旅勃ち④

「ティンコ……」


 どこか眠気を誘うような、まるで幼女のような甘ったるい声で、ティンコを呼ぶ者がいる。


 ティンコが振り返ると、そこには地球ではほとんど絶滅してしまったが、金球では最もポピュラーな衣装のひとつである体操服ブルマ姿の男の娘が立っていた。


 フワリ=マルデロリ=スクミズキセタイ。

 ティンコの幼馴染であり、一番の強敵ともである。間違えた、友である。


 金球において男の娘は神聖な存在であり、彼らの美しさを際立たせるために身体のラインを強調する衣装が求められてきた。

 そして、長年の研究の末に導き出された結論が『体操服ブルマこそ、男の娘を最も美しく見せる衣装である』という考えだと言われている(諸説アリ)。


 胸のゼッケンには平仮名で『ふわり』と書かれている。男の娘の名前を平仮名で書くことも『流れるような曲線を用いることで、優しさや包容力を身につけられるように』という願いが込められた、やはり古からの習わしであった。


 フワリの金色のサラサラの髪が、朝日を帯びてキラキラと輝いている。

 惜しげもなく露出された手脚は白くて細く、強く抱きしめると折れてしまいそうで庇護欲をそそる。

 そして、ピッタリと肌に張りついて、ほんの少し、目を酷使させてほんの少ぉ〜〜〜〜〜しだけ股間部の膨らみを確認出来るような気がするようなしないようなブルマが、今はもう離れ離れになってしまったはずのティンコのティンコ(イマジナリーティンコ)を切なく疼かせるのだった。


(フワリは男……フワリは男なんだ……)


 ティンコは自分自身と、自身自身の自身自身(イマティン)にそう言い聞かせる。


「ティンコ……?」


 催眠音声の催眠誘導パートによくあるような『はぁい、深呼吸してリラックスしてください……♡ わたしが三つ数えたらあなたは体に力が入らなくなります……♡』辺りのような囁きで、不思議そうにティンコを呼ぶフワリ。


 ━━その時だった。


「ざぁ〜こ♡」

「ざこ♡ よっわ♡ きっも♡」

「くっさ♡ くっさぁ〜♡」


 普段は夜にしか現れないはずの『奴ら』の声が響いたのは。

 村全体に戦慄が走る。

 甘々の催眠編が幕を開けると思いきや、突如響き渡る罵詈雑言の数々。

 それはまるで甘く切ない百合漫画だと思って読み進めていたら、突然男が出てきたときの衝撃のようだった。書いてて思ったけど、金球にガールズラブの概念はないので今の例えはどうなんだろうか。


 メスガキたちがド◯ゴンボールでセ◯ゲームに参加する戦士たちのように空から村へと降り立った。

 

「めっ……メスガキだ! メスガキが出たぞぉぉぉぉぉ!!!」

「ひにゃあぁぁぁぁぁ!!!」

「らめぇぇぇぇぇ!!!」

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