100年前に封印された魔王が、才能がない勇者の息子に転生して......⁉︎

りと

第1話

「本当に.......無能なのですね、トア様」


俺は少女から、そんな俺を批判する声が聞こえてきた。

その少女はとても子供とは思えない美貌を持っていた。

茶髪のロングベアで、瞳は赤色の鋭い目つきをしている。


「......そうかい、そりゃあ悪かったな」


そんな批判気味な言葉はもう既に聞き飽きていた。だからこそ俺はもうそんな言葉に面倒臭いという感情しか出てこなかった。


「......っ!!またあなたはそうやって!」

「......別にいいだろ?姫様?」


少女は何故か不機嫌な表情をしていて、まるで「なんで反抗してこないんだ」といいたげだった。


「魔法の才能がないだなんてことは、随分と前からわかってたことだろ?」

「だからこそあなたはもっと......!」

「うるせぇ......また、勇者の息子なんだから、とでもいうつもりか?」


実は俺────トアは、勇者と、そしてその勇者の仲間と結婚して生まれた子なのだ。

俺が生まれた当初、それはそれはめちゃくちゃ期待された。

まぁ仕方ないと言えば仕方ないだろう......だってそんな優秀な2人の間に生まれた子なら優秀だろうって、なるのは当たり前だ。

じゃあ結果はどうだったのか?

それは──────『失敗』だった。


いや、そりゃあ他の奴らよりは優れているのだが、俺以外に優れていたやつがいたということだ。

俺の親以外にももちろん勇者は存在する......その子供たちの方が優秀だった、それだけの話だ。


「ただいまー.......」

「お帰りなさいませ、トア様」


そんな暗い気持ちを背負いながら、俺は家に帰宅すると、待ち構えていたかのようにメイドがそこにいた。


「あらあらっ、どうやらまた酷くやられたようで♪」

「なんか嬉しそうじゃない?」

「いえいえ、そんなことありませんよ」


メイド────カレンは、年上ですよ感を出しているが、実際には俺と変わらなかったりする。

なんせこの子は、俺が拾ってきた子だから。


『.....君がなんか悪いことしたら全部俺のせいにしたらいいんだよ!どうせ俺が悪いことしてもなんも言ってくるやついないし!俺最強なんだぜ!』


あぁ......恥ずかしい恥ずかしい。まだ修行とかを全くしていない頃、俺はそんなことをこの子に言ったのだ。

今思えばとんでもない黒歴史である。


「そういえば......アリス様と何かご進展はありましたか?」

「ご、ご進展って.....なんもねぇよ!」

「ふふっ、顔を赤くしちゃって」


アリス────というのは、俺が学校で出会い、初恋した人でもある。

あ、勘違いしないで欲しいのが、この子は他の勇者達から生まれた子供では無いということだ。

この子は────そんな優秀な遺伝子があるという訳でもないのに、学園1位に返り咲く最強だ。


「アリス様.......恐ろしいですよねぇ、見ただけで他の人の魔術だったり格闘技だったりをコピーできるのですから」


そう、あの子は天才だった。

急に生まれた突然変異種とでも言うのだろうか。

その子は圧倒的な才能を持っていた。

何をしても、1番.......そんな、とんでもない子だった。


「あぁ、あと......アリス様は庭にいらっしゃいますよ」

「ガチ!!??」

「えぇ、今頃トア様が遅すぎて不貞腐れてるかもしれません」

「早く言えよ!」


そんなことを言ったら「焦るトア様を見たかったので」なんてことを言ってきやがった。

とんでもないやつである。


俺は急いで庭に行くとそこには......優雅に片手に紅茶を持ち、肩に届く位のセミロングの金髪を靡かせる美少女がいた。


「あっ......遅いですよ、トア君」

「ごっ、ごめん!」


その美少女は、「私、怒ってます」と言わんばかりに頬を膨らませており、その対象が俺であることに間違いはないようだった。


「まぁきっと.....カレンさんが何も言わなかったんでしょうね」

「あはは.......まぁその通り」

「全く、あの子にも困ったものね」


そのどこか呆れている表情もとても綺麗で、思わず見惚れてしまった。


「ふふっ.......私に見惚れてしまいましたか?トアくん」

「......ッ!!!そんなわけないだろ!?」

「トア君はほんとに可愛いですねぇ♪」


こんやろう.......どうして俺の周りにはドSしかいないんだっ.......!!


