第21話
飲み会当日。
リコと高杉は先に店に入り、2人を待っていた。
半個室の席で、廊下側には襖がある。
人の気配がするたびに、2人は自然と耳を澄ませた。
「2人とも来ると思う?」
リコが尋ねる。高杉は少し首を傾げてから答えた。
「ハルちゃんは来ないなら連絡してくるでしょ」
「倉沢、バックれないかな。私がここまでしたのに」
「バックれないでしょ。来なかったら…当直なんじゃない?」
「うーん、一応倉沢の都合も聞いとくべきだったか?」
「いや、倉沢なら仕事以外の都合はつけるよ。その熱量なら」
「えー?なんで分かるのー?」
高杉は笑った。
「本気だったら男はそのくらいするよ。最後の砦なんだし」
2人がそんなやり取りをしているうちに、集合時間は5分ほど過ぎていた。
リコの携帯にLINEが届く。
「ハル、仕事でちょっと遅れるって」
「よかったね、来るじゃん。ハルちゃんだけ来ないのが1番悲惨」
「確かに」
リコがケラケラ笑った、その時だった。
店員が客を案内する声が近づいてくる。
リコは笑うのをやめ、高杉と顔を見合わせた。
そして静かに襖が開き、少し息の上がった倉沢が顔を出した。
「倉沢先生〜!お待ちしてました〜!」
リコが明るく声をかける。
「すみません、遅れました」
倉沢は軽く頭を下げる。だがハルの姿はない。
さらに隣には見知らぬ男性がいる。
きょとんとする倉沢に、リコは事情を説明し、高杉を紹介した。
高杉と倉沢は互いに丁寧に挨拶を交わす。
「ハルは仕事で少し遅れるそうです」
「そうですか…え、僕がいるの知らないんですよね?尾崎さん怒りませんか?」
「怒ります」「怒ります」
リコと高杉は即答した。
倉沢はさらに困惑し、2人を交互に見る。
そこでリコが切り込んだ。
「ところで倉沢先生は飲みにも行ってるし、外来にも会いに来て、私にまでお願いするほどの熱量をお持ちなのに、なんでLINEの交換すらしてもらえてないんですか?伝わってないのでは?」
「また会いたいとは言いました」
リコはつまらなそうに頬杖をつく。
「それだけストレートに言ってダメなら詰みゲーでは?」
高杉が横から口を挟む。
「ハルちゃんは鈍いとこあるし、“会いたい”を真に受けてないんじゃない?」
その言葉に、倉沢はハッとした。
ハルに言われた「からかうから」という言葉と繋がる。
「尾崎さんはからかわれてるって勘違いしてるかもしれないです」
リコは注文ボタンを押しながら深くため息をついた。
ハルに「先に始めてる」とLINEを送り、3人は注文を済ませる。
「ハルのことだから、怒らせるようなことしたかも!とか思ってそう」
「怒ってるんですかって言われました」
リコの予想が当たりすぎて、高杉は笑いをこらえる。
「ハルってバカなとこあるよね。怒ってたらわざわざ外来に会いに来たりしないじゃんね」
「倉沢先生は会いたい理由とか言わなかったんですか?」
「タイプですって言いました」
「軽いよ」「軽いな」
また2人の声が重なる。
「でも本当にタイプなんで」
「ハルに会うと気分が良くなるって言ったじゃなーい」
「なります。でも顔もタイプなんで」
「倉沢、伝える方を間違えてる」
「リコちゃん、お口が悪くなってる」
呆れたリコを、高杉が軽く制する。
倉沢は静かに「いいですよ、倉沢で」と言う。
高杉は少し考えるように2人を見た。
「でもハルちゃんも、倉沢先生の顔はタイプって言ってたんでしょ?」
「そうそう!入院中にLINEで言ってましたよ〜!」
リコの顔が一気に明るくなる。
「それは僕も言われました」
「言ったんか」
リコの笑顔が一瞬で消える。
高杉は「言いそう」と苦笑した。
届いた酒を飲みながら、リコは渋い顔をする。
「ある意味、両想いなのに世話が焼けそうだな」
「でも倉沢先生は頑張ってると思う!行動力も熱量も!」
高杉の言葉にリコも少し同意する。
「問題はハルだね。可愛げがないよね?」
「すごいハルちゃんのことディスるじゃん…」
「尾崎さんは可愛いですよ」
倉沢の発言に、リコと高杉は再び真顔になる。
リコが少し苛立ちながら言う。
「なに?倉沢は天然なの?ていうかうちらに言われてもな!ハルに言いなよ!」
だが、それに高杉が反論した。
「いや!本気で好きな子には、そんな軽いこと言えないんだよ!好きとか可愛いとか簡単に言えない!言いたくない!ね?!」
高杉が同意を求めると、倉沢は頷いた。
「そうっすね」
リコはさらに眉をひそめる。
「結託すんな!」
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