たぬきの退屈
むっしゅたそ
たぬきは賢い
それがしは人である。名前はチェリ。
恐ろしく禍々しい「犬」と呼ばれる狂暴な生物から我が家を守護せしめるのがそれがしの使命である。
ククク……ここからは、それがしの秘密の習慣を明かすことにしよう。――完璧なプランなので、家族たちですら、このことには気がついていない。
それがし食いしん坊であるから、まず、父上に食事を所望する。そして、それを平らげたら、外に出る。外に出れば、トイレだと父上は勘違いする。その僅かな隙をついて、隣の家の玄関に行って、扉をカリカリするのだ。
扉をカリカリして高貴におすわりをすると、隣の家の主殿は、「あらまた来たの?」と言って、我が家で食べ飽きた「ドッグフード」と呼ばれるぱさぱさした飯よりも、遙かに美味なる食事を振る舞ってくれる。一度であるはずの朝食が、これにより二度になるのだ。それがしの頭のよいことよ。
それがしには兄が二人居る。一人はケンシンと言い、もう一人はレンと言う。ケンシン兄が「どれ、このタヌキがどれ程賢いか、検証してやろう」と言った。
レン兄は、冷めた眼差しで、「へぇ」と言う。
フム、人であるそれがしをタヌキと間違えるようでは、ケンシン兄の知恵も知れたものだ。
「お手」
ケンシン兄が手を差し伸べてくる。
それがしが、お手を慣行すると、ケンシン兄は、それがしの、かゆいところに手が届かない由々しき事態を撫でて解決してくれるのだ。
それがしを撫でおわると、ケンシン兄が、「レンくん。お手」と言った。レン兄は、「は?」と、冷めた目でケンシン兄を見た。まさに侮蔑の眼差しだった。しかし、ケンシン兄は、予想外にしたり顔をした。
「チェリはお手ができるが、お前はできぬ。ゆえにこのタヌキのほうが知恵者だな」
ふはは、分かっておるようだな。それがしの聡明さを!
「はいはい」
呆れかえったようにレン兄は言った。この高度を知恵ものなるそれがしが分析するに、敗北感を紛らわせるため、何事もなかったかの如くクールに済ませようという算段のようだ。だが、それがしが知恵比べでレン兄に勝利した事実は消すことができぬ!
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