10.

「ぼくたちもいってみよ!」


分からないながらも小さく頷く大河を見るや否や伶介は共に、そして、必然的に姫宮も一緒に行くことになった。

水槽からの光があまり差してこない階段を慎重に登っていると、「たーちゃん、きをつけてね」と伶介は声を掛けてくれていた。

姫宮も半ば遅れながら「二人とも気をつけてね」と声を掛けていたのと同時に登りきった。

登って、数歩先に目当てのものが見えた。

床一面にガラスが張られているようだった。その上に皆がいて、下を見ていた。

その足で伶介に引っ張られる形で行くが、伶介はそのガラスに足を踏み入れ、「たーちゃん! したにくらげがおよいでるよ!」と半ば興奮気味に言ってくるが、大河はその手前で引き気味に見ていた。


恐らく、怖く思っているのだろう。

その気持ちは分からなくもなかった。ガラスは大体は壁面にあるもので、今のように床張りしてあって、伶介や周りの人達のようにその上を平気で歩くだなんて思わなく、床抜けしないと頭では思っていても、身体が動かない。


「たーちゃん、こわい?」


伶介の大河の心情を察して尋ねる。

こわい、と頷くと思ったが、思いきり横に振った。

これはさっきのように母親がすぐそばにいるために、カッコつけているのだろうか。


「たーちゃん、つよくてかっこいいとおもわれたいの、とってもわかるよ。すごいってほめられたいもんね。ぼくもままにそうおもわれたいもん。けどね、たまにはよわいところもみせてもいいとおもう。そしたらね、たーちゃんのまま、もっとやさしくしてくれるとおもうよ。ですよね、たーちゃんまま」

「えっ、あ、うん」


話を振ってくるとは思わなく、姫宮は曖昧に返事したものの、すぐにこう言った。


「あ、と⋯⋯。⋯⋯ママは、大河がカッコ悪くても、弱くても、嫌ったりしないよ⋯⋯? ママはどんな大河も好きだよ。それに、ママもこのガラス張りの床は怖いよ。だから、無理しなくていいからね」

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