23. 前奏
その瞬間、アエラさんが深く、完全に私の腕の中に倒れ込んできた。彼女はすべての痛み、後悔、そして罪悪感を吐き出した。彼女の啜り泣きが部屋に響き渡り、窓の隙間から差し込む陽の光が、彼女の悲しみと嘆きを慰めるかのように寄り添っていた。
私は何も言えなかった。悲しみに溺れるアエラさんに、一体何を言えばいいのだろう?私にできるのは、震える彼女の体をそっと抱きしめ、優しく背中を撫で、叩くことだけだった。まるで母が私にしてくれたように。彼女の凍てついた心に温もりを、苦しそうな息遣いに安らぎを与えられたらと願って。
その時、時が止まったように感じた。まるで時さえも、アエラさんの悲しみと涙を分かち合っているかのように。
長い時間が過ぎた……
少なくとも、私にはそう感じられた。
アエラさんは今、ベッドに横たわる私の体の傍らに座っていた。なんとか落ち着きを取り戻したようだ。涙は止まり、彼女の美しい顔を濡らすことはなくなった。今は、その白く愛らしい頬に、薄い紅潮が浮かんでいる。
ああ……大人の女性として、取り乱して私の腕の中で泣いてしまったことを恥ずかしく思っているのだろうか。アエラさんにも、こんな可愛い一面があったのですね。もし自覚していなくても、お許しください、アエラさん。今の貴女は、とても愛らしいと私は思ってしまうのです。
「あの……エレナ……あ……ごめんなさい!さっきは取り乱して、貴女の腕の中で泣いてしまって。」
アエラさんは恥ずかしさを隠すように顔を伏せながら言った。
「いえ……そんな……アエラさんが私に謝る必要なんてありません。むしろ……謝らなければならないのは私のほうです。許可も得ずに、抱きしめてしまって。」
私の言葉を聞いて、アエラさんは頬を膨らませ、むっとしたように私を睨みつけた。そして言った。
「そうよ!そうよね!一体どうして急に私を抱きしめたの?他の人に見られたら、どんな風に思われるか……!もしかして、貴女は見境なく可愛いお姉さんを抱きしめるのが趣味なの?」
「なっ……何を言っているんですか、アエラさん?!私はそんな変な人ではありません!そ、それに、そんな悲しい話を持ち出したのはアエラさんのほうじゃないですか。それに、その後とても辛そうに見えたので。だから、そのお顔の悲しみを和らげようと思って、つい……」
「それに……アエラさんこそ、私がこうして横になっているのに、いきなりお腹を撫でたりして。もしかして、アエラさんは私のような無垢で世間知らずの女の子をからかうのが好きな大人の女性なのですか?」
気が付くと、私はアエラさんに対して、とても失礼な言葉を返してしまっていた。私は何を?これは大変無礼なことだ!お許しください、アエラさん!ですが、私にも言い分があったのです。ですから、重ねてお許しください。
「この生意気な娘!」
突然、アエラさんは私の左頬を指で強く摘まんだ。
「痛っ……痛いです!アエラさん……やめてください……アエラさん!頬を引っ張るのはやめてください!」
「これは、そんな失礼なことを言う子への罰よ。いい教訓になったでしょう!」
「痛いです……アエラさん!はい、はい……申し訳ございません!ですから、どうか頬を引っ張るのはやめてください!待って……アエラさん、少しだけ止めてください……ほら……ドアを見てください、アエラさん!あそこを見てください!」
私はドアの方を指さしながら叫んだ。
「ドアに何が?え… ステラ... いつからそこにいたの、私の可愛い子?」
ドアのところに、先ほど私を「白雪姫」と呼んだ小さな女の子が、静かに私たちを見つめて立っていた。彼女の表情は、私たちを観察している間、私には解釈するのが難しいものだった。
「ね……ママ……『白雪姫』のお姉ちゃんは、ママの恋人なの?」
あ……いや……違う……違うんだ、可愛い女の子!全然違うんだ!
