44 1と1/2
朝食を食べ終えた俺は、自室に戻り、絶対命令の結果を待っていた。
『小日向さん。どうやら唯一神様が香月伊緒奈さんと連絡を取れたようです。香月さんの議題が唯一神様によって101%票で可決されました。しかし……』
『しかし?』
『どうやら可決直後に議題そのものを遮蔽して隠すような決定となっていたようでこちらの量子コンピュータでも一瞬すぎて把握できませんでした』
『へえ……香月さん頭良いな……でも香月さんが無事だってことがなんとなく分かって良かったよ!』
『はい。そうですね』
『それで? 香月さんは次に誰を指名したの?』
俺は気になったので聞いた。
『それが、次には矢張操さんを指名されたようです』
『そっか……まぁ二人は親友同士だから当たり前かもね?』
『そうなのですか、それならばまぁ、当然ですかね?』
『で……矢張さんの方は? 安否が確認できたのかな?』
『どうなのでしょう……もう大分経っていますが、議題が提案される様子はありませんが……あ! 矢張さんの提案出ました!』
八枷がそう言って叫ぶ。
『ほんとに!? 良かったぁ。じゃあ矢張さんも無事なんだね』
『はい。そのようです。議題は、【小日向拓也及びその味方の議題提案におけるサポートを、唯一神の協力の元に矢張操が行う】ということだそうです』
『ほへー。それはまた考えたなぁ。唯一神様の協力があれば、味方の議題提案も容易になるよね』
『はい。ですが黒のサタナエル陣営によって否決されました。が……これは! 唯一神様によって101%票により可決されました! 多少の議題内容の修正が唯一神様によってなされたようです』
『そっかーそれじゃ味方がこれからどんどん有利になりそうだね!』
『はい。サポートがどのようなものか分かりませんが、矢張さんは次の議題提案者に桜屋立日さんを指名したようです』
八枷による議決状況を聞き、俺はりつひーに声をかけた。
のだが……。
『たっくん。ちょっと待ってくださいね。私もいま少し混乱してるので……』
『え? 次はりつひーの番だって聞いたけど、混乱って?』
『それが……矢張さんが念話をしてきたんですけど……』
『え? 矢張さんと連絡取れたのりつひー!?』
俺は驚きの声をあげる。
『はい。取れたのはいいんですが……待ってください。たっくんと同時に念話してると混乱する』
『あぁ……ごめん。待ってる』
俺はそう言い、りつひーからの報告を待つことにした。
待つこと5分。りつひーが矢張さんとの話を終えたようだった。
『たっくん、私の議決の提案も纏まりました。矢張さんのおかげです。それで矢張さんですけど、1と1/2の世界ってところに今居るそうです』
『はい? 1と1/2の世界??』
『はい。たっくんがいる世界を1/2の世界。私達が今いる世界を1の世界。そして矢張さんが今いる世界を1と1/2の世界と呼んでるみたいです』
りつひーは説明してくれるがあまり良くわかっていないらしかった。
『へーそういう世界の呼び名をしている世界なんだ?』
『どうやらそうみたいです。それと量子コンピュータが発達しているのは私達の世界と変わらないようで、あるサポートAIを唯一神様の協力のもと作ったみたいです』
『サポートAIを?』
『はい。それについてはお楽しみに……としか言えないです』
『そっか。次に俺の順番が来た時には矢張さんと話せるかな? 楽しみにしてるよ』
俺はりつひーにそう答えると、順番をひたすらに待った。
どうやら敵方はその議決提案のほとんどを量子コンピュータ森河に委任しているらしく、八枷が言うには『黒のサタナエル陣営は凄まじい速度で議決提案をしています』とのことだった。
『こっちの味方はどんな感じの人達がいるのかな、八枷?』
『味方ですか……我々革命のレヴォルディオン時空で量子コンピュータが使えるのは、一握りの革命力の高い者及び指導者と決まっています。ですからそこまで多くの人達の議決提案がなされたわけではありませんが、大まかに言えば一巡目は自己防衛に終始されています。と言っても、ほとんど全ての提案を黒のサタナエル陣営が否決していますが……香月さんや矢張さんのように、一部唯一神様により採択された議決案もあります。他の味方の時空に関してはすみません。こちらから人物詳細をお伝えするのは避けてくれと言われておりますので……他の味方の時空に関しても、自己防衛が一巡目におけるトレンドのようですが……やはり黒のサタナエル陣営によってほぼ否決されていますね』
