第5話 聖女が慈悲深くお淑やかと誰が決めた

この世界では当然、聖女という人が存在する。


では、聖女とは何か?


それは神聖力が常人よりも遥かに高い女性の事を指す。当然、聖女という言わばシンボルのような人は最初から、神託のようなもので選ばれるものではなく、多くの候補者の中から実力と才能で選ばれるものなのだ。

なのでこの学校には聖女候補生という女子生徒がいる。


ホーリー・サギ


教会が認めた聖女候補生の1人で当然ハーレムメンバーである。

よく聖女である彼女が快楽に目覚め………などという展開はあると思う。

彼女もまたその類ではあるのだが………





彼女は主人公と肉体関係を持つ時、主人公を何度も刺しては回復魔法をかけて、傷が治っていく様子を見て興奮を覚える人なのだ。

氷の微笑も真っ青である。

傷が治っていく様子を見て興奮して悶えるという、聖女とはなんなのか問い詰めたくなるようなキャラなのだ。


真正のドMな人には刺さるかもしれない。


そして今日。俺はサイコパスな聖女候補生と学友と共に屋外実習の一環として街の下水道の巡回に来ているのだ。

下水道は浮浪者や犯罪者は勿論のこと、魔物も徘徊している。ほっておけば時としては魔物の変異体が現れる危険性があるため、たまに巡回して間引いて発生を防ぐのは冒険者の仕事なのだ。

学生とは言え、俺達は冒険者を志す戦闘訓練を日々積み重ねた学生なのだ。


「うえ〜〜〜臭い〜〜〜!」


ヒロインのミナは鼻を摘みながら嫌そうに言う。

そりゃこんなことできればやりたくない。

やりたくないが誰かがやらなければならないのだ。その役目が冒険者である。

幸い、ここに出てくる敵はそう強くはない。駆け出しの新人にも出来る内容なのだ。

それでも油断したら死ぬこともあるから、気をつけなければならない。


聖女様は敵が弱いことに不満気な顔をしている。


「ここで誰か死にかければ、神聖術をかけられるのに…」


教会に問いただしたい。

聖女候補の審査基準間違ってないか?


「何事も無事で済めば、それにこしたことはないさ」


そう、何事もなければだが。


この屋外学習で済む筈の下水道探索。

聖女イベントの一つなのだ。

ここで一つ事件が起こる。

この下水道にダンピール。人間と吸血鬼のハーフと言うべきか、ヴァンパイアの慣れ損ないが潜んでいるのだ。

この世界では吸血鬼と言っても、彼等は自らを高貴な者として自負しているため、やたらむやみに人を襲う事など高貴な者のすることでないとしてやらない。


やるからにはもっと上手くやる。というたちの悪さはあるが。


しかし、ダンピールは人、ヴァンパイア、種族関係なく無差別に襲う。生き物ならなんでも良いのだ。

そのためダンピールはヴァンパイアからはケダモノとして蔑まれ、人間からは魔獣として扱われるため、両者に牙を剥く厄介な存在なのだ。


下水道を進んでいくと、鼠の死体を見つける。


「うわ!なに………あれ……」


ヒロインの声を無視して死体を確認する。

鼠の死体にはくっきりと犬歯の跡があった。そして異常に細くなった体。

間違いない。ダンピールがいる証拠だ。

どうやら聖女もその死体の異常さに気がついたようだ。息を呑む音がする。


「ダンピールがいるようですね………怖いわ…」


俺はお前のほうが怖いです。

 

喉元まででかかった言葉を飲み込み、先へと慎重に進む。

下水道に潜むダンピールはゲーム内での最初のボス戦でもある。成長が未発達な初期でも勝てる弱い相手なのだが、とある理由で厄介なボス戦という仕様になっている。

それは……


「みんな!鼠よ!数は6!」


チョロインが敵の接近を知らせる。

数は多いとは言え、下水道のエリアではゲップが出るほど遭遇する雑魚敵だ。

鼠はすぐに殲滅させられる。


無事、戦闘が終わりホッと息を付くその時。陣形を組むパーティーの後ろから襲いかかる影をとらえた。


「来るぞ!バックアタックだ!」




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