第15話 秘めたる才能?

「……さて、行きますか」



 そう、自分を鼓舞すべく改めて口にする。まあ、そのために来たんだしね。


 とは言え……実のところ、今回の懸念材料は恐怖そこだけでなく。と言うのも……その、今回は邸宅なかに入るのさえなかなかに困難で。


 それでは、前回はどうしたのかと言うと――惟光これみつの他に、内部――空蝉うつせみの弟である可愛らしい少年、子君こぎみくんにも協力を要請していた。流石に躊躇いはあったようだけど、彼もげんちゃんを深く慕っていたので最終的には承諾してくれた。……まあ、その結果があれなので、小君くんには申し訳ない限りなんだけど。


 だけど、今回はそんな頼もしい助っ人もいない。なので――


「――今回も頼りにしてるよ、相棒」

「……え、いえ流石に相棒それはちょっと辞退させて頂きたく――」

「なんでそんなつれないんだよ」


 いやなんでだよ。もっと前のめりに来てよ。藤壺ふじつぼさん淋しいじゃん。


 ともあれ、頼りにしてるのは本当――と言うより、今回の成否はもはや彼に掛かっていると言って差し支えない程で。……だけども――


「……あの、みやさま。その……本当に、あれで上手くいくのでしょうか」


 そう、些か不安そうに尋ねる惟光。今回の作戦にあたり、彼にはあるお願いをしている。そして、彼ならきっと恙無つつがなく遂行してくれると信じている。

 ……だけど、問題は私の方。いくら惟光が上手く事を運んでくれたとしても、私の方でしくじってしまえば無意味――まさしく、水泡に帰してしまうわけで。……やれやれ、ついにその日が来ましたか。



「……宮さま?」


 すると、ふと不思議そうな表情かおで尋ねる惟光。そんな彼に軽く頷き、ゆっくりと口を開いて――



「――この藤壺、ついに特殊能力を発動します」

「そんなのあったの!?」

「えっ、そんなの当たり前じゃん。だって藤壺だよ?」

「……は、はぁ、なるほど……なるほど?」


 そんな私の説明に、何処か腑に落ちない様子で首を傾げる惟光。はて、何が納得いかないのだろう。だって藤壺だよ?


 ともあれ、善は急げ……いや、ほんとは急ぎたくないけど……ともあれ、ようやく作戦開始――慎重を期しつつ、そっと門へ近づきトントンと叩く惟光。その後、少し経過して――



「……お待ちしておりました、惟光さん」



 ゆっくり門が開いた後、鈴を転がすような声で告げる可愛らしい女の子。当邸宅にて、六条ろくじょうさんに仕える女の子だろう。


 さて……惟光にお願いしたのは、まさしくこの少女のこと。尤も、彼女である必要はないのだけど……ともあれ、誰でも良いからこの邸宅やしきに仕える女性と懇意になってほしいとお願いしたわけで。そして、その理由は――



 ――シュルシュルシュルッ。



「……おや、何か今こちらを通っ――」

「ああ、きっとはえか何かでしょう。それより、是非もっとお話を――」



 門の前にて――少女の気を引きつけてくれてる惟光に心中にて謝意を述べつつ、疾風の如く彼女の横をすり抜けていく私。いや、まさか現実むこうで磨いた技術スキルがこんなところ――それも、こんな用途かたちで生きようとは……あと、誰が蠅だよ誰が。


 ところで……何やら一瞬、すっごい白けた視線を背中に感じ……いや、分かってるよ。特殊能力なんて調子こいてごめんなさい。だから、そんな目で見ないで。

















 

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