第35話 鬼が来る!
宴会まで開かれて飲めや歌えや踊れやの時間を過ごせば大体は仲良くなれるもの。
飲みニケーションとはよく言ったものだ。
俺は酒は飲まずにお茶を飲んでいたが、越前は大人達に枸杞路と一緒に捕まって酒を飲まされていた。次の日は2人とも酷い二日酔だったのは仕方の無いことだ。
俺は一人、里の周りを歩きながら鬼の襲来がどこから来るのかを予想する。
ゲームの中ではそんな詳しい場所まで書いてある訳もなく、気が付いたら里が襲われていたという警備は何をしていた?と疑問が残るものだった。
逆を言えばそれだけ相手も用意周到に準備を進めていたということなのかもしれない。
周囲を散策しながらテキストを思い返す。
テキストでは退魔師が待機している屯所が主人公が飛び出した時には壊滅させられていた気がする。
その屯所は里の外れにあり、その背後には下り降りるには急すぎる崖がそびえ立っている、
「多分、あそこからだな…」
思い出したのは一ノ谷の戦い。かの源義経の逆落としで有名な戦だ。急な下り坂をウマで駆け降りたというエピソード。奇しくもそれを鬼がやってのけるというのだからわからないものだ。
但し、鬼は馬に乗らないのだから文字通り自分の足で駆け降りたのだろう。
駆け登るなんて珍しくも面白くもない。
駆け落ちろ!!!!
バキかよ。
駆け降りた時に欠伸は出なかったか?
そんな事がふと頭を過ぎる。
だが、奇襲とは相手の想像もつかないことをやってのけるから奇襲なのだ。想像できるなら奇襲にならない。
逆を言えば"奇襲をかける側は自分が奇襲を掛けられることを想定出来ない"のだ。
「ふふ……良いこと思いついちゃった」
奇襲がいつ来るかまでは流石に分からないから、俺は早速返り討ちの策を仕込み始めた。
数日後の深夜。
新月で月もない闇夜の崖の上に鬼達が集まる。数は20名ほどの多くはない数字だが、人よりも強靭で奇襲をするとならば戦力としては十分だ。
彼等の見下ろす先には退魔師が控える屯所がある。
「遂に…今宵…奴等を皆殺しにする日が来たぞ」
その言葉に鬼達は思わずニヤける。男は皆殺し。若い女は孕み腹として連れ帰る。それ以外は殺す。退魔師は総じて高い魔力を待つ。きっと強い鬼が産まれてこの国を蹂躙する日が来る。そう思うだけで胸の高鳴りを感じた。
「さあ!行けぇ!奴等を根絶やしにするぞ!」
鬼達は一斉に崖を駆け下りる。屯所を一気に制圧して抵抗力を奪う為だ。
崖を物凄い勢いで駆け下りる鬼達。
崖の中腹に差し掛かった頃だ。
「うわぁっ!」
前を突き進む数人の鬼達が次々と転んで地面へと叩きつけられる。それは数人だけではない。連れてきた多くの鬼達が躓いたように崖を転がり始めた。
そして、地面に叩きつけられ動かない。
始めはマヌケな奴が転んだだけだと思えた。しかし数が多すぎる。
地面に無事に辿り着けたのは5人ほどしかいない。
戦力としては少なすぎるが、奇襲を諦めるほどでもない。
その時だ。崖を背にする屯所の裏庭。彼等が辿り着けた場所に一斉に松明に火が灯り一気に明るくなった。
奇襲を指揮していた鬼はここで奇襲に完全に失敗していたことに気がついた。
庭が明るくなると2人の男女が屯所から飛び出して次々と鬼達を討ち取っていく。
「くそ…!なぜだ!」
庭で槍を持った男が崖を見下ろす鬼を見る。
そして、手招きをした。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
本来ならここで引き返すべきだった。
たが、その鬼はプライトが高すぎた。舐められるのが我慢出来なかった。
「貴っ様〜〜〜〜〜!!!!」
鬼は崖を飛び降りた。
俺は昼間に崖の中腹辺りにトラップを幾つも仕掛けた。
それは杭を打ち付けて紐で固く結んだだけの足を引っ掛けるものだ。鬼は夜目が利くと聞いて全て黒で塗りつぶすほど徹底させた。
効果は絶大。そこに罠があるとも思わず足を引っ掛けては鬼達が転がり落ちる。そして、その転がり落ちた先には落とし穴かあり、竹槍がいくつも刺さっている。転んだ鬼達はもらなく竹槍に串刺しになった。
僅かにトラップを運よく逃れた鬼は地面に降りたった所で俺と枸杞路、そして屯所内で銃を構える越前に討ち取られていく。完璧すぎるカウンター。
俺は上にある最後の鬼を挑発する。
ここで引き返したなら手強い相手なのかもしれない。だが、挑発に乗って鬼は崖を飛び降りた。
そして、ドシン!という大きな音を立てて地面に着地する鬼。
俺はこの時気が付かなかった。
鬼が飛び降りた地面が竹槍トラップを仕込んだ落とし穴のすぐ後ろということを………………
体重もかなりあったのだと思う。
その重さに耐えきれず、落とし穴の角の土が崩れ………
「うわああぁぁぁ!!!」
後ろから落とし穴に自分から落ちた。
暫く待っても登ってこない。そんなに深く掘った筈はない。何故来ない?
ゆっくりと落とし穴に近づいて穴の中を覗くと…
「………ぇ〜〜〜〜〜〜」
鬼は頭を竹槍で貫かれて死んでいた。
「師匠!私達の勝ちですね!策だけで勝つなんて!流石は師匠です!」
「やったな!オクト!やっぱお前はすげぇ男だよ!」
待て。
待って欲しい。
俺は何もしちゃいない。
まあ、何も相手にさせないで勝つのは最上なのはわかる。だが、この終わりはあんまりじゃないか?
話として。
「…………ぇ〜〜〜〜〜〜…………」
この気持ちを何処にぶつければ良いのだろう?
喜ぶ2人を背に俺は一人悲しい気持ちになった。
2日後。
鬼の奇襲を予言し、僅か三人で迎撃に成功したとして枸杞路の里から英雄として扱われた俺達。
俺は謝礼を受けとるとアヴァを連れて街へと帰る。2人はその功績が認められて枸杞路と越前は婚姻を許された2人はそのまま残り、婚姻の儀を済ませてから学校に戻るそうだ。
先生に続いて枸杞路も俺の元を離れた。
実に素晴らしい。ハッピーエンドだ。どうか2人はこのまま幸せな日々を送ってほしい。
俺は帰りの列車の特上席に座り、俺の膝枕で寝ているアヴァの髪を優しく撫でながら流れる景色を眺めていた。
そして、夏休みも終わり、学校が始まった日……
「いや〜あの後盛り上がっちゃってさ〜!な〜!静香〜♡」
「も〜!恥ずかしい〜!あ・な・た♡」
何故俺は教室でこのバカップルの話を聞いていなければならないのだろうか?
「枸杞路。お前、教室違うだろ?自分の所に行けよ」
「酷い師匠!ボッチでボク達のことが羨ましいからって愛し合うボク達を引き離すの?!」
「そうだぞ!オクト!見損なったぞ!」
「なんで常識的な事を言った俺が責められなきゃいかんの?」
お前等の幸せを願った俺の祈りを返せ。
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