2−2

 しばらく草っぱらを歩いて、道というか獣道に出たはいいが、人気はまったくない。


「あっ、草に実が生ってるぞ」


 高坂が見つけたのは、毒々しいピンクの実。ドラゴンフルーツを小さくしたような形と色だ。


「これ、食えるのか?」


 不用意に手に取ってみると、高坂が煽った。


「食ってみろ」

「ふざけんな! 毒があるかもしれねぇだろ! まずはスマホで食べられるかどうか検索……あっ」


 そうだ、ここではスマホが完全に使えないのだ。もちろん検索なんてできるわけがない。確かめようがないのだ。


「食ってみるか?」

「いや……腹はめちゃくちゃへってるけど、やめとく。命には代えがたい」

「正しい判断だな」

「しっかし、腹は減ったしのども乾いたなぁ……」


 オレが弱音を吐くと、高坂が指をさした。


「あっ! 先に川があるぞ」


 川はそこそこ大きく、ちょうど道が分断されている。どちらにせよ、進むには川を渡らないといけなさそうだ。


「ちょっと休憩するか」

「水……」


 腹がへり、のどもカラカラなオレは、川に引き寄せられる。水はあるが、飲めるのか? これがインドのガンジスみたいな川だったら、口にするのは危ないかもしれないが……。


「一応透き通ってはいるな。魚もいるみたいだ。川面が動いている」

「だな! じゃあ、いただきまーす!」


 もう限界だったので、手で水をすくって口に運ぶ。


「かーっ! うめぇ!! 冷たいし、身に染みる! それにちょっと普通の水より甘いような……?」

「お前が飲んでるなら平気そうだな」

「てめっ、高坂! お前、オレを実験台にしたな!?」

「うるせぇ」


 高坂も口に水を含む。そのとき、川で何かが跳ねた。


「なんだ?」

「魚……か?」


グウウウウ……。


 魚という言葉に、オレの腹がまた反応する。呆れたように高坂が、前髪をかき上げながら苦笑した。


「ま、魚を捕まえて食うってことはできるかもな。お前が捕まえられればの話だが」

「魚くらい素手で捕まえてみせたらぁ! オレの拳はどいつよりも速いんだからな!」

「私のパンチも避けられねぇくせに」

「うっせぇ! 捕まえんぞ、魚!」


 オレが制服のズボンをたくし上げ、川に入った瞬間――。


「うわっ!?」


 高坂が声を上げる。魚が何匹も跳ねた。いや……跳ねたんじゃない。飛んだのだ。


「な、なんだ、これ! 本当に魚か!?」

「よく見ると、羽があるな。トビウオ……いや、川にトビウオはいねぇはずだ」

「と、ともかく捕まえてみればわかる!」


 タイミングよく、魚が飛び跳ねたところでキャッチすると、その魚の羽はまるで天女の羽衣みたいに透き通っていて、トビウオの羽とは大違いだった。


「なんだ、この図鑑にも載ってなさそうな魚……地球上に存在するのか」

「なぁ、サキ。先ほどからもしや、と思っていたんだが……」

「どうした、高坂」

「ここはもしかして――日本でも海外でもない、『いせかい』というところなのでは?」


「い、異世界―!?」

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