私は女の子の言葉に心の中で叫んだ。これはアエラさんのせいだ、アエラさん、どうか娘さんに説明してください。お願いします!
「え……いや……違うわよ……何を言ってるの、ステラ?どうしてこのお姉ちゃんがママの恋人だと思うの?」
「だって、ママはずっとそのお姉ちゃんの腕の中で泣いていたから。」
ああ……最初からずっと見ていたのか。迂闊だった!これもアエラさんのせいだ!
「え……それは違うのよ、ステラ!ママにとって、このお姉ちゃんは……」
アエラさんはしばらくの間、私を見つめていた。私たちの状況を説明する適切な理由を探しているようだった。しかし……
突然、彼女は私を抱き寄せた。何をなさるのですか、アエラさん?!
そしてアエラさんは娘に話し始めた。
「そう……このお姉ちゃんは、私の、一番上の娘みたいなものなの。そうなのよ。そして、この『白雪姫』のお姉ちゃんは、私のことをお母さんだと思っているの。そうでしょう、エレナ?」
アエラさんは私に、「いい加減に合わせてちょうだい、愚かな娘」と言わんばかりの威圧的な視線を送ってきた。
私はぎこちない笑みを浮かべ、その小さな女の子に言った。
「あはは……そうだよ、ステラ。私はアエラさんのことを、本当のお母さんみたいに思っているんだ。だから、ステラがアエラさんを愛しているのと同じように、私もアエラさんを愛しているんだ。」
すると、ステラの顔にぱっと明るい笑顔が浮かび、こう言った。
「じゃあ、『白雪姫』のお姉ちゃんは、私のお姉ちゃんなの?」
え?いや……違う……違うんだ、ステラ、そうじゃないんだ!アエラさん、娘さんに説明してください。しかし……アエラさんの返答は、私の予想を大きく裏切るものだった。娘の言葉を聞くと、彼女は嬉しそうに手を叩いて言った。
「ああ……そうよ、その通り!この綺麗なお姉ちゃんは、ステラのお姉ちゃんなのよ!」
何を言っているのですか、アエラさん?!
躊躇することなく、ステラという名の小さな女の子は駆け寄ってきて、私をぎゅっと抱きしめた。
「『白雪姫』のお姉ちゃん、私のお姉ちゃん!」
ステラは私を強く抱きしめ、楽しそうに笑いながら言葉を繰り返した。そして……最後には、アエラさんまで加わり、娘と一緒に私を抱きしめながら、楽しそうに笑っていた。
私は一体どうすればいいのだろう?!アエラさん……どうして貴女まで私を抱きしめるのですか?こんな時くらい、もっと大人の女性らしく振る舞ってください!
私はただ黙って座り、彼女たちの抱擁に耐えていた。私は諦めた。
すべてが終わって、今……
ステラは私の隣に寄りかかり、穏やかに座っていた。一方、私はベッドのヘッドボードに寄りかかっていた。アエラさんは嬉しそうな笑顔で私たちを見ていた。
「それで……今から、私の友達、エステラの話を始めましょう。」
ステラと私は、期待に満ちた目でアエラさんを見つめた。
「私と彼女の出会いは、私が南大陸に漂着した時に始まったの。残酷な魔族の地。」
話している間、アエラさんの目は遠くを見つめているようだった。まるで、友人、エステラ・ライトハートとの最初の出会いの頃を思い出しているかのように。
そして、エステラ・ライトハートの物語が始まった……
†************†
「はあ……
私は本当に駄目ですね。また長々と書いてしまい、またしてもエステラ・ライトハートの話を飛ばしてしまいました。重ねてお詫び申し上げます。
今回の話は、エステラ・ライトハートの物語への導入となるため、この閑話のタイトルを『前奏』とさせていただきました。
次回は、アエラ・ミードの視点から、エステラとの出会いから、エステラ・ライトハート将軍の指揮下でスキャスラン王国の魔導兵団の長として歩んだ彼女の人生を描く物語となります。『王冠の娘、王国の指揮官』というタイトルです。どうぞご期待ください。」
マタカテラ
(作者)
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