ら、今にも鼻歌を歌いそうな調子の玲美がお菓子コーナーを眺めていた。

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