4-2 連戦ー炎を操る星喰い

森の中を慎重に進むレヴァンは、遠くの木々の間から微かな光が漏れるのを見つけた。それは焚火の残り火のような赤々とした輝きで、辺りの暗闇の中で異様に目立っていた。


(何だ?火がまだ燃えているのか?)


警戒を強めながら、彼は足音を消して進んだ。

木の根を踏み越え、倒木を避けながら向かった先には、破れたテントと焦げた道具が散乱していた。


その中央には、傷だらけの男性が横たわっていた。


「誰だ…?」


かすれた声が聞こえた。


レヴァンは剣の柄に手をかけつつ、慎重に近づいた。


「俺はレヴァン。星の光の依頼を受けて来た。お前がカイラスか?」


男性は目を薄く開け、荒い息の中で頷いた。


「そうだ…助けが来るとは思わなかった…。」


カイラスの体には焼け焦げたような痕跡が至るところにあり、血も滲んでいた。

特に右足には深い火傷の痕があり、歩くことすら困難な状態だった。


「星喰いの仕業か?」


「ああ…。炎を操る個体だ。あいつの攻撃は俺の土属性では敵わない。火力が大きすぎる。上級の防御術で壁を作っても、すぐに焼かれるんだ。」


カイラスは苦しそうにそう呟いた。

レヴァンは回復力を高め、同時に痛みを和らげる傷薬を取り出し、慎重に傷口へ塗布していく。


「安心しろ。俺が片付ける。」


「待て…あいつはただの星喰いじゃない。炎を纏った盾のような外殻を持ち、攻撃を受けるたびにその熱を吸収して自己再生するんだ…。それに、火の爆撃技で広範囲を焼き尽くす。俺は防ぎきれず、このざまだ。マナもほとんど残っていない…」


カイラスの言葉に、レヴァンは状況の深刻さを感じ取った。


「ここで待て。すぐ戻る。」


レヴァンは立ち上がり、木々の間に潜む気配を探る。

空気がじわじわと熱を帯び始め、風が吹くと皮膚が少しヒリヒリする。


(カイラスの話を聞いている限り、俺も相性が悪そうだ。それに、この熱気…逃げようにも、もう気づかれている。)


星紋術師は万能ではない。

このような状況になった場合、撤退が鉄則だ。


相性が悪ければ、手練れの星紋術師でも命を落とす確率が高くなる。ギルドに入る時に、自分の命を第一に考えよ。と言われている。


しかし、星喰いから逃げ切るのは現実問題、難しい。

カイラスのように、相性の悪い相手と戦闘になると大抵負傷するからだ。


ギルドの依頼報酬が高いのも、雑多で不確かな情報で動かなければならない分、ある日突然、今回のような状況になるからだ。


森の奥深く、レヴァンが周囲を警戒していると、異様な地響きと共に星喰いが姿を現した。


それは全身を燃え盛る炎で包んだ獣のような姿で、その外殻は黒曜石のように光沢があり、火花を撒き散らしている。


「グォォォン!」


咆哮と共に、星喰いは口から火炎を吐き出した。

その攻撃は地面を焦がし、周囲の木々を燃え上がらせる。


(相手の外殻が厄介そうだが、怯んでいる場合じゃない。全力で倒す!)


レヴァンは剣を抜き、即座に星紋術を発動させた。


足元から広がる星紋が青白い光の陣となり、周囲の空気が震える。

彼の全身を包み込むように光が渦を巻く。


「蒼閃舞(そうせんぶ)!」


掛け声と共に、レヴァンは弾丸のように星喰いへと突進した。

風の刃を纏った青白く輝く剣が複雑な軌道を描き、星喰いの外殻に斬撃を繰り出す。


「ズバン!ズバン!」


一瞬のうちに無数の斬撃が繰り出され、火花が散る。


星喰いは咆哮しながら体を揺らし、反撃の火炎を放とうとするが、レヴァンはその隙を与えない。


剣の一撃一撃が風の力を伴い、相手の外殻に亀裂を刻み込んでいく。


しかし、星喰いの反応は速かった。

亀裂の入った外殻が一瞬で再生され、さらに強力な炎を纏って反撃に出る。


「くっ…本当に厄介な再生能力だ。」


星喰いは地面を爪で掻き、溶岩のような赤く熱した岩を生成し始めた。

それを次々に吐き出し、弾丸のようにレヴァンに向かって放つ。


「断風衝壁(だんぷうしょうへき)!」


前方に風を圧縮した壁状の衝撃波が展開され、熱弾を防ぎつつ跳ね返す。

その間に攻撃の隙を窺っていたが、このままでは星喰いの自己再生能力に押し切られると判断した。


(再生を封じなければ…。あいつの外殻が熱を吸収しているなら、それを逆手に取る!)


レヴァンは剣を構え直し、再び星紋術を発動させた。今度は風の力を集中させ、剣の周囲に渦巻く風の刃を一層強化する。マナの消費が激しい。


「これで終わらせる!」


星喰いが次の攻撃で火柱を発生させる中、レヴァンは地面に剣を突き立て、周囲の空気を風の力で強制的に冷却するために大量のマナと星紋の力を解放した。


嵐とも呼べる風の勢いで周囲の空気が強制的に冷やされる。

冷やされた空気を取り込んだせいか、星喰いの動きが鈍った。


(今だ!)


身体強化で一気に間合いを詰めたレヴァンは、剣に風の力を宿し、星喰いに向けて残りのほとんどのマナと星紋の力を込めて全力の蒼閃舞(そうせんぶ)を放つ。


「ズバァァン!」


星喰いを切り刻み、爆発的な衝撃波を生み出した。

星喰いは絶叫を上げ、その巨体が崩れ落ちていく。


「ドォォォン!」


轟音と共に星喰いは塵となり、跡形もなく消えていった。

周囲には静寂が訪れ、燃え残った木々がパチパチと音を立てるだけだった。


(危なかった…相性が悪いと、ここまでマナを消費するのか。)


レヴァンは戦いを振り返りつつも、マナを大量に消費する力技で勝利したことに納得いっていなかった。このような戦い方では、目的を果たす前に命を落としてしまう。


そう思いながら、カイラスがいる場所へ向かった。



レヴァンは疲れ切った体を引きずりながら、カイラスの元に戻った。


「倒したぞ。これで安全だ。」


「何!?あいつを倒したのか…?思った以上の腕前のようだな…本当に感謝する。俺一人では今ごろ、命を落としていた。」


カイラスは弱々しく微笑み、力なく頷いた。レヴァンは彼を支えながら、二人で森を後にした。


その日の夕暮れ時、カイラスを街の医療班に無事引き渡した。


依頼の完了報告のため、ギルド支部に戻ったレヴァンは支部長のグラハムと話していた。


「本当に良くやってくれた。星の光はお前を誇りに思う。」

グラハムは、レヴァンに深く頭を下げた。


「必要なことをしただけだ。」

簡潔に答えつつ、レヴァンは質問をする。


「分厚い外殻を持った個体は見かけるが…火を自在に操り、熱を利用した再生能力を持った個体なんて聞いたことがない。最近は、今回のような強力個体が増えているのか?」


「結論から言うと、増え始めている。おかげで、手練れの星紋術師が足りていない。幸い死傷者は出ていないが、何の前触れもなく突然出現することから、上級の所属者にも注意喚起をし始めていたところだ。カイラスの件も、昨日お前が来てくれなかったら俺が直接捜索に出ていた。」


他にも、注意すべきエリアや噂程度の強力個体についても、グラハムは隠すことなく情報を教えてくれた。


グラハムとの報告のやり取りや記憶の水晶への登録を終えたレヴァンは、今よりも強くならなければと決意を固め、休息を取るため宿へ向かった。



白い棘の強力個体、炎を操る強力個体との連戦をした上に、カイラスを街まで守り抜いた彼の疲労は限界に達していた。

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