第13話 交渉のイロハとは

冒険者に求められのは何か?と問われればまっさきに思い浮かぶのは『強さ』だろう。

それはどんな依頼にせよ、強さがなければどうしようもないものばかりだからだ。しかし、強さだけではやっていけない。それでは賊などの犯罪者と変わりがないからだ。

そのため、冒険者には一定の品才も当然求められる。それは名前が売れていけば、高貴な者からの依頼や紹介もあるからだ。それらを受けられるようになるまでは冒険者ギルドからの信頼というものがなければ紹介されない。依頼をちゃんとこなすというのは勿論だが、礼儀作法や言葉遣いなども当然必要となってくる。


そして、もう一つ重要なことがある。

それはどこの世界でも同じことが言えるのだが、交渉術である。

依頼主は出来る限り安く請け負って欲しい。そのため依頼された任務の難易度と報酬が釣り合わないことは多々ある。それはギルドの審査を通して緩和はされるのだが、審査を通り適切な難易度と見合った報酬であったとしても、時として依頼になかった追加の依頼であったり、予測不可能なイレギュラーな出来事が起こることもある。そういうことになれば追加報酬を冒険者は請求することが認められているのだ。

個人で勝手に請求するとトラブルも多いので殆どの冒険者はギルドを通じて追加報酬の審査を依頼主に要求するのだ。稀に時間が取れずにその場で交渉して後日報告するケースもある。

冒険者ギルドは冒険者の生活を守る為に、そして依頼主が不当な請求をされないように交渉に立ち会うのが原則だ。そこで少しでも多くの報酬を受け取れるように、依頼主からの信頼を勝ち取るために交渉術が必要なのだ。

冒険者学校では、そういった場面に出くわした時の対処や交渉の仕方なども授業として組み込まれているのだ。


「このようにギルドの審査を受けた依頼であっても追加で依頼されることもある。追加があるかないかで報酬も変わってくるので、追加の依頼をしやすい雰囲気作りというのも冒険者として必要な要素だということがわかったと思う。では、その雰囲気作りに必要なこととは何か?それがこれだ」


交渉術担当の先生が黒板にF、A、E、S、と箇条書きのように書く。


「さて、この頭文字からFAESヘェイセズと我々は呼んでいる。これが何を指すのか…そこの君。Fが何を指すか答え給え」


「えっと………顔…フェイスでしょうか?」


「ふむ、半分正解だ。この場合は表情というのが正解だ。例えば睨みつけるような怖い顔で話せば相手は萎縮して依頼をしてくれないことがある。最悪、正当な請求であったとしても不当な請求を強要されたとギルドへ報告がいくだろう。そのため、相手が話をしやすいように穏やかな表情で、話をしている時は真剣な表情で相手に話しかけないと依頼主は心を開いてくれないぞ。では、次!そこの君!Aは何なのか。答え給え」


「……わかりません」


「AはAttitude。態度だ。ふんぞり返った態度で話を聞いていては依頼主は冒険者のことを信頼してはくれない。聞く態度というものがある。真剣に話を聞いてくれる冒険者を信頼して依頼をしてくれるのだ。そうして信頼を勝ち得たら多少報酬に色をつけてくれる依頼主もいる。そういう人を見逃すな。事実、冒険者として稼いでいる者の依頼の多くがリピーターだからな。では次!Eは何か?君、答え給え」


「アイズ。目です」


「正解だ!相手の目を見て話す。これだけで依頼主は真剣に話を聞いてくれていると思い、冒険者のことを信頼してくれる。目を見るのが苦手なら相手の鼻や口の周りを見るといい。やらない手はないぞ。皆、覚えておくように」


俺は真剣にこの授業を聞いている。

実に理論的なことを教えてくれる、それでいて明日からでも使える実用性のあるものばかりだ。

こんなこと前世でも教えてくれる人はいなかった。俺はこの授業に感動すら覚えている。もしかしたらこの世界は心理学が発展しているのかもしれない。そう思えるほど分かりやすい。


「さて、最後にSだが…君、わかるかね?」


先生は手にもった指示棒を俺に向ける。

今までの流れからして答えは明白だ。

俺は自信を持って答えた。


「Smileです」


やはり交渉術の基本は笑顔だからだ。


「残念。不正解だ。それならFの表情の部類に入るから笑顔のSmileではない」


なんと!違うというのか?!

これしかないと思って答えのだが、まさか不正解とは思わなかった。他の答えなど思い付くはずもない。


「すみません。わかりません」


「ふむ…少々難しかったようだな。仕方が無い。では、答えを教えよう。その答えとは……」


その答えとは………?!








「もちろんそうだよ Say Kou Show!」







思わず机にヘッドダイブをかましそうになる。

性交渉をカッコつけて言うなよ!


クラスの皆は成程!と言わんばかりに頷いている。


やはり、この世界はバカしかいないのかもしれない。

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