僕たちだけの秘密基地 ~異次元みたいな広い空間の中で僕らの間にあったこと~
楸
プロローグ
始まりの終わりと締めくくり
白色に映えるのは赤色だと思った。
コントラストのように浮き出てくる赤色をひどく立体的だと思い、よく視界の中へと刺してくる色だと、僕は確かに思った。
ただ、目の前にある光景を心に落とし込んで、そんな感想しか出てこないのは異常だ。異常であることを伝えてくるように、周囲にいる人間は動揺の表情を、困惑の表情を、悲痛の表情を、嗚咽の表情を浮かべており、きっと僕のような感想を抱く人間なんて誰一人いなかった。
それはそうだ、と僕は思った。僕も驚いている。動揺しているし、困惑している。心は悲痛に染められているし、嗚咽が混じりそうなほどに動悸を何度も繰り返している。
そのような内面の自分を押し殺すように、もしくは遠ざけるように、俯瞰で見ている自分がそのような色映えを気にしている。それだけと言えばそれだけだったし、それ以上に何か思うことはできなかった。
ひとつの溜息が空間に響いた。動揺を浮かべていたひとりの青年が空間にそれを響かせていた。
溜め息は伝染する。一人は、うっ、と息を詰まらせ吐き気を催したような声を漏らし、一人は自然に視線を逸らしていた。一人はあからさまに、はあ、と大きな息を吐いていて、様々な反応がそこにはある。
──結局、すべてのことに意味なんてなかったのだと、そう思うしかない状況。そんな状況の中で、困惑をしていた一人が声を出した。
「……どうする?」
その言葉は僕たちに向けられたものだった。いや、僕たち以外には向けられようもない言葉でしかなかった。
ここには僕たちしかいない。そして、ここを知っているのは僕たちしかいない。
問題ごとの解決を図るというのであれば、それは自ずと僕たちに責任がかかっており、誰か他の機関や他人に任せることなどできやしない。
「……やるしかないだろ」
動揺しながらも、平然を装うようにやさぐれた青年がそう声を返した。その言葉に、え? と返す人がいた。
「やるしかないんだ」
やさぐれた青年はそう返した。彼女を納得させるために、きちんと視線を向き合わせながら、確かに彼は呟いていた。それでも視線は泳いでいて、どうしたって動揺を拭うことはできていないのだけれど。
──やはり、すべてのことに意味なんてない。
ここまで彼らと築き上げた信頼も。
ここまで約束していた彼らとの契りも。
ここまで拭い去っていた疑心さえも。
すべてのことに、意味なんてない。
それを証明するように、意味を見出してはいけないものがこの空間の中心にはある。
いつまでも、残り続けている。
白に見映えする赤の色。非現実的としか言いようがない溢れた血液のまとまり。まるで芸術家が適切に描き出した彩の束。
そして、……死体。
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