22.夜の窓を叩いたモノ

 夜八時過ぎ。


 新西府中駅と西府中市第一高校の中間地点にあるファミレスは、ピークタイムも終わりに近いというのに、沢山の客でまだまだにぎやかだった。


 あたりを見回せば――学生グループだとわかる私服姿の若者たちも結構な数いて、さすがは夏休み終盤だと思う。

 みんな、過ぎゆく二〇一六年の夏を惜しみつつ、友達との談笑にふけっているのだろう。


「ねえ。今じっくり見てたんだけど、東悟くんの手って凄くない? 指太すぎっていうか……なんか、肌色のゴムとか巻いてる?」

「そりゃあ鍛えてるからね。古流の空手家が、拳の硬さで相手に負けてたら話にならないし」

「じゃあ瓦割りとかもやったりするんだ。ね、ね、最高で何枚割ったことある?」

「割らないよ、あんなもの」

「え~~? MOZUKINモズキンの動画で、格闘家と瓦割り対決やってたけどなぁ」

「デモンストレーションなら派手でいいかもだけどね。割ってく端から衝撃が抜けるから、拳の鍛錬にはならないかな」

「じゃあ杵築くんは今まで何を叩いてきたわけ? ちょっと興味あるわ。教えてよ」

「メインは砂袋だね。小石と砂利も混ぜてパンパンに詰めた奴。あとは時々――樹と岩」


 俺と野間さんと青木さんも、私服姿の若者たちと同じだ。

 野間さんと青木さんのに俺が向かい合う形で窓際の四人席に座り、遅めの夕食をとりながらどうでもいい話題で談笑している。


「樹と岩? 樹と岩って何? どゆこと?」

「言葉のままだよ。休みの日に時々電車で山まで行って、樹と岩を叩くんだ。素手と素足で」

「うわ~~。痛そう……」

「それって怪我とか……樹なんか叩いたら血だらけにならない?」

「学校の桜でやってみてよ。あたしと碧で見てるから」

「いいのかい? 来年以降、その桜が春に花を咲かせないかもだけど?」

「またまた~。そんなことあるわけないじゃん」

「いや、俺がよく行ってる場所の樹、今じゃあだいぶ枯れたよ?」

「え……マジ……?」


 スポーツバーを出たあと、本当は二人を自宅まで送り届けるつもりだったのだが、『せめてなんかおごらせて! おいしいもの食べに行こ!』と野間さんに言われ、『杵築くんが空手始めた理由とか、杵築くんのこと色々教えてよ』と青木さんに言われて、ファミレスに入ったのだ。


 俺が頼んだのは、ハンバーグミックスグリルとライスのセット。

 野間さんと青木さんは、地下クラブの惨状を見たあとで肉類を食べるのはさすがにきつかったのか、夕食とは呼べない大きなチョコレートパフェだった。

 当然、ドリンクバーも三人分だ。


「あ。東悟くん、飲み物からじゃんか。取ってきてあげるね。炭酸水でいいんだよね?」

「杵築くんは甘いものは嫌い? さっきのバーでもただの炭酸水だったよね?」


 料理が来るまでの間、俺は二人からの質問攻めに遭っていた。


 ――空手はいつから始めたの?

 ――空手の練習って毎日してるの?

 ――空手って、普通に習うだけであんなに強くなれるものなの?

 ――中学の頃も空手のことは誰にも話してなかったの?

 ――そんなに大きな身体だと、毎日のご飯とか、お母さん大変じゃない?

 ――杵築くんって結構なアニオタだと思ってたけど、そんなに毎日毎日空手やって、いったいいつアニメを見てたの?


