第6話「過去の衝突」

「結論から言うと後藤紳センパイは大学は卒業できたってことみたいね」

田島が中華料理屋で口を開いた。

山辺はなんだか拍子抜けして

「あ、そうなの?」

と答えた。

田島は餃子が並ぶ皿に直接ラー油をかけながら話しを続けた。

「一応、調べてみたらあれで卒業通ったらしいよ。ただ、例の町田准教授にだいぶ修正させられて最後の方かなり険悪だったらしい。」

「卒論修正されて険悪になるか?」

山辺は温厚そうな無邪気そうな後藤の顔を思い出しながらそう言ってみた。

もしかすると、山辺の知らない後藤の人間性があったのかもしれない。

「いや、ハナシ聞いてみたら、あれはその町田准教が悪い。とりあえず、周りの人間はそう考えてる。」

山辺は「知らない後藤はいなかったか」と考えながら餃子の皿のタレ用のくぼみにラー油を足した。

「現に町田はそのあと大学追い出されてる。」

「そうなの?」

学部が違うとはいえ自分の出身大学の事を門外漢の田島の方が知ってるのは気味が悪いものだ。

「なんでそんなこと知ってんの?」

田島は少しのけぞって得意げに餃子をちらつかせた。

「ウチの息子、サッカーやってるだろ?その関係で山辺の大学の連中と今でもしゃべるのよ。」

山辺は自分もほんのり体育会系だったくせにがっつり体育会系の田島に温度差を感じた。

「これだから体育会系は……」

田島は気分を害することもなくガハハと笑った。

「それでな、町田准教は元々全然違う論文を後藤先輩に書かせたかったらしいのよ。」

田島がポケットから少ししわの寄ったレシートを取り出す。

何かのメモに使ったのだろう。

「……これだよこれ、『アクアセツ』の論文を書かせたかったらしくて。」

「あくあせつ?」

田島がレシートを裏返すと「アクア説」と書いてある。

「何それ?」

「軽く説明聞いたんだが、よく分らんかった。まあでも、そのアクア説の論文を書かせようと町田准教が北アフリカのどっかの国まで連れてったらしいのよ。」

「その国の名前をメモれよ。」

田島は無視して話を続ける。

「現地で何があったかはよく分からねえんだけど、結局、アクア説をどうこうする論文なんて書けなかったらしくて、それで後藤が現地で取材できた別の題材で論文書こうとしたら、町田がめちゃくちゃに機嫌損ねたらしくて。」

「うわあ……なるほどな……」

山辺は田島の話を聞きながら「アクア説」を検索していた。

「『アクア説』なんて書いてある?」

田島もそれには気づいていたようで、検索結果が気になるようだ。

「何かざっくり言うと、猿人が今のヒトに進化する過程で、一旦、水生猿人になっていたって考える説らしい。」

「なにその『スイセイエンジン』って」

田島の疑問も無理もない。

山辺自身、こんな言葉は初めて使った。

「水生生物のサル版だよ。これがトンデモ科学の一つだって考えられてるらしくてさ。」

田島は納得した様子だ。

「確かにオレが聞いた話もそんな感じだったな。」

「一回聞いてるならもっと早く理解しろよ。」

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