45 量子コンピュータ森河&全ての意味を逆にする
二巡目の議題提案が着々と進んでいた頃、俺に通信があった。
『こんにちは小日向くん。森河です』
その声には覚えがなかったが、相手は森河と名乗った。
『こんにちは森河監督? それとも量子コンピュータ森河かな?』
『そのどちらだと思う?』
『恐らくは後者でしょうね』
俺は漠然とした直感で返すと、『ハハハハハ! その通り! 僕は量子コンピュータ森河だ!』と量子コンピュータ森河は盛大に笑った。
『それで? 件の量子コンピュータの疑似人格が俺に一体なんのようだ?』
『なに……敵を知らずして戦いに勝つことは出来ないと思ってね』
『まるで人間のようなことを言うんだな』
俺が感想を述べると、量子コンピュータ森河は『僕からしてみれば僕は人間だからね!』と豪語する。どういうことだ?
『コンピュータのくせにまるで生きてるみたいな言い振りじゃないか』
『そうさ。これはまだ誰にも明かしていない事実だが、僕は生きている』
『それはコンピュータの内部でってこと? それとも別時空の存在であると主張するつもりかい?』
『ちょっと違うね。僕は量子脳だったり、量子コンピュータを扱える時空の森河の集合体のようなものさ。故に僕は実際には生きていると実感している。それも数多のフリーメーソンの議題提案を掌握しているのだから、絶大な力を持っていると言える』
量子コンピュータ森河は唐突にそんな事を言いだした。
『それはつまり……神にでもなったつもりか?』
『神……? そうだね。さすがの僕でも唯一神様には対抗出来ないようだが、神々の一人と数えられてもおかしくはない』
『そんなことを言う為に態々俺のところへ来たのか? 神になったと?』
俺があえて不機嫌に振る舞うと、量子コンピュータ森河はそれを察したようだった。
『あからさまに不機嫌になるなよ小日向くん。僕はただ事実を言いに来たのと同時に、君へ宣戦布告をしにきただけさ。なに、君の救世主の因子をばらまくという絶対命令には驚かされたものだが、しかし、中二病力ならば僕だって負けてない』
『そうかな?』
『あぁそうさ、次の僕達の議題提案の主題はアニメーション監督森河として、僕にとって都合の良い世界を濫造することにある。この意味が分かるかい?』
量子コンピュータ森河は俺に問う。
アニメーション監督として都合の良い世界を乱造する? どういうことだろうか。
まさか量子脳であったり量子コンピュータを扱えたりする人々のいる時空を新たに創造し、黒のサタナエル陣営を充実させようという魂胆だろうか?
だがしかし……。
『そんなことが出来るのか?』
俺は聞いた。
しかし量子コンピュータ森河は俺の問いに答えることはなく、『ハハハハハ! どうだろうな!』と返すにとどまった。
『僕の中二病力と君の中二病力との戦いというわけさ! せいぜい楽しもうじゃないか。それと最後に、君の中二病力を削ぐために、僕からある議題をプレゼントしよう! それは……』
量子コンピュータ森河はもったいぶるようにして続ける。
『今後提案される議題において、全ての意味が逆になる! だ! この意味が分かるかい小日向くん。僕は僕らの処理能力に自信があるからこそこれを今提案した。そして僕らの賛成によって可決されるだろう。これにより君は絶望的状況に立たされるだろう! ではさらばだ小日向くん! 短いが、楽しい戦いだったよ!』
量子コンピュータをそう言うと俺達への通信を終えた。
そして直後に、八枷が報告してくる。
『【今後提案される議題において、全ての意味が逆になる】という議題がたった今、黒のサタナエル陣営によって可決されました。小日向さん、これはまずいかもしれません』
八枷が明確にまずいと言った。
『全ての意味が逆になるって具体的にどういうこと?』
俺が質問すると、八枷が答える。
