12.

「⋯⋯あ、逃してしまいました⋯⋯」


「わぁ、すごい! みぎあしのったね!」とその場で小さく跳びつつ、揃って手を上げて伶介が喜んでいる傍ら、姫宮はしょんぼりとしていた。


「タイミング、難しいですよね⋯⋯。⋯⋯私が撮ったのでよろしければ、後で送りましょうか?」

「はい⋯⋯よろしくお願いします⋯⋯」

「まあまあ、落ち込まないでくださいって。そりゃあ、愛しの我が子の瞬間をどれも撮り逃したくはないだろうけど、スマホ越しじゃなくても自身の目で見るのもいいじゃないッスか?」


姫宮達の後ろで中腰していた袋田が「ほら」と指差した。

それを辿ると、目を瞠った。


片足でもガラスの上に乗せたままの大河と伶介が、繋いだままの両手を左右に振ったり、主に伶介が足先をトントンと軽く叩いて、仲良く遊んでいた。

最初のうち何をしているのかと思ったそれは、その水槽にいる生き物に対してプロジェクションマッピングが浮かび上がらせているが、その色とりどりの花の上で二人が楽しげに踊っているような幻想的世界に見えてきた時、そのまま魅入っていた。


「動画でも思い出を残してもいいかもしれないですけど、その場の雰囲気的な? そういうのも、肌で感じて、自分の目で焼き付けてもいいんじゃないかと俺は思うんですよ。必死になって撮らずとも」


確かに袋田の言うことは一理ある。

撮ることばかり気を取られて、その下で泳いでいるクラゲのことや、水面に浮かんでいるように見えるプロジェクションマッピングのことを今さら気づいた。

けれども、四年間も一緒にいられなかった我が子の小さな成長を一時も逃したくない気持ちもあった。


「袋田さんの言う通り、写真ばかり気を取られて、自分の目で見るのを疎かにしていると思われても仕方ないですよね。ですけど! 撮りつつも、自分の目でも焼き付けているんです!なので、お気遣い無用です! 大丈夫です!」


手のひらを見せる仕草をした玲美は語尾を強めて返した。

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