 そのすべてに回答し終えた俺は今、ハンバーグで白米をもしゃもしゃ食べている。


 混み合うドリンクバーに野間さんが時間を取られている間。


「――わたしも美優季も、しばらく外で遊ばないようにするから」


 俺と一対一になった青木さんが不意にそんなことを呟いた。


 俺は口の中にあったハンバーグを飲み込んでから、「本当、二人とも変な奴らに目を付けられたよねぇ……」とため息を吐くのだ。


 ゲヘナの白い女は『またお目にかかりましょう』とか言っていた。ということは、まだ野間さんと青木さんの二人を諦めていないということだ。

 ゴルゴダの残党か、それともゲヘナ自体か、それはわからないが、いつか再び二人に危害を加えるために現れるだろう。


「学校の登下校も、杵築くんにボディーガードをお願いしようかしら」

「いいよ。二人の家に迎えに行けばいい?」

「冗談だってば」

「はははっ。まあ、奴らが来るとしても、そんなに遠い将来じゃないと思うよ?」

「わかるの? どうして?」

「ゲヘナの使者とやらが言ってたろ? 映像作家とそのファンがいるって。多分、ファンからの注文があって、それでゲヘナが動いているんだよ」

「じゃあ……その『ファン』ってのが元凶……?」

「ああ。十中八九、性欲強めの変態野郎だろうから、そんな何ヶ月も待てないと思うんだよね。……とはいえ、俺は俺で、向こうのかたを待つ気はないけど」


「――――――――――――――――っ」


「青木さん?」

「あ、ごめん。なんかキモすぎて固まってた。杵築くんのことじゃないよ。なんかね……金持ちのおっさんが、わたしと美優季のレイプビデオで『必死にいたしてる』の、想像しちゃって――おえ」

「はははっ。そういうの、あんまり口に出さない方がいいと思うぜ?」

「ごめんね。でも本当にキモくて怖かったから、口に出さなかったら頭から消えなかったかもだから――杵築くんにちょっと甘えた」


 ペロッと小さく舌を出した青木さんが、チョコレートパフェをスプーンでつつきチョコクリームを口に運ぶ。


「うま」


 一度目の人生じゃあ、野間さんと青木さんと外で遊ぶことなんかあり得なかった。


 なんの特技も持たない気弱なオタク少年にとって、二人は絶対に手が届くことのない高嶺の花だったのだ。

 誰にでも優しい野間さんと青木さんが何かの拍子に話しかけてくれたら、その日一日気分よくいられるくらいには、学校のトップアイドルだったのだ。


 だから俺は、見るからにクールビューティーな青木さんが、甘いものを食べるたびに「うまっ♪」と鳴いて顔をほころばせることを知らない。


 口の端にチョコクリームががっつり付いているっていうのに、気付かないままチョコパフェを食べ進めてしまうことを知らない。


 俺の視線と口端のチョコクリームに気付いて、「お、おいしかったから……」と気恥ずかしそうにうつむくことを知らない。


 ……ふむ……これは、守った甲斐が……。


 俺が感慨深さと青木さんの可愛さに浸ったその時だ。


「あっれ!? 野間じゃねぇ!?」


 いきなり店内に大きな声が響き渡る。若い男の声が野間さんの名前を呼んだのだ。


 見れば――俺の炭酸水をようやく手に入れた野間さんがテーブルに戻ろうとするところに、店から出て行こうとする男の四人組が通りすがったらしい。


「こんなところで奇遇じゃんか! なに? 青木と来てんの? てゆーかなんで制服? 補導されっぞ」


 同じクラスのお調子者筆頭である佐古くんだった。


 残る三人も俺たちのクラスメイトだ。

 四人で新西府中駅近くの繁華街で遊んだあと、この時間までファミレスで駄弁だべっていたのだろうか。


「おいおいおーい! なーんで杵築がいんだよ! なんでそこ座ってんだよ!」


 野間さんに引っ付いてきた佐古くんグループはすぐさま俺の姿を発見。佐古くんがオーバーアクションで俺を指差しつつ文句を言う。


 そんな男四人を無視して、野間さんが俺の前に炭酸水入りのコップを置いた。

 ついでに。

「お待たせしましたご主人様。炭酸水でございます。氷も沢山入れてございます」

 澄ました綺麗な声でそんなことを言ってくれる。


 当然、佐古くんがすぐさま反応した。

「ご主人様って――相手ぇ、杵築だぞ!? ファンクラブの奴らが泣くぞ!?」


 野間さんがカラカラ笑いながら俺の対面に座ると、佐古くんたちが俺たちのテーブルに張り付いてきた。

「マジでどういうこと!? ちょっ――いったい何やってるか説明しろよ杵築!」


 何があったか説明しろと言われても、今日のあれこれをそのまま伝えるわけにはいかない。だから俺は無難な言い訳を即座に考え始めるのだが……。


「「んー?」」

 俺の言い訳よりも速く、野間さんと青木さんが同時に小首を傾げ。


「「ハーレムデート?」」

 野間さんは可愛さに色気を同居させた流し目で、青木さんは冷たい妖艶さを宿した薄笑いで、佐古くんたちにそう言うのだ。


 人生経験の少ない若人なんかが太刀打ちできるレベルの美しさじゃなかった。


 だから四人は「デっ――!?」と鳴いて固まり、その隙に青木さんが俺たち三人が一緒にいる理由をでっち上げてくれた。


「わたしと美優季、今日杵築くんに助けてもらったのよ。街を歩いている時に変な不良たちに絡まれちゃって、ちょうど通りがかった杵築くんがあっという間に追い払ってくれたの。それがマジで格好よかったから、今、ファミレスに連れ込んで杵築くんを口説いてるってわけ」


 すると野間さんも青木さんのでっち上げに乗っかってくる。


「そーそー。めっちゃオラついてる十人に無理矢理カラオケ誘われてビビったよねー」

「違うわ美優季。十五人よ」

「あ、そっか。あれ十五人はいたのかぁ。うんうん、それを一蹴だったからなー」


 ……野間さん、青木さん……いくらなんでもその数字は……。


 どれだけ体格がよかろうと、普通の高校生は十五人の不良に囲まれたら何もできない。女の子の手を取って逃げるのが関の山で、あっさり追い払うなんて絶対に無理だ。


 さすがに誰も信じないだろ――そう思って苦笑しそうになるのだが、クラスのアイドルのお言葉は、俺の想定以上の力を有していたらしい。


 佐古くんが「な、なんだよそれ……ゴルゴダが集会でもやってたのかよ……」と戦慄わななきながらうめく。


 残る三人のクラスメイトも。

「そりゃあ、杵築みたいなでっかい奴がいきなり出てきたらビックリするけどさ……」

「不良十五人だろ? 相手、待ち合わせ時間とかで急いでたんじゃね?」

「それでも十五人相手に突っ込んでいけるのはスゲえな。杵築、そんな度胸あったのかよ」

 と、頭ごなしに否定することはなかった。


 どうにも納得できない佐古くんがわめいた。

「運! 運だって絶対! 杵築が不良に勝ったとか、ぜってー運! たまたま! 杵築みたいなオタク野郎にできるなら、サッカー部エースのオレだと更に余裕だから!」


 そのまま俺の顔に唾を飛ばしてくる。

「ずっりぃぞ! そんな絶好のシチュエーションに居合わせるなんて! いいかぁ!? お前ができることはオレもできるかんな! オレだって野間と青木のヒーローに――――勘違いすんじゃねえぞ!? お前は――」

「あんさ、佐古さぁ」

 まだまだ続きそうな佐古くんのわめきを止めたのは、野間さんのため息混じりの声だ。


 チョコレートパフェをスプーンでつつく野間さんが、佐古くんを横目で見つめながら言った。


「佐古は、本当ほんとに東悟くんと同じことがやれるの?」

「え……?」

「杵築くんのこといつもオタクって下に見てるけどさぁ……やれるの?」


 俺でさえちょっと恐ろしく感じる声色だった。

 いつもと同じ綺麗な声のはずなのに――お前なんかには絶対無理だぞ――と暗に言い含めてくるような、諦めを強要してくるような問いかけだった。


 それで佐古くんがおそるおそる俺に向く。


「お、お前……まさか不良と喧嘩したのか……?」


 俺は両手を軽く持ち上げて、『さあね』のジェスチャーだ。


 それで佐古くんグループの三人は何かを察したらしい。

「マジか……杵築が男を見せたのかよ……」

「この夏休みで人が変わったとか?」

「いや……そもそもオレら、杵築のことよく知らなくね? こいつ、自分のことあんま話さないし。アニメの話してるだけじゃん」


 やがて佐古くんグループの全員が俺を見て。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「…………杵築って、何者なんだ……?」

 息を呑んだ瞬間、「ねえ」と青木さんがクールに言った。


「他の人の迷惑になるからもう行ったら? わたしと美優季だって、杵築くんともっと話したいし」


 しかしそれを聞いた佐古くんが「まさか――」と変な勘違いをする。


「お前っ、まさかこれから二人とワンナイト決めようって魂胆じゃねえのか!? それはファンクラブが許さねえぞ!!」


 想像を大きく飛躍させて勝手に大慌て。狼狽した結果、俺のTシャツの肩口を鷲掴みだ。


「「あ」」


 そう声を上げた野間さんと青木さんは『雷帝・川野との一悶着』を思い出したのかもしれないが、いくら俺でもこれぐらいのことでクラスメイトに手を上げるはずがない。

 佐古くんに落ち着いてもらいたくて、優しく苦笑した。


「大丈夫だよ。ここを出たら、ちゃんと二人を家まで送り届けるから」

「……約束できんのか、それ」

「約束する。アニメオタクの奥手を信用してくれ」

「……ファンクラブにも誓えるか?」

「ああ。ファンクラブにも誓うよ」


 俺と佐古くんはしばらく目を合わせ……やがて佐古くんから視線を外した。


「行こうぜ」

 グループの三人にそう呼び掛けると。


「二学期は球技大会とか、文化祭とか、イベント尽くしだからよ。絶対に二人に格好良いって思わせてやるから。この夏休みでオレ、マジで変わったんだ。二学期楽しみにしててくれ」

 野間さんと青木さんにも最後にそう言って、仲良く四人で会計に向かうのである。


「ばいばーい」


 野間さんが笑顔で手を振ると、佐古くんの後ろ姿が拳を高く挙げたガッツポーズを決めたから、俺と青木さんは思わず笑ってしまった。


 野間さんが可愛く手を合わせて俺に謝る。


「ごめんね東悟くん。変なの連れて来ちゃった」

「気にしてないから。でも佐古くん真っ黒に日焼けしてたね。部活漬けだったのかな」


 青木さんが思い出したように言った。


「文化祭といえば、今年のクラスの出し物、どうするのかしら? 夏休みが明けてちょっとしたら、実行委員を選出しなきゃでしょ?」

「『瓦割り屋さん』しようよ! ランキングつくって学校最強を決めんの! 東悟くんがインストラクターってことで!」

「いやいや。俺は空手やってるの隠してるからね」

「え~~~」

「力仕事でも、事務仕事でも、裏方ならなんでもやるから。でも、『瓦割り屋』はさすがに女子ウケが悪そうだし、無難に飲食系の出し物になると思うよ?」

「東悟くんって男子側の実行委員しないの? やるなら、女子側であたし出るけど?」

「いや~。それは日々の空手稽古に支障が――」


 それから俺たちは二学期に予定されている文化祭のことで話が盛り上がり、佐古くんたち四人が店から出て行ったことにも気付かない。


「そういえば去年の文化祭、野間さんと青木さんのクラス、凄かったよね。英国スタイルのメイド喫茶で二時間待ちの待機列だっけ?」

「あーーあれね。あれ、メッチャ大変だった。忙しすぎて貧血起こしそうだったもん」

「わたしと美優季が客寄せパンダになってたせいで、シフト終わって上がろうとしたら、店内と待機列から大クレームだったのよね……。おかげでわたしたちだけずっとシフト延長されて、お昼休憩もなぜか客の見える場所で取らされたり……」

「はははっ。そりゃあ過酷だ。バイト代もらってもよかったんじゃないの?」


 なんの心配も警戒もすることもなく、無邪気に笑顔で談笑していた。


「ねえねえ。今年さ、シフト合わせて三人で文化祭回らない? まだまだ今日のお礼し足りないし、東悟くんにいっぱい食べさせてあげたいんだよね」

「そりゃあわたしは別にいいけど――」

「じゃあ決まりね」

「ふふっ♪ 杵築くん、美優季に気に入られちゃったね」

「申し訳ない。光栄だけど遠慮しとくよ。二人と文化祭なんか回ったら、ファンクラブの人たちに背後から刺されそう――」


 バンッ!!


 突然すぎる衝撃音に驚いて首を回せば――――俺たちが座っているテーブルそばの大きな窓ガラスに、『白い大男』がカエルみたいな姿勢で張り付いている。


 身長二メートル超のひょろ長で。

 脂ぎった黒髪は顔のほとんどを隠したうえ、背中の中程なかほどに達するほど長く。

 特大の白シャツはまるで地面でも転がったのかと思うぐらいに薄汚れていて。

 白のスラックスは丈が合っていないのか、毛の生えたすねが半分露出していた。


 怪人だ。


 まるで都市伝説の中に出てくるような正真正銘の怪人だった。


「ひぃ」「――っ」


 野間さんが小さな悲鳴を、青木さんが喉から空気を漏らしてしまったのも当たり前だ。こんな化け物を間近で見てしまったのだから当然だ。


 俺は奥歯を噛んで怪人を睨みつつ。


 ――佐古くん――


 白い大男の右腕に抱き締められて一緒に窓にへばり付かされた佐古くんの涙を見る。


 ――ゲヘナか――


 そう思った。すぐさまそう確信していた。齋木を頂点とするゴルゴダなんかに、こんな見るからにヤバい怪人がいるわけがないからだ。


「「――――っ!?」」


 野間さんと青木さんが驚愕に息を止めている間に、白い大男は佐古くんを抱きかかえたまま窓から離れ、物凄い速度で夜の闇に消えていく。

 薄汚れた白服が夜の闇に白い影を引いたように見えた。


 そして闇に消える最後の瞬間、窓の外の佐古くんが短く言ったであろう言葉は。


 ――助けて――


「杵築くん!! 佐古が!!」


 青木さんがそう口走った時には、俺はもうテーブルから立って店内をぐるりと見回している。ゲヘナの人間が他にいないか探している。


 にぎやかな店内は、窓を叩いた大きな物音と青木さんの叫びに一瞬騒然としたようだが、大きな混乱はなかった。

 どうやら俺たち以外に白い大男を見た客はいないらしい。


「ちぃっ」

 大きく舌打ちする俺。


 駄目だ――と思った。


 店内に別のゲヘナが潜んでいるかもしれないから、野間さんと青木さんを店内に置いて佐古くんを助けになんかいけない。

 ゲヘナにどれだけの強者がいるかわからないから、ファミレスの店員に野間さんと青木さんを預けることもできない。

 警察に通報するったって、今すぐ追い掛けなければ到底間に合わないだろう。警察が到着するのは、きっとすべてが終わったあとだ。


「二人とも一緒に来てくれ! 絶対に俺から離れないで!」


 そう言って俺が走り出すと、俺の考えが大体伝わったのだろう、野間さんと青木さんもテーブルを飛び出した。


 俺の後ろ――野間さんが店内を歩いていた店員に一万円を押し付けていた。

「チョコパフェ二つ食べてる席のお金です! 急いでるのでお釣りいりません!」


 俺と青木さんは野間さんよりも一足先に店の外に出て道路の上で首を回し、「杵築くん! あれ!」蒸し暑い闇の向こうに白い影を見る。


「あーーん!! お釣りもったいなーい!!」


 すぐさま野間さんも道路に出てきて、すでに駆け出した俺と青木さんに必死に続いてくれた。

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