第2話「防犯カメラの男」
『……夜11時ごろ、左手に長い刃物のようなものを持ったサングラスの男性が〇〇海浜公園で若い留学生女性を刺殺したとみられる事件で、新たに公園に設置された防犯カメラの映像が公開されました。被害者女性の名前はピエール綾香さん23歳……』
テレビのニュースを見ていると
「おう、やっぱりお前もここか!」
そう言いながらオレの前に座ったのは同期の田島だ。
昼飯時に出張が無ければ、ウチの社の人間の大半がここで飯を食う。
「マスター、俺、ラー定大大!」
マスターと呼ばれた店のオーナーが「はいよお」と気持ちのこもってない返事をする。
オレは自分の頼んだラーメン定食普通盛りを食べながら、ずっとテレビを見ていた。
『……今月、2日に生まれたアザラシの赤ちゃん……』
「アザラシの赤ちゃんかわいいよな!」
オレは田島のこういうところが少しめんどくさい。
ここで「いやオレが見てたのは違うニュースだ」と言えば「じゃあアザラシかわいくないっていうの?」とくるだろうし、「アザラシがかわいい」と肯定すればアザラシの話で昼休みはつぶれるだろう。
いや、まてよ。
「アザラシの赤ちゃんはかわいいが、田島クン。アザラシの話そんなに膨らむか?」
田島は少し考えると頭を振った。
オレは安心して話をつづけた。
「アザラシの赤ちゃんがかわいいのは認める。ただ、オレが見てたのはその前の海浜公園のニュースだよ。」
田島は頷いた。
「やべえよな、防犯カメラの映像、ずいぶんとボカシ入れてるけど、トラウマになりそう……って、ネットじゃ大騒ぎらしいな!」
オレはラーメンをすすりながら頷いた。
テレビでは犯行の瞬間の映像は流さないし、何なら刺された留学生と刺したサングラス男の周りもぐるっとモザイクがかかっている状態で公開されている。
だとしてもショッキングはショッキングだ。
「おまちどう、ラー定大大。」
「いただきます!」
田島の注文が運ばれてきた。
オレも軽く会釈する。
「黒サングラス、オレの大学の先輩に少し似てんだよね。」
「あんなぼやけた映像で?」
「うん。」
田島がラーメンをすする。
少しスープが飛んできた。
「あの映像の背の低さが似てるんですよ。」
「あー確かに身長165cmとかそれぐらいじゃないかってニュースでも言われてたなあ。」
そう言いながら田島はラーメンに酢を入れた。
「これが美味いんだよ!」
毎回、ここでラーメンを食べるたびに「酢を入れたら美味い」を主張してくる。
無関心そうにしていたマスターが「ラーメンに酢を入れるとすぅーっとするからな!」と間髪入れずに返してきた。
田島とマスター以外は針のむしろに座らされているみたいな顔をしている。
田島はガハハと笑って酢を入れ終わると、レンゲでスープをひとすくいする。
「入れすぎたわ、すぅーっとし過ぎた。」
「そりゃあ入れ過ぎたらすぅーっとし過ぎるな!酢だけにな!」
これで客減ったら田島のせいだぞと思いながら、オレは話をつづけた。
「後藤先輩に似てんだよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます