第3話 レオンを陥れる者たち
「レオン・ベレッタか…… <身代わり>はコイツでいいだろ」
高そうなスーツに身を包んだ白髪混じりの初老の男がそう言うと、他の数人の男女たちはみな一様にうなずいてみせる。
──そこはライラープス国の首都ラナデル。
多くの企業がこぞって集まり、互いに競い合うかのように高い建物を並べ立たせた大都会の中心、その中でも突出して高い尖塔を持つ <MPX社>の最上階にある会議室の中での話し合いだった。
「レオン・ベレッタはちょうど二年前に、諸君らの何人かもギャンブルで世話になっていただろうジャバハ・スタラスキを殺害した犯人だ。きっと社会的成功者に恨みがあるのだろうな……その点をとってみても、われわれにとっては大変に都合がいい」
「一人で大丈夫かしら……もっと大量に殺してる候補の方がいいんじゃない?」
そこで開かれていたのは役員会議。MPX社の取締役たちが一堂に会し、自らの手元に置かれた十枚ほどの紙をホチキスでまとめた資料へと目を落としていた。
今はその中の、レオン・ベレッタの顔写真と情報の記載されたページへと。
「いや、問題ないだろう。 <取り寄せた>この情報によれば、レオン・ベレッタは通報時に自らをあの伝説の殺し屋 <イレイザー>と名乗っていたらしい」
「イレイザーって……あの、十年以上にも渡ってこのライラープスの要人を消してきた、裏社会の伝説の殺し屋っ? この男がそうだって言うのっ!?」
「ハハッ、いやいやまさか。イレイザーはな、現場の証拠どころかターゲットすらもこの世から抹消してしまうからこそ、絶対に捕まらない殺し屋として <伝説>と呼ばれているんだ。この程度の実業家をターゲットにしたところで、ヘマをして捕まるはずがないだろう?」
「じゃあウソってことよね……? 報復を受けたりしないわよね……?」
「当たり前だ。コイツは承認欲求を持て余したただのバカな異常者ってだけさ」
男の役員はほくそ笑んで、
「だからこそ、大量殺人に強い動機も必要とされない。成功者が疎ましかったから殺したという、単純な殺意こそが決定的な動機であるということに説得力が増す」
「なら、この男で決定ね?」
「そうだな。他に異論のある者は?」
その男の言葉に、場は静粛として誰も声を発しない。
「よかった。これでようやく <未解決事件>の幕が下りて、残されたわれわれ取締役による社内統治が完成されるな」
男は満足げにうなずいて、
「さっそく警察と検察の方々に動いてもらおう。二年前にわれらMPX社の代表取締役アーノルド・エムピクスをはじめとした役員数名を殺害した犯人──レオン・ベレッタを死刑台送りにするために」
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