10年振りの美しい夏
2035年7月6日(金)
ソウ君を飼い始めて3日が経った。
最初はソワソワしていたが最近は随分と落ち着いたようだ。
今もカゴの中でハチミツゼリーをモッシャモッシャと食べている。
今日はスイカ割りをしようと思う。
ソウ君も自慢のアゴをカチカチ鳴らして応援してくれている。
よしやるか!フンッッッ‼︎
…ソウ君に良いところを見せたすぎて粉々になってしまった。
しょうがない。フルーツポンチにでもすることにしよう。
スイカをすり下ろして、布で濾し、スイカジュースを作り、ペットボトルに入れて川で冷やしておく。
その間に持ってきておいた白玉粉から白玉を作った。
あとは寒天から四角いゼリーもどきを作った。
今日のソウ君のゼリーはスイカゼリーにした。
やっぱり誰かと一緒に食べる飯は美味い。
ソウ君も心なしかいつもよりがっついている気がする。
まだまだスイカはあるしこれからしばらくはソウ君の飯はスイカゼリーにしてあげよう。
2035年7月13日(金)
今日はソウ君と魚釣りに行こうと思う。
今年はマイ釣りセットを持ってきた。
父が高校の入学祝いに買ってくれたリールに祖父から貰ったお年玉で買った竿、友人たちが誕生日祝いで買ってくれたルアー達。
平和だったあの頃の象徴であり、
俺が取り溢したかけがえのないもの達の残滓。
やっぱりこいつらが1番手に馴染む。
せっかくだし俺が磨き上げたキャスト技術をソウ君に披露してやろう。
今日は結構釣れた。
去年の手作りの物では全く釣れなかったがやっぱり道具の力はすごい。
夏拠点の地下室にオリーブオイルがあったから今年はアヒージョも作ってみようと思う。
めちゃくちゃ美味しかった。
流石にソウ君に魚は食わせられないが、今日はスイカゼリーとハチミツゼリー両方を用意した。
ソウ君も嬉しそうに交互に食べていた。
たしか拠点に黒飴もあったはずだから拠点に戻ったら黒糖ゼリーも作ってみるとしよう。
2035年8月13日(月)
今日からはお盆だ。
ソウ君と一緒に拠点に帰ってきた。
家族やおっさん達にもソウ君の事を紹介した。
ナスやキュウリも持って帰ってきたから精霊馬牛を作った。
いい報告が出来るのは何年振りだろうか。
人間は孤独になることが1番ダメだと常日頃から言っていた母にようやく俺は1人じゃないと報告できた。
おっさん達の名前は聞けなかったがソウ君の名前は自分でつけてあげた、自分の名前も伝えることが出来た。
まあ理解出来ているとは思えないが。
俺はもう、失うことを恐れても手を伸ばすことに躊躇はしない。
いつかは死に別れる運命だとしても彼が俺のなかの大切になるのを恐れない。
俺はもう大丈夫だ。
今日は墓前でウィスキーを飲んだ。
父の墓にもかけておいた。遅くはなったが約束を果たすことが出来た。
母もおっさん達もめちゃくちゃ酒に弱かったし甘党だからドーナツでも供えておく。
ソウ君にも黒糖ゼリーをあげた。
見上げると満天の星空だ。
いつ振りだろうか。空を見上げたのは。
とても、とても、美しい夜空だった。
2035年8月26日(日)
今年も夏が終わる。
今日は線香花火をした。
ソウ君も花火が珍しいのかじっと見つめていた。
2人で見る線香花火は去年よりもずっと綺麗に見えた。
ソウ君も綺麗だと思ってくれていると嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます