第20話
涙が尽き、嗚咽も止まると、彼女はぼんやりと天井を見上げた。頬はまだ湿っていたが、心の中は不思議な空白で満たされていた。怒りや悲しみが収まり、何も感じない時間が訪れたかのようだった。
けれど、その静けさは長くは続かなかった。代わりに、身体の奥底から奇妙な感覚が湧き上がってきた。それは心地よさとも言えず、むしろ困惑を伴うもので、彼女は思わず眉をひそめた。
「……何これ」
声に出すと、余計に自分が奇妙に思えた。さっきまで泣きじゃくっていた自分が、今度は妙に身体が熱っぽい。落ち着かない。
彼女はベッドの上で寝返りを打った。薄いシーツが肌に触れる感覚が、妙に意識に引っかかる。自分の身体が勝手に反応しているような気がして、彼女は慌てて目を閉じた。
「ままならないわね、本能って……」
その言葉は、苦笑ともため息ともつかない声で吐き出された。
彼女は両手を胸の上で組み、深呼吸をした。何とかしてこの感覚をやり過ごさなければならないと分かっていたが、どうすればいいのかは分からなかった。
窓の外では夕陽が落ち始めている。薄暗い部屋の中で、彼女は一人、自分自身と向き合いながら、やり場のない感覚に戸惑い続けていた。
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