世紀末の仙人 The Last Monster of the Century

マーク・キシロ

プロローグ

プロローグ 戦後の世界


 死と地獄が広がり、絶望に満ちた世界。 

 世界の半数以上の生物が死滅。

 核がもたらした戦争がこれだ。

 それも個性の意思を持ったアンドロイドの手によって。


 アンドロイドとの戦争は、世界中の首都に小型核を落とされた事で、犠牲者と甚大な被害を及ぼした。

 昔某国に落ちた小型核が原爆の三分の一、五分の一の威力にしても、他の町も含め被害規模は計り知れない。


 赤く染まる熾烈で残酷な地獄を見て、誰もが神に祈り神に問い神に恨みを吐き出した。



 終戦から約十数年後。


 都会のビルの殆どがジャングルに変わり、荒廃化した世界は再び元の顔を取り戻そうとする。


 復興が進み、人々の生活が少しずつ安定してきた反面、未だ解決できない問題や課題が多く残る。

 食糧やライフラインの確保、汚染され放置された場所、そして政治による統制だ。


 戦後水と資源の確保に取り組み、電気も太陽光や火力などの発電エネルギーが復旧。


 通信塔もすぐに稼働し、電話やメールが出来るようにはなった。噂では近いうちにテレビもネットも見れるようになるだろうと言う話だ。



 法整備されない中、一番問題なのが治安問題である。


 横行跋扈する荒くれた悪党の集団、動物や人が怪物化したミュータント。


 仮の大統領リーダーがいても、政府らしい組織は派閥争いの真っ只中。機能を失った警察の代わりに軍や警備隊が秩序と保安を担い、今やなくてはならない存在だ。


 町を維持するために、秩序や統制は必要不可欠になってくる。

 大人だけでなく、武器を持てれば子供でも参加して戦う。そうでないと、弱者はすぐにやられる時代なのだ。


 日に日に増えている悪人やミュータントから街を守るためにそれが日常となった。


 当初は敵視されてきたアンドロイドはリーダーを失い大人しくなり、数もかなり減ったため、人間が管理し身を潜めて暮らしている。


 しかしアンドロイドへの信頼性を失い警戒する人は多く、アンドロイドを作った人間の責任、アンドロイドへの人権について、様々な議論が飛び交う。


 それでもテクノロジーに慣れてしまった人間達は機械に頼り利用する。



 今に至っても、終戦日を記念日として、世界的に視聴会が開かれる。

 フィルムに流れる、地獄と絶望が広がる焼け野原の街の様子。


 犠牲者の遺体を無心に葬り、立ち止まる暇もなくひたすら働き、街が年々日に追う度に復興を遂げて行く様子。


 戦争を繰り返さないようその日を忘れないために、当時の様子を集めた動画ビデオ見る度に、大人達は悲しみ辛そうに嘆く。


 だから学校の子供達は、必ず戦争について教えられる。戦争が何故起こったか人間の過ちとは何か、どんな事あっても生き抜き、立ち上がり希望を失わない事を教え学ぶのだ。


 スターウィルの町長は視聴会を終え、必ず最後にそう締める。


「私達はこの悲しみを忘れず、乗り越え、再び戦争のない社会を作るのです。これを綺麗事と吐き出す人もいますが、自分が今何ができるかすべきか、考える事を怠ってはいけません。以上、お疲れ様でした」


 街に集まった人達は市民コミュニティセンターを出て話す。


「とはいえ、腹が減ってはなあ」

「食糧の受給率が少なすぎるんだよ」

「野菜作ろうとすると、放射能で全然作れねえし」

「ええ?だって、この町はもう殆どないだろ?」

「町長が農業推進とか協議してるみたいだけどな」

「あー腹減った。あ、今日市場に配給来る日じゃね?」

「昼だから行かなきゃ。おかわり二杯までだって」

「増えたな!アンナも早く来いよ。お母さんにも元気になってもらって、また顔見せてくれよ」

「アンナのお母さん、町一美人だもんな。最近顔見せてくれないから寂しいよ」

「うん、そうだね、行く!」

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