Dogs Never Die.

浅見朝志

第1章 Do you like dogs ?

第1話 レオン・ベレッタという男

「犬は好きか?」



そう問うたのは、レオン・ベレッタという二十代後半ほどの男。

夕方となって生え始めた無精ひげを撫でつつ、その目は魔動力によって開いた自動ドアの向こう側をにらんでいた。



「俺は好きだ。犬は注いだ愛をそれ以上の愛で返してくれるから」



そこは高級ホテル・ワグノリアの最上階スイートルーム。

この建物は <魔術から魔工学へ>という国内の風潮の下で進んだ再開発、そのさなかに建った高層建築物の中では、かなり歴史の入ったものの一つに入る。

だが、高級ホテルなだけあってやはり内装はこだわり抜かれていた。レオンの視界に映るのは複雑怪奇な柄の手織りの絨毯が引かれ、きらびやかなシャンデリアが照らす見事な空間だ。



──魔術文明歴1320年。



魔力の発見、魔術体系の確立、そして産業革命と魔工学の発展によりこの <ライラープス国>の人々の生活は豊かになった。だが、どうやら人の心は貧しいままらしい。

今日のレオン・ベレッタの <ターゲット>もまた、そんな心の貧しいゴミクズの一人だった。



「もう一度聞いておくぞ。犬は好きか? ジャバハ・スタラスキ」


「なっ……だっ、誰だっ、おまえは……!?」



スイートルームの中心の鎮座するソファの上に、女二人を左右に侍らせた肥満気味の男、ジャバハはいた。

ジャバハはただただ突然の来訪者にポカンと口を開け、二重あごを作っている。



「質問に質問で返すな。だがまあいい。どうせ答えはNoだろ」



元より、ジャバハが犬をどのように扱っているかをレオンは知っている。

部屋の隅へと顔を向けて、レオンはこみ上げる怒りを腹の底でひとまず押し殺した。

レオンの視線の先にあったのは小さなケージ。そして、そこへと押し込められて震えている犬が一匹。 <組織>から渡された情報によれば、それは生後一年ほどの珍しい毛並みをしたピットブルだ。

ジャバハは、そのピットブルを好事家へと <高値で売る>ためにこの町へと来ているらしい。



「闘犬による違法賭博の主催に、過剰投薬と虐待まがいの調教を施した犬の売買……そんなことをするおまえが犬好きなわけがない。なら俺が気になるのは、そんなクソ野郎がなぜ犬を商売道具に選んだのかということだ。教えてくれ、どうしてだ?」


「俺はおまえが誰だと聞いてるんだっ!」



それが、金魚のように口をパクパクとさせていたジャバハは虚勢を張るように怒鳴り散らす。



「表にいた警備の者たちはどうしたっ!?」


「確かに山ほどいたな」


「オイッ! 警備っ! 不審者だぞっ! とっ捕まえろ!」


「無駄だ。今はもういなくなった」


「はっ!? もういないだと──」



ハッとしたように、ジャバハは目を見開いた。



「まさかおまえっ……」


「こ、殺し屋、か……!?」


「正解。心当たりはきっと山ほどあるんだろう?」


「……!」



レオンが答えるやいなや、ジャバハの顔からサーッと血の気が引いていく。

それから歯を食いしばるような音。



「い、依頼人は誰だ……? オレがその三倍払って君を雇おう。それでどうだね?」



どうやら、こちらを懐柔しようという腹らしい。

ジャバハはクマが様子をうかがうときのような仕草で、のそりとソファから立ち上がった。



……いや、反撃のための時間稼ぎか。



レオンは耳ざとくもその兆候をとらえた。

ジャバハは片方の手を体の後ろ側に隠している。そして、横に座っていた女の一人の呼吸が先ほどよりも明らかに乱れていた。

ジャバハは何かしらの武器を隠し持っているようだ。



「依頼人は知らん。俺は組織の命令が下ったからおまえの前に現れた。それだけだ」


「そ、組織……? なら、その組織とやらに聞いてみてからでも、」


「断る。理由は二つ。一つは組織は依頼人を裏切らないから。まあそっちはどーでもいい。大事なのはもう一つの方だ」



ケージに視線をやり、あくまで淡々とレオンは言う。



「俺の前で犬を悲しませるやつは殺す。俺がそう決めているからだ」


「は、はぁ……!? 〈犬ごとき〉のことで、どうしてそこまで……」


「〈おまえごとき〉にどうしてそこまで説明してやらなきゃならない? ジャバハ」


「くっ……!」



ジャバハは顔を引きつらせて、しかし。



「そうか……それは残念だよっ!」



すぐに不敵な笑みを浮かべ、後ろに回していた手をレオンへと向けた。

案の定だ。

その手に隠し持っていたのは、あらかじめ充填した魔力を高出力で放つことのできる武器、 <魔力銃>。ジャバハはためらいなくそのトリガーを引いた。



「ここで死ね! 殺し屋!」



カシュッというナッツを砕いたような静かな音とは対照的に、銃口から飛び出した一直線の青白い魔力光線は強力無比。空間を切り裂く鋭い音とともにレオンへと迫る。

だが、



「この音……改造銃か。残念だったな」



その強い光線はレオンの手前でたちまちに掻き消えてしまった。

いや、正しくは違う。

光線は <呑み込まれて>いた。

いつの間にかレオンの正面に渦巻いていた、暗い暗い闇の内側へと。



「魔力が発見され、魔術の体系がてきて、そして魔力武器の開発がされて……生活は豊かになった。その恩恵で肥え太るのが、どうしておまえみたいなクズばかりなんだろうな?」



散歩でもするかのように、レオンは大股でジャバハとの距離を詰める。

女たちが悲鳴を上げて逃げていく間にも、ジャバハの改造銃から何発も光線がほとばしったが、しかしその全てが闇の中へと消えていく。



「その豊かさの少しでも、どうして犬に分け与えてやれない?」


「くそっ、なんで銃が……まさか <魔術>かっ!? 魔工学全盛のこの時代にっ!?」



それには答えず、レオンの腕が魔力銃を握るジャバハの手を掴むと、



「うっ、わぁっ!?」



またたく間に手首の関節がキマる。ジャバハのでっぷりとした上体は、レオンの思うがまま前後に揺られてバランスを失うと、簡単な足払いで一回転。激しい音とともに背中から地面に衝突した。



「……おっ、おかしいっ! なんだそれはっ!? 魔導書はっ!? 魔術は手ぶらで何の制約もなく使えるモンじゃねーだろっ!?」


「これから死ぬおまえには関係ない」



レオンは、転倒した際にジャバハが取り落とした改造銃を拾うと、それをジャバハへと突きつけた。



「安心しろ。おまえの体は <消さない>でおいてやる。行方不明になることはない」


「あ、 〈消さない〉だと……おまえ、もしかして──」



ジャバハの言葉はしかし。

俺の後方で再び開いた自動ドアの音のあと、



「──そこまでですっ、殺し屋 <イレイザー>、レオン・ベレッタッ!!!」



その若い女の声にさえぎられた。



「ホテル建物内への不法侵入、そして傷害罪の現行犯であなたを逮捕しますっ!」



扉を蹴飛ばして部屋に突入してきたのは黒いスーツの女刑事だった。警察の標準装備品の魔力銃をレオンに向けて構え、リスのようなつぶらで丸い目をキッと吊り上げてにらみを利かせている。

レオンにとって、いろいろと予想外だった。



「警察か。早いな」


「匿名での通報がありました。殺し屋のあなたがジャバハ・スタラスキさんをターゲットにしている、と」


「それで一人で来たのか? ペアの相方……上司はどうした? アンタ、たぶんまだ新人だろ?」



その刑事の声は非常に若かった。ゆえにレオンにはわかった。

今のこの展開は、この刑事にとっても予想外のものだったに違いないと。



「たまたま一人でこの付近にいたので仕方なかったんですっ! だけどそれがいったいなにかっ?」



女刑事は強気に、かすかに震える声を隠すように一つ咳ばらいをすると、



「ペアだろうと一人だろうと、私が全うする社会正義に変わりはありません。レオン・ベレッタ、銃を床においてその男性から離れなさい! それから両手を頭の後ろに、膝を着いて!」



