第39話 英雄と言っても、過去の人である。
「何を企んでいるのか知らんが、碌なことじゃないことは確かだな」
ガイは槍を構えてカゲノォの向かい合う。ガイの所へトラレッター、エクス、ホーリー、ツンデレナが集まる。
「こいつは死霊術師だ。さっさとこいつを倒してあいつらのところへ行くぞ!」
「はい!」
返事をする4人。
カゲノォは苦々しい表情て彼等を睨みける。
「竜騎士のガイともう一人、元冒険者の女に他はガキ3人。それだけでこの私を止められるとでも思ったか!その思い上がり、後悔させてやる!」
カゲノォは懐から骨の欠片を取り出す。
「我が命に応えよ!古の英雄たちよ!」
カゲノォが死霊術を唱えると骨片が宙へと浮かび上がり、人の形を成していき、彼等の目の前に3人の男が姿を現した。
「それは…!貴様!何を喚んだ!」
「ふふふ…その昔英雄と呼ばれた男達さ。行け!我が下僕と成り下がった英雄!リック!ピッテン!カバハーン!」
「ちぃ!厄介な連中を喚んだもんだねぇ!」
トラレッターは舌打ちをしながら呟く。
トラレッターは元は名の売れた冒険者だ。だからこそ、同じ道を歩んだ英雄に関して熟知している。
1000人殺しの剣の達人。
死神リック
完全無欠と言われた騎士
黄金のピッテン
雷の魔法の始祖である大魔法使い
雷帝カバハーン
どれも北の国では子供でも知っている英雄だ。
死霊術は特定の人物を召喚するには本人に纏わる物を触媒として召喚する。それが本人の身体であるなら生きていた頃と遜色ない実力を発揮することができる。
ただ、それは召喚する者に縁のある物をどれだけ多くの触媒に使ったかによるため、僅かな骨片で召喚された英雄である彼等の実力は生きていた頃に及ぶことはない。
それでも弱くはないのだ。
ガイはピッテン、トラレッターとエクスでリック、ツンデレナはカバハーンと対峙する。
ガイの激しい攻撃を全て盾で受け止め、時折鋭い突きを放つピッテン。
エクスが攻撃を受け、トラレッターが斬りかかるも、回避されてカウンターを入れてくるリック。
ツンデレナとカバハーンは雷の魔法と土の魔法の撃ち合いが絶え間なく続けられている。
どれも互角以上の争いだ。
そんな激闘をカゲノォは高みの見物と洒落込んでいる。
「ほう…全盛期には及ばないと言えども英雄。そんな彼等とここまで争えるとはな…腐っても冒険者学校の生徒というわけか。侮っていたよ。しかし…いつまで続くかな?」
人が全力で動ける時間は少ない。しかし屍人は疲労も恐怖も痛みもない。半永久的に動けるのだ。
それは持久戦では勝ち目がないことを示している。なら短期決戦なら?
相手は実力者だ。それだって難しいだろう。
カゲノォは勝利を確信している。
「流石は音に聞く雷帝カバハーン。やりますわね」
魔法の撃ち合いをしているツンデレナは強がりとも取れる呟きを漏らす。それはカゲノォにも聞こえた。
「ふふ…強がりとは令嬢らしくないな。素直に殺されたらどうだい?綺麗な顔に傷をつけて死にたくはないだろ?」
「ふざけないでくださいまし!こんな所でやられるような軟な鍛え方はされてませんことよ?!」
ツンデレナは再度土魔法を飛ばす。カバハーンはそれを雷の魔法で撃ち落とす。
それは戦いが始まってずっと続いている攻防だ。
お互いに初級魔法だけで応戦している。初級魔法の撃ち合いが続く中、カバハーンが動く。
カバハーンが空を指さすと雷雲が立ち込めた。
「ははは!カバハーンの生み出した雷魔法!ジャッジメントで灰になるがいい!」
カゲノォが叫んだ直後、雷がツンデレナの元へと落ちる。
「英雄にここまで食い下がった実力だけは認め目やろう。小娘」
雷が落ちて土煙をあげているツンデレナのいた所に称賛とも取れる言葉を投げかけるカゲノォ。
「あら?もう勝利宣言?早すぎますわ」
「なんだと?!」
土煙の中からツンデレナが姿を現す。
そして。
「ジャッジメント!!✕2」
ツンデレナからカバハーンが落とした雷より更に大きい雷がカバハーンに直撃した。それによりカバハーンの身体は崩れ落ち、灰となって消えた。
「何故!何故だ!何故カバハーンがこんな小娘如きに!?」
「…確かに、カバハーンは雷帝の二つ名を持つほどの英雄。本来の力を発揮できればもっと苦戦してましたわ。でも、負けることはありませんわね」
「なん…だと?」
「カバハーンの時代は今から150年前、あれから装備も魔法も進化してますわ。とりわけ…魔法技術は過去に類を見ないほど進化を遂げた黄金時代があったことをお忘れかしら?大賢者マーリンが魔法に革命を起こして、その影響で世界大戦が二度に渡り起こり…更に戦争によって生み出された技術があり、私達はその更に先を学んでおりますのよ」
戦争によって技術は新しい物が生み出され進化する。それはどんなものでも同様のことが言える。彼女の魔法は何千何万の魔法使いが鎬を削りあり、その屍の上に築き上げられ到達した現代の集大成なのだ。
それは魔法だけじゃない。武具はより軽く、より硬く、より丈夫に進化し、それは素材から違ってくる。
ピッテンが活躍するしていた当時、最も硬いと言われていた金属で作られた盾は現代の技術で再現することは出来ない。それは過去の技術が優れているわけではなく、進化して必要がなくなったから廃れた技術なのだ。それはリックを代表する剣も同じだ。
過去の伝説を築いた武具は現代のより進化した武具に及ぶことはなかった。ピッテンの盾はボロボロになり、リックの剣は折れた。
武具を失った英雄はただの人だ。
ピッテンとリックはそれぞれ討ち取られて灰になって消えた。
「さて…残りは貴様一人だ。大人しく縛につけ。身柄は警察に引き渡す」
ガイが槍の穂先をカゲノォに向ける。
カゲノォは少しだけ呆けると、大声で笑い出した。
「…何がおかしい?」
「おかしい?おかしいさ!英雄を倒されたからと言って私が何も出来ないただの死霊術師だと思っているのか?甘いな。舐めるなよ…竜騎士…」
カゲノォは上着を脱ぐ。脱ぐと鍛え抜かれた肉体が現れる。
「来い…私一人でもできるという事を立証してやる」
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