魔獣使いとその日暮らし

藍無

第1話 転生

画面にうつるのは魔王の娘、フェリアとフェンリル。

「あー、かわいい。」

思わず私はそう呟いて笑う。

こんなにかわいい子にはきっと悲しい過去も何もなかったんだろうなあ。

いいなあ、幸せそうで。

フェリアの可愛さが私の疲れを癒してくれる。

私はソファーにとすん、と座る。

そして、ゲームのコントローラーを握り、ゲームを始めようとした。

しかし次の瞬間、私の意識は途絶えた。

最後に見えた景色は、赤く染まった見慣れた部屋の景色だった。

――――――

えーっと、ここ、どこだ?

目を開けるとそれは知らない場所だった。

私は起き上がり、きょろきょろとあたりを見回す。

そこで臭いにおいに気が付き私は目の前を見る。

すると、目の前には濁った色の汚い川が流れていた。

そしてそのわきにある道に私は倒れていたのだということに気が付く。

すると、となりには白いきれいな毛並みの狐のようなものがいる。かわいい。

私は思わずその毛並みを撫でる。

すると、驚いたような様子でその狐のようなものは起き上がった。

「ぐぅ。」

急に毛並みを撫でるな、と言いたげな不愉快そうな表情で狐はそうないた。

「ごめん。」

私がそう言うと言葉が通じたのか、仕方がないな、といった様子で狐のようなものはその場に座り込んだ。

「きみ、賢いんだね。」

私はそう言って、狐のようなものの頭を撫でる。

当然だろう、と言った様子でふんっと鼻を鳴らしてその獣は私の手にすり寄る。

かわいい。

しかしどうしてだろう。

この狐みたいなこ、どこかで見たような気がする。

「きみは、誰?」

私がそう尋ねると、その狐のようなものは驚いたような顔をする。

そして、お前大丈夫か?と言いたげな顔でこちらを見る。

「だいじょばないよ。記憶が無いんだ。」

私は素直にそう言った。

そうすると、そのフェンリルは急に消えた。

代わりにその場所には白髪に凍えそうなほど冷たい水色の瞳の青年があらわれた。

「えっ?」

私はわけがわからなかった。

どういうこと?

さっきまでいた狐みたいなのはどこに行った?

この青年は誰?

「お前、本当に言ってんのか?」

青年は疑わし気な目でそう言った。

「ごめん、あなたはだれ?」

「え?さっきまでお前の隣にいたフェンリルだけど?そんなこともわからないのか?」

「まじ?」

どうやら私の隣にいた狐のようなものは、フェンリルだったらしい。

そして、さっきのフェンリルは人の姿に変身できるらしい。

なにそれ、すごすぎなんだけど。

そんなことを思っていると急に頭が痛んだ。

すると、次の瞬間には頭の中に知らない記憶が流れてきた。

それは、この体の元々の持ち主の記憶のようだった。

「なるほど。」

どうやらこの体の元々の持ち主は、捨て子だったらしい。そして、毎日盗みなどをはたらいてなんとか生き延びていたらしい。

そして、この隣にいるフェンリルは記憶があるときからずっといる。幼いころからずっと一緒にいる友達のような存在ならしい。

「何がなるほどなんだ?」

困惑した様子でそのフェンリルは私にそう聞いた。

「ううん、大丈夫。勝手に納得しただけだから。」

「今日のお前、なんか変だな。」

このフェンリル、もしかして私がこの体の元の持ち主とは違うことに気が付いている?だとしたらまずい気がする。

「そう?」

私はとぼけてみた。

「ああ、なんか変な感じだ。」

「気のせいだよ。」

気のせい、という言葉はなんていい言葉なんだろう。

便利だなあ。

美しき日本語。

「そうかな、まあいいか。」

フェンリルは納得したのかしてないのかよくわからない様子でそう言った。

「で、今日のターゲットは誰だ?」

「ターゲット?」

一瞬何を言われたのかわからなかった。

しかし、次の瞬間に理解する。

どうやら、今日は誰からお金やものを盗むのか、と聞いているらしい。

「どうしようかな。」

転生した直後に盗みを働くのは普通に嫌だ。

気分が悪すぎる。

どこか、働く場所はないだろうか。

私は、働ける場所を探してみることにした。

きょろきょろとあたりをみた感じ、この世界は元居た世界とはかなり違うことに気が付いた。なんと、頭上の橋を歩く人たちは昔の西洋で着てそうな洋服を着ているのだ。そして、私のとなりにはフェンリルがいる__ということは、異世界?

気が付くのがかなり遅れたかもしれないが、私は、異世界転生したらしい。

――――――

「ふふっ、あははっ。」

思わず笑みがこぼれる。

その女の首がソファの上に落ちる。

血が、あたりに飛び散っている。

「殺してやった。殺してやったぜ。あははっ。」

そこへ、誰かの足音がする。

「みほー?どうしたの?」

どうやら、声からして俺の声に気が付いたこいつの母親らしい。

けど良いんだ。俺は逃げない。

こいつを殺せただけで十分だ。

これは、俺の復讐を邪魔した罰なのだ。

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