第30話「動揺と混沌」
テレビの前で町田があえいでいる。
町田は深きものであるがゆえに、シュブニグラスを映像で見ても正気は保っていた。
「シュ……シュブ・ニグラスを……」
町田もシュブ・ニグラスを良く知っているわけではない。
ただ、自らの主神クトゥルフに匹敵する神格だということを知っているだけで。
「おおお……後藤を……あのお方に……ルルイエに近づけてはいけない!!」
そう喘ぎながら安宿の床を転げまわる。
あまりの恐怖に心臓が止まりそうだ。
私は自分の虚栄心のために、何というヤツを世に放ってしまったのだ!
凡庸で人が良いだけのチビの後藤紳が……どうなったらあんなふうになってしまうのだ。
呪いの魔導具を全身に埋め込んで、あいつは一体、何なんだ?
「何をどう間違えたら、あんなにあっさり人間であることを辞められるのだ!?」
信じられない。
全ての神々に対してそうであるか分からないが、少なくともシュブ・ニグラスは一撃で屠られた。
あの様子だと後藤はただ強いだけではなく、もはや不死の存在なのだろうか?
宇宙の寿命が終わっても何もない時空に漂うつもりなのか?
もしそうだとしたら、宇宙の寿命が終わった後に後藤の話し相手になってくれるかもしれない、貴重な存在を叩き殺したということだ。
「アイツ狂ってる!存在しちゃいけない!混沌が過ぎる!!」
町田は安宿の椅子の脚を齧りながら泣き喚いた。
さてその頃、世界は?というと、一連の映像を見た人間が大量に失神し、失禁し、心因性ショックで呼吸困難を起こし……見ていなかった者たちはそうした人間の介抱に追われていた。
ではその頃、黒い神父は?というと、どこにもいなかった。黒い神父は単なるナイアルラトホテプの化身であるのでナイアルラトホテプが必要ないと考えたときにはどこにもいない。
ではそのナイアルラトホテプはというと怒っていた。
旧支配者の一角が下等生物に崩されたことに怒っていた。
と同時にシュブニグラスが消えうせたことを歓迎していた。
なお、黒い神父だった折には後藤の快挙に大喜びしていたのだった。
そして、後藤紳にシュブ・ニグラスを殺すように陰で仕向けたのも黒い神父だ。
では、当のシュブ・ニグラスはどうしているかというと普通に生きていた。
生きていたというと語弊がある。
ドーナツの穴は、ドーナツを食べたら無くなる。
しかし、ドーナツを食べる前から無い。
シュブ・ニグラスを含む旧支配者や旧きものはそういう存在であるため、殺しても消えないのだ。
ではどうなるかというと、後藤紳の配下になる。
「後藤さま、改めてお目にかかりますシュブ・ニグラスです。」
「後藤です……」
後藤は目の前の妙齢の女性に、唯一自分にできる自己紹介をした。
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