無口な兄は謙虚すぎる

さとうがし

無口な兄

 私、一ノ瀬あかり。ぴちぴちの高校生♪

 貴重なJK期間を満喫している私だけど、こんな可愛い私には七つ上の兄がいる。

 名は猛。一ノ瀬猛。

 私みたいなイケイケのギャルとは違い、兄の猛は地味という言葉が似合うほど没個性的。

 毎日同じ服を着て、短髪、お洒落を微塵も気にかけることがない。

 趣味も読書のみ。外出は買い物か本を買う時くらいしか行かず。

 友達も多くなく、猛は基本的に無口なことが多い。


 普通、こんな兄を妹は嫌うことが多いはずだ。

 だって地味だし無口だしなんの面白みを感じないだろう。

 私の友達も兄の猛をつまらないと一蹴し、時には馬鹿にし貶したりしている。

 だけど、私は全くそうは思わない。

 だって、猛は……私だけは兄の魅力に気づいているんだもん!!!


「あの、大丈夫ですか?」


 友達と遊んだ帰り道のこと。

 偶然、兄の猛を見かけた私は声をかけようとしたがやめた。

 猛は重そうな荷物を台車で押しているご年配の女性に声をかけていた。


「え、ええ。かなり重くて……」


「よかったらあなたのご自宅まで持って行きます」


「あら本当? ごめんなさいね、本当に」


「いえ、お気になさらず。僕にはこれくらいのことしかできませんが」


 仕事帰りの兄は困っている人に声をかけ、そしてその女性の自宅まで台車を押してやったのだ!

 もちろん、私はそれを遠くで見ていた。

 仕事帰りで疲れているだろうに、猛はそんな嫌な顔も疲労感も顔に出さず、女性の話に耳を傾け相槌を打ち、十五分かけて自宅まで運んであげた。


「本当にありがとうねぇ」


「いえいえ」


「どうやってお礼をしたらいいか……」


「お礼はいりません。僕はただ困っている方の助けになれば何もいりませんから」


「そんなそんな。それは申し訳ないわ」


「いいんです。それでは僕はここでお邪魔します。お元気で」


「あ、もし――」


 猛は名を名乗らず、何度もお辞儀をしながら女性宅を後にした。

 謙虚に、そして驕らず。

 人のため、無給の奉仕で。

 そんな素晴らしい兄を私だけが知っている。

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