川崎が異界と繋がってしまったので探偵として街の平和を護ります2

@CircleKSK

アイドルは走る

第1話 仲見世通り

 川崎市川崎区。人口約23万人で政令指定都市の中心部。異界と現世が入り交じる奇妙な街。

 日常と非日常が交錯するこの場所では、どんな出来事も当たり前のように受け入れられ、すぐに忘れ去られる。


 俺はこの街で探偵業を営んでいる。事務所は仲見世通りのカラオケボックス「レインボーブリッジ」の裏手にある雑居ビルの二階。何の変哲もない一室だが、ここで俺は日々、奇妙な事件に関わっている。


 その日、事務所に現れたのは、白石という男だった。表向きは芸能事務所の社長だが、裏社会にも顔が利く、何かと俺に仕事を依頼してくる人物だ。


 「佐藤さん、ちょっといいかい。」


 黒いスーツに身を包んだ白石が、ソファに座るなり言った。手に持っていたのは、無造作に投げられたタブロイド紙だ。


 「また芸能人スキャンダルのもみ消しですか?」


 俺が言うと、白石はすぐに首を振り、タブロイドを広げ、そこに載っている記事を指差した。


 「うちのアイドルを狙っている男がいる。」


 記事には、「異界系アイドルれいかを追い詰める謎のストーカー」という見出しが踊っていた。写真には、女が何かを警戒するような顔をして歩く姿が映っている。


 「ストーカー?」

 「そんなレベルじゃない。れいかの力が狙われているんだ。れいかには、異界と現世を繋ぐ力がある。それを手に入れれば、人間の枠を超えた恐ろしい力を得ることができる。」


 俺は無言でタブロイドを睨みつける。


「それと、数日前から黒木からの連絡がない」


 白石の側近、黒木。指定暴力団「蜷川会」の幹部でもあり、白石を裏から支えている。そいつが何も言わずに消える理由は――。


「頼む、れいかを守ってほしい。これが報酬だ。」


 白石はポケットから封筒を取り出した。封筒を開けると、中にはかなりの金額が入っていることが分かる。俺は封筒を手に取り、その中身を確認することなく頷いた。


「わかった。ただし、余計なことはするなよ。」


 それから俺は、堀ノ内の有名なソープランド「フルーチェ川崎校」を訪れた。この店は、異界に関する情報が集まる場所としても知られており、店長は異界の案件に詳しい人物だ。


「れいかのことだろ?」


 店に入るなり、店長は電子タバコをふかしながら目を細め、軽く言った。


「ああ、そうだ。」

「れいかを狙うストーカーの名前は『松居』。前にうちの店でトラブルを起こしてね。免許証のコピーがあるはずだ。後で住所を送るよ。」

「ありがとう。」

「でも、あんなチンピラがれいかの“力”を狙うなんて大胆なことをするかね?」

「どういうことだ?」

「れいかの“力”の話は、この辺の業界じゃ有名な話だ。あんたが気をつけなきゃならんのは、おそらくその裏にいる連中だな。」

「松居の背後の存在?」

「そうだ。だから、ただのストーカー退治だと思ったら、ただじゃ済まないかもな。」

「わかった。調べてみる。」


 俺は店長に紙幣を数枚渡し、店を後にした。そして、れいかの身辺を調べるため、周囲の情報を集めていくことにした。


 れいかには異界と現世を繋ぐ力がある。松居はそれを手に入れようとしている。単なるストーカーではない。その力を使って、現世に新たな秩序を築こうとする者たちが背後にいるのだ。

 だが、黒木の失踪が示す通り、これはもっと大きな陰謀の一端に過ぎない。その陰謀が何を目論んでいるのか。れいかの力を手に入れようとしている者たち、その正体は――まだ暗闇の中にある。

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