ルール不明の精神実験

ちびまるフォイ

モニターを開始します

「実験に参加いただきありがとうございます。

 ここでは、あなたの精神状態をモニターしています。

 必要なデータが取られれば自動的に実験は終了します」


部屋に集められたのは複数の男女。

そしてなんら説明もなかった。


「じ、実験……?」

「どうして私がこんな場所に?」

「どこだよここは!」


面識もなく、なんの一貫性もないメンバー。


「これってデスゲームとかじゃないのか?

 最近よくマンガで見るシチュエーションだ」


「でもそういうのって参加者を募ったりするんじゃない?」


「無作為に選ばれることもあるんだよ」


「でも最初は実験と言っていたじゃない。

 精神状態をモニターしているとも言ってたわ」


「それがどこまで本当なのかわからないだろう」


「デスゲームだとしてもルールがわからないじゃないか」


彼らが連れてこられただだっ広い無機質な部屋にはなにもない。

制限時間のタイマーもなければ、人の命を奪う装置も。


「部屋に何もないし……。ちょっと調べてみようか?」


「勝手に動くのはあぶない! 危険な殺人トラップがあるかも!」


部屋を探索することもできず、

集められたメンバーはお互いのことを話すことにした。


そうしているうちに、実は共通点があったりなかったり。

集められた理由や、この謎の実験に参加している理由がわかる。

そんな風に思っていた。


自分語りをリレーする時間が終わっても成果は得られなかった。


「なんか……ぜんぜん共通点なかったな……」


「我々が気づいていない共通点が実はあるのか。

 それとも、本当に共通点がないのかわからないな」


「おい。本当に大事なことを隠してないか?

 話していない情報のなかに共通点があるかも」


「ちょっと! 私はちゃんと全部話したわよ!」


「それを証明できないだろ!!」


「それはあなただって同じでしょう!?」


「やめろ! お互いが疑心暗鬼になったら思うツボだ!

 精神状態をモニターしていると言ったんだ。

 感情を動かすことを目的にしているのは間違いないだろう」


「でもこのままじっとしているのも……」


「そうだな……」


集められた人たちも話すことが尽きたので、

この無機質でなにもない部屋の探索へと移ることにした。


下手に動いて殺人トラップが起動して即死。

そんな不条理デスゲームな展開にならないよう慎重に調べていく。


「……よし、こっちは何もなさそうだ。

 一応、俺が歩いた場所を歩いてくれ」


「こっちの壁もなにもなさそう。

 ひとしきり触ったけど、何も起動しなかった」


「私は建築士だが、この壁や床の奥に罠はないと思う。

 罠があるなら叩いたときにこんな音はしない」


時間はかかったがぐるりと部屋の調査が終わった。

この部屋はどこまでも安全でなにもないということがわかった。


「ねえ、これって本当にデスゲームなの?」


「いや……もうわからない……」


「最初に精神状態をモニターしていると言っていたし

 わざわざ手の込んだトラップで殺す必要もないだろ」


「そうかも……」


「じゃあなんで私達はずっとここに閉じ込められてるのよ!」


「まだ必要な情報が集まってないんだろう?」


「もういい加減にして! 早く解放してよ!! 十分に情報は取れたでしょう!?」


終わりの見えない監禁は多大なるストレスを伴う。

集められた人たちはしだいにイライラしはじめた。


そして、ついに一人が限界に達した。


「ふふ……ふふふ……」


「お、おい……どうした……?」


「わかった。わかっちゃったんだ。すべてが」


「は?」


「まだわからないのか? 観察者はここにいるんだよ」


「どういうことだ?」


「この部屋にはなにもない。にも関わらず、俺たちは争ったりしている。

 精神状態も乱高下を繰り返した。まさに意図通りだ」


すでに目からは正気を失っていた。


「お前らの誰かが、本当はモニターしている奴なんだろう?」


その目は他の人達に向けられる。


「連れてこられた風をよそおって、本当はずっと見てたんだ!

 俺達がどんな反応をしてどう動くかを!

 そうじゃないとおかしい! そうに決まってる!」


「落ち着け! そんなのわからないだろう!」


「お前!! 怪しいぞ! 図星をつかれて焦ったんだろう!!」


「ちがう。お前が変なことを言うから……」


「はやく、ここから出せ!! 嘘つきめーー!!」


止めに入った人間を容赦なく殴りつける。

倒れたその頭を何度も何度も踏みつけ、ついには動かなくなってしまった。


「ああ……違ったみたいだ……。

 だって……自分が死んだら……実験も意味がなくなる……」


「ひ、ひとごろしーー!!」


「ふふ……そうか。わかったぞ。最初からこうすればよかった。

 実験の参加者なのか、モニターしている奴なのか。

 それを確かめるにはこうするのが早かったんだ……」


それまで真っ白に統一されていた部屋は真っ赤に染まった。


閉じ込められた人たちはお互いを襲い始め、

ついには部屋に誰もいなくなってしまった。

ただ死体が転がっているだけの場所となった。




「これにて実験は終了いたします」




十分なデータが取れたことで実験は終了した。



「この実験では人間がお互いに傷つけ合うのを見たとき

 人間がどういった精神状態になるのかをモニターしていました」



得られたのは被験者に大きな心の動きが無いことがわかった。



「実験に参加いただきありがとうございました。

 それではこの画面を閉じてしまって大丈夫です。お疲れ様でした」



(※あなたの精神データは今後の小説づくりの参考として使われます)

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