6-2 連携の力ー星喰いの群れと戦術の妙
突如、地面が再び微かに震え始めた。
「この振動……村で防衛線を構築してから戦うのは無理だな。」
カイエンの鋭い声が緊張を帯び、空気をさらに張り詰めたものに変える。
部隊全員の表情が一瞬で引き締まり、それぞれが手にした武器に力を込める。
気配が周囲の森全体に広がり、無言の警戒がその場を包み込んだ。
「仕方がない。この場で第二波との戦闘を開始する。」
彼がそう決断すると同時に、森の奥から重々しい足音が響いてきた。
それは単なる足音ではなく、大地そのものが震えるような低い振動を伴っていた。
やがて、視界の中に新たな星喰いの群れが姿を現した。
その瞬間、緊張感が一気に高まる。
星喰いの群れはこれまで以上に統率が取れており、前衛には鎧のような硬質の皮膚を持つ大型個体が壁のように並び、その背後からは俊敏に動く中型個体が迫ってきた。
そして、そのさらに奥では、飛行型の星喰いが旋回し、まるで戦場全体を見渡して指揮を執っているかのようだった。
「この動き……ただの星喰いの群れじゃない。」
ゼフィアが呟いた。
その声には不安が滲んでいたが、彼女の目は冷静に敵を見据えていた。
「全員、陣形を整えろ! 前衛は敵を引きつけ、中衛と後衛は迎撃と支援に徹するんだ!」
カイエンの指示が飛ぶ。
彼の声には戦場で培われた経験が宿っており、メンバーたちは即座にその言葉に従った。
大地を踏み鳴らす大型個体の圧力に、部隊の前衛は一瞬たじろいだ。
レヴァンは剣をしっかりと握りしめ、その目を敵の動きに固定した。
風の星紋術を使う準備を整えながらも、相手の動きを見極めようとしていた。
「レヴァン、ゼフィア、前に集中しろ! あの大型個体に突破されるな!」
「了解!」
レヴァンは即座に応え、剣を構えた。
彼の視界には大型個体の硬質な皮膚が迫り、その巨大な腕が一気に振り下ろされるのを捉えた。
「風刃一閃(ふうじんいっせん)!」
風を纏った剣を振り抜く。
鋭い音を立てて飛び出した風の刃が、敵の攻撃を受け止めつつ、その厚い外殻に浅い傷を刻む。
しかし、それだけでは止められない。大型個体は再び腕を振り上げ、さらなる攻撃を仕掛けてきた。
「くそ、硬いな……!」
レヴァンが呟きながら後退すると、ゼフィアが隙を突いて敵の足元に炎を放った。
「火焔輪舞(かえんりんぶ)!」
渦巻く炎が大型個体の動きを一瞬だけ鈍らせる。
その間にレヴァンは距離を詰め、風の星紋術を最大限に利用して斬撃を繰り出した。
「タリス、飛行型を抑えろ! ナディア、地上の防御を頼む!」
カイエンがさらなる指示を飛ばすと、タリスは砂属性の星紋術で空に砂嵐を巻き起こし、飛行型の星喰いの視界を奪いながら動きを封じた。
一方、ナディアは植物属性の星紋術を駆使して、厚い蔦の壁を展開し、地上部隊を守る防御壁を作り上げた。
「ここは通さないわよ!」
ナディアの声が鋭く響き渡る。
彼女の蔦が敵を絡め取り、その動きを封じていく。
しかし、星喰いの力は予想以上に強大で、一部の蔦が簡単に引き裂かれてしまった。
「防御が突破されそう!」
ナディアが警告を発する。彼女は冷静に弓を構え、星喰いを的確に撃破していく。
「ナディア、負担をかけるが防御しつつ援護を頼む!」
カイエンの指示に従い、ナディアは植物属性を活用した弓術を駆使して、地上の星喰いを着実に撃破していった。
「これ以上突破させるわけにはいかない!」
タリスが叫びながら、再び砂嵐を巻き起こし、飛行型の星喰いにさらなる妨害を与えつつ、迎撃も行っていく。その隙に、ナディアが防御壁を再び強化し、仲間たちの動きをサポートする。
「敵が多すぎる……!」
ゼフィアが苦々しげに呟いた。
その顔には焦りが見えたが、彼の動きは依然として正確だった。
彼が放つ炎の刃が次々と星喰いを焼き払い、前線の危機を一時的に食い止めている。
「このままでは持たないぞ!......数が多すぎる!」
タリスが叫ぶ声が聞こえる。
彼の周囲には飛行型の星喰いが集まり始めていた。
砂嵐だけでは抑えきれない敵の数が、彼を徐々に追い詰めていた。彼にはもう、同時に撃破する余裕がない。