鋭い声を発して、銃の照準をしっかりとレオンの胴体へと定めた。

レオンはそれに、短くフッと笑った。



「刑事さん、名前は?」


「……アナ・グロック警部補です」


「新任か? その割には度胸も行動力も一人前のようだな」


「いいから、はやく言う通りに行動しなさいっ!」


「わかったよ……」



レオンは言われた通りに床へと膝を着く。

ゆっくりと、アナが銃を構えたままにじり寄り、レオンの手首に手錠をはめた。

カチャリ、と。その鉄の音が響くやいなや、



「フハッ……フハハハハッ!」



仰向けに転がっていたジャバハが勝ち誇ったように高笑いする。



「やった……! よくやったぞ、刑事! 褒めてやる!」



腕を床につけて突っ張って、でっぷりとした上体を起こす。

はだけたバスローブの前を直しながら、ニヤニヤと、



「なあ殺し屋、本当におまえがあの <イレイザー>なのかっ?」


「……」


「大臣暗殺、実業家暗殺なんてお手の物で、五年前の国内最大マフィアの壊滅にも関わっているんじゃないかと言われていたが、その全てにいっさいの証拠が残ってない。被害者は全員、消しゴムにでもかけられたかのようにこつ然とその姿を消して今も行方不明のまま……殺人事件としてすら調べられていないと聞く」


「ヤケに詳しいな?」


「俺の客が何人も消されたからなぁ……おかげで割を食ったぜっ、このクソ野郎!」



ジャバハは悪態を吐いたが、しかしすぐに嫌味ったらしい笑顔を浮かべ、



「だがまあ、ヨシとしよう。あの <伝説>の殺し屋の初失敗を拝めるなんてなぁ。こりゃ自慢話になるぜ、オイッ!」


「失敗? それはまだわからない」


「負け惜しみを……イヤ、いいぞ! 構わん、もっと吠えろ!」



ジャバハは完全に助かったつもりのようだ。

立ち上がりレオンのことを見下しつつ、先ほどの取っ組み合いの拍子にソファ手前のテーブルから転がり落ちていたワイン瓶を拾うと、直に口をつけて飲み始めた。



「伝説が吠え面かくところなんてなかなか見れないからなぁっ!」


「ツマミの趣味が悪すぎる。だから太るんじゃないか?」


「これからブタ箱にぶち込まれて、酔いもできず臭い飯ばかり食わされるおまえには同情を禁じ得ないよ、イレイザー」



挑発的に、ジャバハはアルコール臭いニヤけ面を近づけてくるが、それを肩で押しのけたのはアナ・グロック。



「失礼。ですがどいてください。レオン・ベレッタを連行しますので」


「……チッ。もう終わりか、つまらん」


「さあ、行きますよ。立ってください」



後ろ手に回された腕を掴まれ、レオンは立たされる。そして部屋の外に向けて歩かされるが、その途中で、



「グロック警部補、犬は好きか?」



レオンが立ち止まり、そう聞いた。

アナは「何を……」と一瞬眉をひそめるが、しかし。視界の端、部屋の隅にあるケージへと気がついた。ピットブルの押し込められている、その小さな牢獄へと。



「あれは……」


「そこの男の <商売道具>、だそうだ」


「……っ」



よくよく気を張ればたとえ目が見えなかったとしても、細穴に空気を通したかのようなか細いピットブルの鳴き声が聞こえるだろう。

アナもやはり察した。怒りを押し殺すような呼気。その反応だけでレオンにとっては充分な答えになっていた。



「グロック警部補、犬は好きだな? アンタにあの子は救えるか?」


「……やってみます」



少し考えて、アナは決心したかのようにうなずくとジャバハへと振り返る。



「ジャバハ・スタラスキさん。あのワンちゃんについて、少しお話が」


「あ?」


「あのケージ、中型犬用のものですよね? ピットブルには小さすぎでは」


「だったらなんだ? 別に問題ないだろ。明日客に渡すまで壊れなきゃいいだけなんだからな」


「私はケージの心配をしているわけではありませんっ。あのような狭い場所にワンちゃんを押し込めていることを問題視しているのですっ!」


「オイオイ、なんだよ突然」


「たとえ飼い犬であろうと、故意にワンちゃんをストレス環境下に長く置くことは動物愛護の観点から見て、いかがなものかと。その処遇について改善をしていただきたいのですが……」


「はぁ。いきなり何を言い出すかと思えば……」



ドカッとソファへと座り直して、ジャバハは口につけたワイン瓶を上に傾ける。



「ありゃオレの <所有物>。それをどう扱おうがオレの勝手。違うか?」


「……ですが、可哀想です」


「それがなんの罪になる?」



ゲップを吐き出すのと同時、ジャバハは鼻で笑った。



「何の罪にもなりゃしない。違うか? それともレオン・ベレッタを捕まえたアンタなら、犬畜生をケージに閉じ込めた罪とやらでオレのことも捕まえられるのかい?」


「いえ、そんなことは」


「だよなぁ。警察は法律にのっとって犯罪者を捕まえるのが仕事だもんなぁ?」


「ですが……」


「うるせぇなあっ! ですがも何もねぇんだよっ!」



ガシャンッ! ジャバハが苛立ち紛れに投げつけたワインボトルが、部屋の壁に当たって砕け散る。



「大人しくテメーはテメーの仕事をしてりゃあいんだよっ! そこのクソ犯罪者イレイザーを死刑台送りにするって仕事をなぁっ!」



アナはもう、肩を震わせて押し黙ることしかできないでいた。

当然だ。人の権利を越えて犬を助けられる法律など、まだこの国にはないのだから。

それが法治国家に従する刑事が救えるものの限界だ。



「まあ、そうなるよな。相手がゴミクズなだけだ。気に病むなよ、グロック警部補」



レオンはポイッと、横に何かを投げ捨てた。絨毯の敷かれていない大理石の床へと落ちたそれはやかましい金属音を立てる。ジャラジャラジャラッ、と。

それにつられたアナとジャバハ、二人の視線はそちらへ向いた。



「……え?」



床にあったそれは、ところどころに虫食いのような穴が空いた鉄クズ。それは原形を留めずバラバラになった <手錠だった物>だ。



「最後のチャンスを無駄にしたな、ジャバハ・スタラスキ」



二人の視線が外れたほんの一瞬の間に、レオンの姿はジャバハのすぐ側にあった。

そして二人の視線が戻った時にはすでに、ことは全て済んでいた。



「……は?」



ジャバハは、自分の首からあふれ出す真っ赤な液体を見て、



「ワ、ワイン……?」



そうこぼすやいなや、白目を剥いてソファの背もたれにグッタリと体を預ける。

レオンの耳は、ジャバハの息の音も心臓の音もとらえない。

ジャバハは完全に絶命していた。パックリと斬られた頸動脈からの大量出血によって。



「なっ──レオン・ベレッタ!!! あなたっ、なんてことを……!」


「手錠、ダメにしてスマンな」


「そうじゃありませんっ! 殺人が、どれだけ重い罪かわからないんですかっ!?」


「生きるチャンスは与えたさ。フイにしたのはコイツの責任だ。むしろ、最初の予定では問答無用で殺すつもりだったんだぞ? それなのに、」



レオンは、ジャバハを仕留めるのに使ったワインボトルの欠片を放り捨てながら言う。



「予定が少し狂ってしまった。警察がここに来るのはジャバハが死んでちょうどのタイミング。俺はその犯行現場を押さえられて逮捕される……そのはずだったんだが。グロック警部補、アンタの存在が予想外だったよ」


「何を言って……いや、まさかっ」


「ご推察の通り。匿名の通報者の正体は俺だよ。俺自身なんだ」


「な、なんでそんなことを……!?」


「殺し屋稼業からはしばらく足を洗いたかったんだ。しかしいろいろと事情があってね。刑務所内が安全なのさ」



言いつつ、レオンが歩き出そうとすると、



「止まりなさいっ!」



再びのアナの鋭い声。魔力銃がレオンに向けて構えられていた。



「一歩でも動いたら……私はっ、容赦なく引き金を引きますっ!」


「まあ、ちょっと待ってくれよ。少しだけだ」



ため息交じりに笑いながら、レオンは指をさす。ピットブルの閉じ込められたケージを。



「早く出してあげなきゃ。可哀想だ」


「……っ!」



アナは少し逡巡した様子を見せたが、しかし。



「わ、わかりました。確かに今のままではワンちゃんが可哀想です……許可します」


「ありがとう」


「礼を言われる筋合いなどありませんっ! ワンちゃんのためですっ!」


「わかってる」



カチャリ。歩み寄ったレオンがそのケージの入り口を開ける。



「ほら、出ておいで」



レオンが手招きするも、しかし怯えたピットブルはなかなか出てこようとしない。

レオンはケージの側で屈むと、ゆっくり手を差し出した。いきなりは触らずに手の甲をピットブルの鼻先へと置く。

すると、クンクン、クンクンクンと。ピットブルが臭いをかぎ始めた。



「俺は人間しか殺さないから、恐くないぞ……」



レオンのその言葉に応じたように、ピットブルは恐る恐る舌を出して手の甲を舐め始めた。



「ヨシヨシ」



優しく触れると、ピットブルは目を細めて受け入れてくれていた。

おいで、と。手招きをするとピットブルが思ったより元気そうな調子で出てくる。水や食事はちゃんと与えられていたらしい。不幸中の幸いといったところか。



「レオン・ベレッタ、一つ聞いておくことが」


「なんだ?」


「この子、助けた後はどうするつもりですか?」



アナが、レオンの背に銃を突きつけながら問う。



「行き場がなくては殺処分されてしまいます。かといって、私のアパートでは飼えないのですが……」


「できれば里親探しを手伝ってほしい。見つかるまでの間は俺が監房で世話をしよう」


「あなたはあの殺し屋イレイザーなんでしょうっ? 本当にそうなのであれば、大量殺人犯……死刑になるだろう人間に任せられるわけっ、」


「いや、死刑にはならない」



レオンは振り返りながら、断言した。



「俺が通報で殺し屋イレイザーを名乗ったのは、その方が警察の食いつきがいいと思ったからだよ」


「っ!? では、あなたは本当はイレイザーではないと……!?」


「さあ、どうだろうな」


「どうだろうな、って! なんですかそれっ!」


「どっちでもいいんだ。俺がイレイザーであろうがなかろうが、証拠が残っている殺人は今回のコレだけなんだから。余罪があったとして立件はできない。なら、死刑判決とまではならないだろ」



正体を濁したレオンに、アナは眉をひそめつつ、



「仮に死刑にならないとしてもっ、特別な理由がない限り拘置所や刑務所内にワンちゃんを立ち入らせることはできませんが……それはどうするつもりですっ?」


「そうだなぁ、 <盲導犬>として俺についてきてもらうしかないかもな」


「……盲導犬?」


「盲導犬を知らないか? 最近は結構普及してきたと思うが」


「いえ、そうではなく……ダメですよ。拘置所や刑務所に盲導犬を連れて入れるのは目の見えない人のみ。でも、基本的に与えられるのは白杖のみです。盲導犬は本当に特別措置としてでしかつけられません」


「じゃあ、その特別措置を都合してくれると助かる。あんたキャリア組だろ? 今後の刑務所へのコネ作りの一環とでも考えてさ」


「いや……ですから! そもそも目が見えないというのが大前提なんですってば! そりゃ、私だってワンちゃんをどうにかしてあげたいと思ってますけど、その前提を崩すほどの無理を通すことは……」


「そこは問題ない」



レオンは自身の、ブルーグレーの瞳を指さして言った。



「分からなかったか? 俺はもともと <全盲>なんだよ」






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お読みいただきありがとうございます。

もし続きにもご興味もっていただけましたら、小説のフォローをよろしくお願いいたします!


明日も更新します。

次回のエピソードは「第2話 刑務所の名物犬ムラマサ」です。

よろしくお願いいたします。


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