[恋愛小説]1978年の恋人たち...
aalto
第1話 南台の朝
福野優樹は、初めてその部屋で目覚めた。
朝日が東側の窓から差してきたが、まだ3月中旬の朝は寒く、ベットから抜け出してガスストーブにマッチで火をつけた。
以前住んでいた八王子の下宿部屋とは違い、その部屋にはすがすがしい気配があった。
それは、何か希望を感じるものなのか、期待出来るものなのか分からなかったが…。
その部屋は東側の窓から朝日が差し込んでいた。
それまでの部屋は西向きで夕日しか差し込まなかったから、朝日が新鮮だったからかもしれない。
昨晩、優樹はその窓から西新宿の超高層ビル群の航空警告灯が点滅する光景を暫く見ていた。
朝食は昨日、新宿の高野フルーツパーラーで買った、ブルガリアのラズベリージャムをフランスパンにつけて食べた。
それだけなのに、今まで食べたことの無い新鮮な味がして、心が弾んだ。
単にラズベリージャムとパンなのに。
住む場所が違うだけで、こうも気分が違うものなのか。建築を学んでいるのに、そんなことに初めて気がついた。
ここは、中野区南台…今までの八王子市郊外とは、まるで違う環境に正直戸惑いと期待が交差している。
優樹が通っている工科大学は1,2年生は八王子校舎で、3,4年生は西新宿校舎でと分かれていた。
そして、追試で辛うじて3年になった優樹は、昨日八王子から中野区南台のアパートへと引っ越してきた。
建築学科の学生なので、A1サイズの製図台、本棚、ベット、自転車があるくらいで、引っ越しトラックの荷台は殆ど空気を乗せて、中央高速八王子ICから高井戸ICまでを40分で移動してきた。
トラックの助手席で、窓の外の段々と家並みの密度が濃くなる景色を眺めなが、何か期待するものがあった。
が、それがどんな期待なのかはまだ分からなかった。
それまでの、八王子郊外は、地元茨城の環境とさほど変わらなかった。
東京都都下とは、言え近所には雑木林や小川があり、ある意味茨城より自然溢れる環境だったが、まだ21歳の自分には単に田舎というだけだった。
今度の南台のアパートは、西新宿校舎へ通うには、便利だった。
電車は私鉄の駅から3つ目で行けたし、地下鉄駅も7、8分だった。
近所のバス停からなら、30分掛からなかった。
自転車でもその位で行けた。利便性は抜群だった。
近所にはこぢんまりとしているが、親密な商店街もあり、青果店、魚屋、惣菜店など一通り店を構えていた。
銭湯も6軒先にあり、生活するには便利そうだった。
そのアパートの名前は桃花荘といった。
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