「まぁいいや.......今日の要件はなんだ?」

「簡単な話です───あなたに対する声の話ですよ」

「あぁ.......勇者の息子なのに情けないとか、そういう話?」

「えぇ.......その声を聞く度に、私不愉快でして」


アリスは少し目を鋭くさせ、さっきの穏やかな雰囲気から一転して、殺伐とした雰囲気となった。


「どうして勇者の息子なのに.......とか言うのでしょうか、トア君はトア・ディカイオスという1人の男の子でしかないのに」

「.........」


確かに.......その声は聞き飽きたとはいえ、憤りを感じない訳では無い。

ちゃんと、勇者の息子ではなく......トアとして、見て欲しい。

でも、そんなことが、叶うわけなくて。


「トア君がお望みなら.......この国滅ぼしますが。もちろん内部から」

「........っ!!!」


たまに、アリスは目のハイライトを無くすときがある。

今なんて.......魔力の一部が出てきており、マジで怖い。

アリスは何故か───俺のそういう話を聞くと、そういう状態になってしまう。

それが何故なのか分からない.......ただ俺を友達として怒ってくれてるのか──愛している人をそんなふうに言われてキレているのか。

でもとりあえずはアリスを落ち着かせよう。


「落ち着けアリス......そんなことをしても、なんも意味なんてないだろ??」

「ですが.......」

「それに......俺は、アリスさえ隣にいてくれたら、それでいいから........」

「ふぇっ.......!?」


そんな恥ずかしいことを言ってしまった俺は思わず頭を伏せてしまう────俺と同じように頬を赤くしてしまってるアリスをチラ見しながら。


「.......た、確かに私もトア君がいたらそれでいいかも、です」

「そっ、そっか......」

「はっ、はい.......」

「.........」

「........」


2人して沈黙してしまう。

何だこの地獄みたいな空間は。

オイラ耐えられない!!!


「と、とりあえず、この後用事があるのでお暇しますね......」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「ひゃ、ひゃい」


帰りそうになったアリスをどうにか引き止める。

すっかり忘れていたが、俺はアリスにこれを言うつもりだった。


「明日の夜......一緒に良い景色を見に行かないか?」

「いい景色......?」

「あぁ.....だって最近あまり遊べてないだろ?だからどうかなって」

「行っ、行きます!」

「大丈夫か?なんか予定あったりとかは」

「ないです!あっても全部どかします!」

「おいおい......」


.......まぁそういうわけで明日、一緒に夜の桜を見に行くつもりだ。

そこで、俺は、告白をするつもりだ。


そうして、次の日となった。


「ふぅ.......」


髪を整え、服だって可能な限りオシャレにしてきたし、告白する時の言葉だってしっかりと、予行練習だってしてきた。

別に、振られても構わない、そんな心意気で、約束の場所へ向かう。


そうして俺は、その道を歩いていた。

アリスのことだ、俺がそういう気持ちを抱いていると勘づいているのかもしれない。

でもそんなことでは茶化さないことだってのは俺がよく知ってる。

だからこそ俺は、メリアを探すのだが.....


「............え?」


そこには、信じられない光景が俺の目に映し出される。

そこにはアリスが、いた........だけど

だけどだけどだけどだけどだけどだけどだけど


「.......なんで?」


真っ赤な......血。


「なんでなんでなんで!?」


何が起きた?どういうことだ!?

どうしてアリスがこんな姿に!?


「あぁ.......お主は」


俺を嘲笑うような声。


「勇者の息子なのに.......所詮は秀才どまりの男か」


声をした方向に.......目を向ける。


「.......お前は」


俺は知っている、この女を。

俺たちが通っている学園の......学園長だ。


「うむ.......貴様が通っている高校の学園長である」

「どうしてっ......どうしてこんなことをした!」

「しょうがないであろう......こいつはそういう運命だった、という話じゃ」

「何が......何がそういう運命だ!!」


怒りと憎悪が、俺の頭を、体を、魂を支配する。

どうしても許せない、殺したくてたまらない。

無惨に、残酷に、引き裂いてやりたい。


「ふむ.......念の為言うておくが、貴様程度じゃあ......我には叶わんのう」


学園長がそんな言葉を吐いた瞬間、俺の意識が朦朧とする。

そう、気づけば俺の腹は貫かれ、血が大量に出ていた。


(くそが........っ!)


攻撃を食らって、気づく。

明らかに次元が違う、俺の手に終えるような存在じゃない。

いや、そもそもとしてアリスが倒されるのだ......俺が、叶うわけが無い。


「ほう.......流石に、アリスはまだ倒されてはくれないようじゃのう」


見れば、ボロボロだったはずのアリスは、立ち上がって、能力での攻撃を学園長にしていた。


「早く.......逃げてっ.......このことを.......お父様方に」

「.......生意気じゃのう、アリス」


学園長は当たり前のようにアリスの攻撃を避け、手をアリスの首を絞める。


「ぐっ........!」

「でもこのまま.......殺してしまうより」


学園長はアリスを地面に強く叩きつけ、その視線を俺へと向ける。


「先に.......勇者の息子を殺すことにしよう」


───ゾワッ。

殺される.......その視線を向けられた瞬間、死を意識させられた。


「ふざけんじゃないわよっ.......!!」


アリスは何とか立ち上がろうとする......が、学園長はそれを許さない。


「カハッ......!?」

「お主はそこで見ておれ.......大切なものが殺される瞬間を」


どうすれば.......いいんだ。

目の前にはかってないほどの強敵。

でもそれでも思ってしまう


(あぁ.......殺したい、あいつを)


イメージしてしまう、強い自分を、あれに勝てる自分を。


(くっ......そ......)


このまま......死ぬのか?

いや、死ぬなんて許されない。だって俺が死んだら次は確実にアリスを殺しに行くだろう。

そんなの、あってはならない......ならないんだ。


(力が......欲しい)


それは俺の切実な願いだった。

でもそんなことを考えていくうちに血が止まらず、俺の意識はどんどん失われていく。


───時を......せ


「......あ?」


────時を、巻き戻せ


一体何が起きてるのかが分からない......でも俺はそれに従って、藁にもすがる思いで唱えた。


「時間遡行」

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100年前に封印された魔王が、才能がない勇者の息子に転生して......⁉︎ りと @Raimgh

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