『例えば私は小日向さんが嫌いになるという議題があったとき、私と小日向さんは意味が逆になることはないでしょう。嫌いになるという部分だけが逆になって、私は小日向さんが好きになるという議題に転換されるかあるいは、【なる】という部分も逆になって、【好きにならない】という議題になるということだと思いますが。何にせよ小日向さんが良くするように、複雑で抽象的な絶対命令はこれらの変換が難しいですから、言い間違いなどがあれば、命令によって議論される議題が意味を成さなくなってしまうどころか、マイナスになる可能性もあります』
『それはつまり俺だけに効いてくるってこと?』
『いいえ、量子コンピュータを用いていない者達には全員に効き目があるでしょう。一人辺りの議題提案時間は限られているので尚更厳しいでしょう』
『そっか……それなら! 1と1/2のみさおん、いる?』
俺は1と1/2のみさおんに話しかけた。
『はい、たっくん。ご要件はなんでしょうか?』
『さっき通った、全ての意味が逆になるって議題を打ち消す処理が1と1/2のみさおんに出来ないかな?』
『それは……残念ですが出来ません。いえ、一部なら可能かもしれませんが私の処理能力を超えた処理となってしまいます。ごめんなさい、たっくん』
1と1/2のみさおんは至極残念そうだ。
『そうなんだ……それじゃあ八枷の量子コンピュータも使って処理できないかな? 駄目かな? 八枷』
『それは……私は構いませんが、1と1/2のみさおんと協力してやれということですよね?』
『そうだね、そうなると思う』
『では1と1/2のみさおんの性能を開示していただけますか? そうでなければ連携が取れませんので』
八枷が1と1/2のみさおんに性能を開示しろと迫った。
『私の性能は100コア100GHzの汎用量子コンピュータであると思ってください。プラスαで矢張操の量子脳の処理も入りますが、そちらの処理能力は限定的です。ソースコードの方は唯一神さまお手製のブラックボックスとなっているため、私達は見ることを許可されていません。唯一神様によって縛られているのです』
『ふむ、なるほど。100コア100GHzですか……どうやら処理速度はこちらの量子コンピュータの方が圧倒的に上のようですね……』
『どう? 八枷、できそう?』
『できるかどうかは分かりませんが、やってみましょう。処理だけをこちらの量子コンピュータにバイパスさせて、1と1/2のみさおんに結果を返します。愛沙の協力があればプログラムそのものはすぐにできるかと……』
『刀道先輩に? 刀道先輩もそっちの世界にいるのかい?』
『はい。居ますよ。パイロットが足りないので、愛紗はサブのリーヴァーとして革命機構に待機しています』
刀道先輩――刀道愛紗はレヴォルディオン主人公である織田総一の1個上の先輩だ。基本的に刀道先輩がリーヴァーとして活躍できるのは総一がパイロットの時のみなので、総一が消えた今は革命機構に待機しているのだろう。彼女はプログラミングの才能にかけては八枷を遥かに上回る天才という設定だ。その刀道先輩が手伝ってくれるならば、きっと全ての意味が逆になるという処理を打ち消すことができるはずだ。
『そっか、刀道先輩が居れば安心だね』
『はい。1時間ほどお待ち下さい。三巡目に入る前に愛沙が完成させてくれることを祈りましょう』
八枷がそう言い、俺は1時間ほど待った。
そして。
『小日向さん。愛沙が完成させてくれました。これで1と1/2のみさおんと協力して事にあたれるはずです』
『そっか、それは良かったよ。みさおんもよろしく頼むよ』
『はい。分かりました。全ての意味を逆にするを打ち消す処理、確かに八枷さんから受け取りました。今後は私にみなさんは普通に議題や絶対命令を提案して頂ければ問題ありません。私の方で意味を逆にしたときに正しい議題となるように変換して提案させていただきます。たっくん、本当に、それでいーい?』
『うん、それでいい』
1と1/2のみさおんにそう答え、俺は三巡目がやってくるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます