着ぐるみライオン

夏空 花火

第1話

 ある日、気が付けば群れの中に変なヤツがいた。私たちと同じような毛並みに、立派なたてがみ。しかし、ミーアキャットのようにピンと立ち、胸を張り、そのまま後ろ足二本でスッと歩く。

 いぶかしんだ仲間たちが「おい」、「お前は誰だ」などと問い詰めても、意味不明な鳴き声が返ってくるだけだった。

 見た目は私たちと同じ。何をするわけでもなく、じっとこちらを見てくることはあったが、別に危害を加えてくる気配もない。なので、私はヤツを放っておくことにした。仲間たちも、なし崩し的に、放っておくしかなかったようだ。

 ヤツは、群れの中では、ダントツに足が遅い。草をかき分ける音で獲物には逃げられる。追いかけようとすれば、すぐに転ぶ。本当に狩の時には、役に立たなかった。


 私たちが暮らす環境は厳しい。日照りが続けば、川の水は枯れる。そのたびに、水を求めて移動する。そして、群れのためには弱っているモノを見捨てなければならない時がある。

 頭では、分かっている。でも……でも!我が子を見捨てられない私は、弱っている我が子を必死に咥え、引きずりながら、水を求めて移動する。群れの中から、だんだんと遅れていく私を、一瞥いちべつして進んでいく仲間たち。もう振り返ることもない。みんな余裕がないのだ。

 とうとう最後尾。隣をヤツが歩くだけ。我々親子は、このまま……と思った時、咥えていた我が子を離してしまった。また、咥え直そうたした瞬間、影が差した。ヤツだ。器用に前足二本を我が子の体の下に滑り込ませると、軽々と持ち上げる。無言で、いつも通りの無機質な顔だけど、「オレに任せろ」と言われた気がした。

 まもなく、無事に大きな川にたどり着いた。

 そして、ヤツは、我々の仲間になった。


 この地域では、群れ同士のナワバリ争いが起こることがある。我々の群れは、このあたりでは、大きい。争う前に、相手が逃げることが多かったが、今日の相手は、そうではなかった。相手のボスは、我々のボスより体が一回り大きく、体中が古傷だらけの歴戦の猛者もさのようだ。争えば、どちらにも大きな被害が出るだろう。が、どちらも引くわけにはいかない。舐められたら、自然界では、生きてはいけないのだ。

 先陣を切るボスが飛びかかったら、戦いの合図。私も覚悟を決め、その瞬間を見守る。

 ブオン!ブオン!

 後方から凄まじい風切り音。相手の群れは、一様に目を見開き、一点を見ていた。私もつられて、それを見る。またしてもヤツだ。大きな棒を両前足で持ち、頭上で回転させている。そして、意味不明な雄叫びをあげ、前進する。その光景に、数瞬、呆気に取られたが、今の状況を思い出し、慌てて、前を向く。もう相手の群れはいなかった。はるか彼方を、全力で駆ける背中がかろうじて、見えるのみ。


 次の日、ヤツの姿は、群れの中にはなかった。唐突に現れ、唐突に消える。ヤツっぽいな、と私は思った。

 その数日後、シマウマの群れの中に後ろ足二本でピンと歩くシマウマを見つけた。仲間たちと無言で頷き合い、そのシマウマの群れは見逃すことにした。


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着ぐるみライオン 夏空 花火 @natsuzora-hanabi

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