「タリス、持ちこたえろ!」
レヴァンが叫びながら、大型個体に再びマナと星紋の力をさらに込めた剣を振り下ろした。
その一撃が敵の外殻に深い傷を刻み、一瞬だけ動きを止める。
「ゼフィア、今だ!」
「火焔輪舞(かえんりんぶ)!」
炎の渦が大型個体を包み込み、その動きを完全に止めた。
突如、星喰いの群れが全方位から押し寄せ、混乱が部隊内に広がった。
飛行型の星喰いが急降下し、地上の視界を妨げる砂塵を巻き上げる。
その瞬間、巨大な星喰いが地面を打ち砕き、土煙が立ちこめた。
「カイエン、こちらから敵が突入してきます!」
「安心しろ、俺が撃墜していく!」
タリスとカイエンの声が響くが、その声は次第に遠ざかっていく。
濃い土煙の中で、レヴァン、ゼフィア、ナディアはカイエンやタリスと分断されてしまった。
「くそっ!これじゃ連携が取れない!」
ゼフィアが剣を構え直しながら叫んだ。
その表情には焦りが浮かんでいたが、冷静さを保とうとする意志が感じられた。
「ナディア、何か見えるか?」
レヴァンが背後を確認しながら問う。
ナディアは蔦で目線を高くしてから素早く弓を構え、周囲を見渡した。
「敵が四方から来ているわ!カイエンとタリスとはそれほど離れてはいないわ。流石、カイエンね。タリスと連携して善戦しているわ。でも、私たちもカイエン達も、どの方向を見ても敵が多い!一ついいことは、大型の個体が少し後ろに下がっているわ。」
レヴァンは咄嗟に判断を下した。
「俺が正面を突破する!ゼフィア、左右から漏れ出る敵を押さえろ!ナディア、距離を取りつつゼフィアを援護してくれ。」
「「分かった!」」
レヴァンが正面に突撃すると同時に、ゼフィアが短い槍を構え炎を纏わせた。
彼の攻撃が左右から迫りくる星喰いを焼き払っていく。
ゼフィアが対処しきれるギリギリの数になるよう、ナディアが植物属性の星紋術で撃破や足止めを行っていく。
「これで時間を稼げるはず……!」
ナディアの声は、震えながらも力強い。
この時レヴァンは、正面の敵を風属性を纏わせた剣技で突破していた。
彼はさらに、風属性の星紋術を発動させ、大型個体に突進していく。
「風刃一閃(ふうじんいっせん)!」
鋭い風の刃が星喰いの硬い外殻を切り裂き、鮮血が噴き出す。
しかし、その傷はすぐに癒え、星喰いは再び巨腕を振り下ろしてきた。
「硬いだけじゃない、回復能力まで……!ならば。」
レヴァンはその場で後方に跳躍し、再び態勢を整える。
「左側の動きは鈍ってきたな。だが......レヴァン!このままじゃ押し切られるぞ!」
ゼフィアが警告を発する中、ナディアが右側に木の多重壁を形成するが、敵の数が多すぎて全てを抑えきれない。
「ここで戦術を変える!ナディア、右側の敵を迎撃・足止めしてくれ。ゼフィアと俺で一気に正面を押し切る!」
「分かったわ!」
ナディアが即座に応答し、敵の迎撃と足止めを始める。
「ゼフィア、でかいのを頼む。俺も続く!」
レヴァンの声が冷静かつ力強い。
彼の指揮に従い、ゼフィアは再び炎を纏わせた槍を振るい、前方の敵を強力な技で薙ぎ払った。
「いいぜ、乗ってやる。マナを節約しながらの戦いは性に合わないと思っていたところだ。」
「烈火掃滅(れっかそうめつ)!」
ゼフィアの攻撃が爆発的な威力を発揮し、前方の星喰いを一掃する。
大型の星喰いにもダメージを与えているが、倒すまでとはいかず再生を始めている。
その隙にレヴァンが風と火を融合させた星紋術を発動した。
「灼嵐旋(しゃくらんせん)!」
放たれた風と強力な火が相乗効果で威力を増しながら螺旋状に融合し、大型の星喰いを含めた中心部に直撃する。
大型の星喰いを撃破し、周りの敵も一掃した。
敵の陣形が崩れたその瞬間を逃さず、ナディアが弓矢と植物属性による星紋術で追撃し、後方の敵の足止めに成功する。
「ゼフィア、ナディア、カイエンたちと合流するぞ!」
レヴァンはこの短時間に起きた緊張と二人の命を預かっていたプレッシャーから息を切らしていたが、その目には決意が宿っていた。
三人は陣形を整え直し、再び迫る星喰いの群れに立ち向かっていった。
レヴァン達が分断されて戦い始めた頃、カイエンとタリスは迫りくる飛行型の星喰いに対処していた。
カイエンは光属性の星紋術を発動し、剣を振り上げた。
その動きに呼応するように、大気中のマナが集まり、眩い光が剣先から迸(ほとばし)った。
「聖光乱刃(せいこうらんじん)!」
彼が叫ぶと同時に、無数の光の刃が空中へと放たれた。
その刃は、次々と飛行型の星喰いを切り裂き、漆黒の翼を持つ敵が次々と炎のように燃え尽きていく。
「カイエン、まずい!...いつの間にか、前衛の二人とナディアから分断されています!」
タリスが叫びながら槍を構え、地面を叩きつけた。
その瞬間、砂の嵐が発生し、地上の星喰いを飲み込んだ。巨大な四足歩行の星喰いが砂嵐の中で苦しむ様子が見て取れた。
「砂塵牢獄(さじんろうごく)!」
タリスの低い声が響く。
砂嵐が一瞬で収束し、敵を硬質な砂の檻で包み込む。
だが、その砂を突き破るかのように、新たな星喰いが群れをなして現れる。
「まさか分断されるとは......厄介だな。」
カイエンは地面に剣を突き立てながら短く呟いた。
彼の目は鋭く、次の動きを瞬時に計算している。
ふと、カイエンの視線が遠くを捉えた。
その先には、星喰いの群れに包囲されているレヴァン、ゼフィア、ナディアの姿があった。
だが、彼らの動きは混乱しておらず、むしろ統率が取れているように見えた。
「レヴァン、あの状況でこれほど的確に指揮を……。あれなら、持ちこたえられるか。」
カイエンは驚きを隠せなかった。
風と火を駆使したレヴァンの戦闘は鮮やかで、さらに仲間の動きを最大限に活かす戦術を用いていた。彼が指示を出すたびに、ゼフィアの炎が前方の星喰いを焼き払い、ナディアの植物属性が後方の星喰いを撃破しつつ、足を絡め取っていた。
「あれは……戦術家の才覚だけではないな。自らの武力も戦場で証明している。」
カイエンは剣を握り直し、タリスに向かって声を張り上げた。
「タリス、こっちの敵を一掃して合流するぞ!」
タリスは頷き、砂を纏った槍を掲げた。
「了解!」
カイエンは光の障壁を展開してタリスを援護しながら、猛スピードで前方の敵を切り裂いていく。
その剣技は無駄がなく、光の刃が放たれるたびに星喰いが粉砕されていく。
さらに、もう一方の手に持った盾が、迫りくる星喰いの攻撃を防御していた。
「光閃壁(こうせんへき)!」
彼が叫ぶと同時に、眩い光が障壁となり、タリスに迫っていた敵の攻撃を跳ね返す。その隙をついてタリスが突進し、槍を振るった。
「砂槍嵐撃(さそうらんげき)!」
砂嵐が彼の槍先から発生し、前方の星喰いを貫いた。
その攻撃は群れを一掃するには十分な威力だったが、それでもなお次々と湧き出る敵に二人は歯噛みした。
「まだ終わらんか……!」
カイエンは冷静を装いながらも内心では焦燥を隠せなかった。
だが、彼の目は再びレヴァンたちの動きに向けられた。
「あの状況でこれほど冷静に指揮を取れる者はそうはいない。」
彼は自らの胸中で評価を確かなものにしつつ、さらに光の剣を繰り出した。
カイエンとタリスが前進しながら星喰いを撃退している中、遠くでレヴァンが新たな陣形を指示しているのが見えた。
その声は力強く、仲間たちを信頼していることが明確だった。
「ゼフィア、左を抑えろ!ナディア、援護射撃を続けろ!」
カイエンはその指示が効率的であることを即座に理解した。
(レヴァン、お前はただの剣士ではないな。)
タリスも感心すると同時に、レヴァン達の安定した動きに安堵していた。
「カイエン、もう少しで合流できそうです!一気に片付けましょう!」
カイエンは頷き、目の前の星喰いを切り裂いた。
そして、目の前に広がる景色には、ついに互いが視認できる距離に近づいた仲間たちの姿があった。
「待たせたな、レヴァン!」
彼の声が響き渡り、戦場の一角が再び一つに繋がろうとしていた。
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