たとえば






 たとえば蟻になれたなら

   三キロだって歩きたい

 たとえばぼたんになれたなら

   たがい違いで笑いたい


 たとえば雷落とせたら

   むっと睨んで怒りたい

 たとえば鉢になれたなら

   やらかい心で支えていたい



 たとえば冬の鴉のように

   お空のお怪我を隠して啼くよ

 たとえば秋の茸のように

   大地の涙を集めて実るよ


 たとえば夏のたわわのように

   小川の棲み家に模様を描くよ

 たとえば春のわかれのように

   まだ見ぬ白紙の絵筆となるよ



 たとえ綺麗ごとならべても

   あの山々は善くならないけど

 たとえ月夜のかげりのなかでも

   あの星いくひら拾ってつむぐよ


 たとえにならない悔しさ捨てて

   勝手に足踏み進んでゆくよ

 私がたとえば蟻ならば

   草木をなだめて歩いてゆくよ





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