34 ワーム叩き配信
翌、日曜。13時。
「1位のエセ侍でござる! 見ていただきかたじけない! ありがとうでござる!」
:砂漠?
:このゲートはまさか伝説の不人気赤ダン
:[¥1,000]え? 公開赤ダン?
「公開『赤ダン』でござる! 死ぬほど暑い砂漠でござる!」
この砂漠ダンジョン、マジで人っ子ひとりいない。
公開なのに。まあ入場料1万円だったし、気温おかしいし、当然だと思う。
そして入った途端に俺の魔力がぐんぐん回復した。昨日、島ダンでは、放出したのにあまり回復はしなかった。魔力の使われる優先順位でもあるんじゃなかろうか。
こんなことがわかるようになっただけでも〈魔力操作〉は神スキルだと思う。
「……しかし暑い。暑いしか言えないでござる。エセ太陽に攻撃されてるでござる。なんでこれ公開したでごさるか」
絶対赤字ダンジョン「赤ダン」だ。
:昔はそれでも入る探索者がいたんだ
:公開赤ダン増えまくってるから
:[¥2,000]なんで非公開に変更しないの?
「それ拙者も思ったでごさる。なんで非公開に変更しないでござるか」
:いろんなヤツいるからな
:[¥1,000]魔力供給止めるのも手間と金かかる
:[¥500]もう持ち主の情報も公開されてるわけだし多少金入るかもだし変更する意味ない
:意固地になってんだと思う
:持ち主弱くてワーム倒せないんじゃね?
:[¥10,000]ワーム叩きって?斬るんじゃないの?
……ダンジョン、公開しなくて正解だったかもな。1度公開すると面倒なことになるようだ。
「ご教示ありがとうでござる! ワームは巨大ハンマーで叩くでござる! もぐら叩きならぬワーム叩きでござる!」
言って鞘に入ったままの刀を掲げる。
そして〈擬態〉を変更。
大きな
これだけでは攻撃力が不安なので、打ちつける面に細長いトゲトゲを作る。ハンマーのふりしたモーニングスターだ。
:でかwww
:草
:だから刀の使い方おかしいんよ
:ハンマーの意味間違ってない?
:[¥1,000]それハンマーじゃないww
「ハンマーでござる!」
異論は認めるが強弁する。
ハンマーを肩に担ぎ砂漠を歩き出す。
「あ、暑い上に歩きにくいでござる」
:絵面おかしくて草
:格好はサムライ、武器は洋風コメディ、いるのは砂漠
:[¥5,000]ワームって上に乗らなきゃ出てこなくない?
「ワーム出すでござるー!」
ある程度ゲートから離れたので、叫びながら跳び上がる。振動で出るはずなのだ。
だから、ハンマーを振りかぶり、思いっきり砂に叩きつけた。
盛大に砂が舞う。
一拍おいてワームが2匹、ドバッと砂をぶちまけ飛び出した。牙まみれの口がある巨大ミミズだ。地上に出た部分は5メートルくらいの高さ。
1匹の上空に〈転移〉即座にハンマーを叩きつける。
そしてすぐにまた〈転移〉引っ込みかけたワームを叩き潰す。
するとさらに3匹が追加された。
「どんどん出てくるでござる!」
〈転移〉と〈千里眼〉身体能力系スキルフル稼働。
砂舞いまくり配信だ。撮影も大変そう。
ヤバい。同時に5匹も出てきた。真ん中の方いっぱいいるぞ。
「あー! 1匹逃げられたでござる!」
しかも4匹目がギリで砂を叩いてしまったので更に5匹出てきた。
「こんちくしょー! でござるー!」
汗だくだし。口に砂入ったし。
ヤケを起こして叩きまくる。ワームを横薙ぎに吹き飛ばす。
ワームばっか、なんでこんな大量にいる?
ワームがゲシュタルト崩壊する。
暑すぎて頭おかしくなってきたかもしれん。
なんでここで配信しようと思った、俺?
なんか〈自動回復〉が働いている気がする。熱中症か? エセ太陽からダメージあるの?
けど、俺の魔力全然減らなくない?
減ってもすぐマックスになっている。ここの魔力が飽和状態とかかな。
ワームから吸収できる魔力は大したことがない。最大魔力量、ほとんど増えない。
〈魔力操作〉の感覚を研ぎ澄ませながら暴れまくっていると、やがてワームは出てこなくなった。
:www
:誰も倒さないからフルでいたんだろうなw
:[¥500]倒しきった?
:[¥10,000]すげえww お疲れww
:[¥1,000]これ、魔石あつめ無理じゃね?
:収納あるエセ侍はいいけど普通は砂に埋まって無理だから余計不人気
いや、さすがのAIもいくつか魔石を逃したように見えた。まだ高性能マシンないし。あとで文句言われそうだ。
「ふう……てことで、配信終わりでござ――」
「待って! 待って!」
「サインください!」
「エセ侍ー!」
振り返ると、ゲートの方から男性3人がこちらに向かって来ていた。
ドローンも連れている。配信者か。
「あっつ、死ぬっ」
「さ、サインくださいー」
「はぁ、はぁっ……」
3人ともヤバそう。顔真っ赤。なんで来たし。1万も入場料払って。配信に命がけかよ。
ハンマーの柄を砂に深く突き立て〈擬態〉
巨大なパラソルを作り出す。せめて日光だけは遮っておく。
〈魔力操作〉のお陰で〈擬態〉もさらに使いやすくなった。
「日陰ありがてー!」
「ありがとう!」
「あ、ありがと! あ、握手してください!」
ズボンで手をぬぐって差し出してきたので応じる。3人と順番に握手。
「……大丈夫でござるか? 大丈夫には見えないでござるな。水持ってるでござる?」
「あ、や、出たら飲みます!」
「……持ってません」
「ごめんなさい」
自殺願望者かよ。
〈収納〉から新品のペットボトルを3本出して配る。
三者三様に礼を言って飲みだした。俺より少し年下に見える3人だ。
「サインください!」
買い物袋から新品の色紙3枚とマジックが出てきた。なんか持ってるとは思ってたけど……。
「……砂漠行くときは、色紙買ってないで水買うでごさるよ。サインなんて考えてないでござる。字汚いし、勘弁して欲しいでごさる」
「あ、じゃあ、拙者侍故って書いて下さい!」
「ん!? 難易度上がってるでござる! 話聞くでござるよ!」
なぜか目がキラキラして見える話を聞かない3人に根負けし、頑張って丁寧に字を書く。
希望通り「拙者侍故」と「1位のエセ侍」と「侍」の3枚。俺は頑張った。
「ありがとう! ほんとに字、下手ですね!」
「蹴り出すでごさるよ!?」
「コラボしませんか!?」
「いましてるでござる! 成り行きで!」
「パーティ組みませんか!?」
「黙るでござる」
俺は、自由すぎる3人の服を引っ掴み、強引に〈転移〉でゲートまで運んだ。
そしてダンジョンから蹴り出した。
あれたぶん熱中症目前の阿呆だ。目、ぐるぐるしてきてたし。塩も与えなきゃダメだったかもしれない。
:ほんとに蹴り出したwww
:変なのにからまれてて草
:[¥10,000]日陰作って、水とサインあげて、そして蹴り出すの優しいww
:まったく砂漠行く格好じゃなかったな エセ侍もだけど
「てことで! ありがとうございました! 配信終わりでござる! また見てほしいでごさるー!」
あんなのがまた来ると厄介なのでとっとと終わらせ〈擬態〉を変更してダンジョンを出た。
ダンジョン探し、頑張るか。公開ダンジョンは面倒そうだ。
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