八枷は全時空における議決提案の進捗を詳細に教えてくれる。
『え……? それじゃあほぼほぼ俺一人対量子コンピュータ森河ってこと!?』
『はい。そうなります。ほぼ全員の黒のサタナエル陣営の議決提案数を有する量子コンピュータ森河と、たった一人分の議決提案数を持つ小日向さんとの一騎打ちです。小日向さんは二巡目には救世主の因子を全時空全存在にばらまくという議決提案をなされる予定で予約されているので、事実上、三巡目からの勝負となりますが……正直に言って相当な不利です』
八枷が現在の戦況が芳しくないことを指摘してくる。
もしかして、救世主の因子をばらまくなんてことをやっている暇はなかったのではないか。
今からでも予約を取り消して、まともに味方を増やす方策を考えた方がいいのかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、八枷が『小日向さんの二巡目です』と言った。
俺が予約していた通りに、【救世主の因子を全時空全存在にばらまく】と言おうか、それとも変えようかと逡巡した矢先だった。
矢張さんの声が俺の脳に轟いた。
『たっくん! たっくんの提案は【救世主の因子を全時空全存在にばらまく】。本当にこれで良ーい?』
久しぶりに聞いた矢張さんの声に安心する俺。
『矢張さん! 無事だったんですね!』
俺は嬉しくて矢張さんにそう問いかける。
『ごめんなさい。私は矢張操であって矢張操ではないんです。今の私は矢張操の量子脳と1と1/2時空の量子コンピュータを相互接続して運用される議決提案サポートAI。通称、1と1/2のみさおんって言います。どうぞお見知りおきください!』
矢張さんの声でそう返ってくる。
『え? 1と二分の一のみさおん??』
『はい。そうです! よろしくお願い致します、たっくん!』
俺が名前をそのまま復唱すると、1と1/2のみさおんは嬉しそうに挨拶を返した。
『ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ矢張操さんじゃないんですか?』
『はい。そうなります。声は完全に同じなんですけど、厳密には私はサポートAIです』
『矢張さんの量子脳を相互接続してって言ってましたよね? もしかして矢張さんは脳だけは無事で身体は無事じゃないとかなんですか!?』
『いいえ、矢張操の身体は無事ですよ。ですがそれ以上は禁則事項に触れる為お答えできません』
『そうなんだ! 良かったぁ……でも禁則事項……??』
俺が不思議で問い返すと、1と1/2のみさおんは『はい。たっくんでもお答えできません』とだけ言った。
『それはどうしてですか?』
『一部は1と1/2時空における決め事で、一部は唯一神様との約束事項です』
『そうなんですね……』
『はい。それよりもたっくん。たっくんの議決提案は、【救世主の因子を全時空全存在にばらまく】。本当に、これでいーい?』
1と1/2のみさおんは先程の議決提案を繰り返す。
『それなんですけど、どうしようか迷ってるんです』
俺は素直に1と1/2のみさおんに迷っていることを伝えた。
『そうなんですね。なにを迷っているんでしょうか? 私に分かる範囲で良ければご相談に乗ります!』
『現状ってほぼ俺と量子コンピュータ森河の一騎打ちらしいじゃないですか? 戦況が悪いのに、救世主の因子をばらまくなんて一見意味なさげなことに1ターン消費していいのかなって』
『たっくんは救世主の因子をばらまくのが意味が無いことだと思っているんですか?』
1と1/2のみさおんは俺に聞いてくる。
『いや……意味がないとは言わないんですけど……でも一見無意味じゃないですか。意味があるって分かるんだったらそれがいいですけど……』
『つまり、たっくんは【救世主の因子を全時空全存在にばらまく】という絶対命令の効果が知りたいんですね?』
『はい。分かるものなら……ですけど』
『それでしたら簡単です! いま唯一神様の演算結果を教えて頂きました。それによれば100%の確率で黒のサタナエル陣営を30%弱削る良手と判定されていますよ』
『えぇ……!? 30%弱も!?』
俺は驚きで数字を繰り返す。
『はい。唯一神様による予測演算によればそうなるそうです』
『じゃあ、そのままの方が良いってことですかね?』
『はい。味方のみなさんは、途中から小日向さんの2巡目の議決提案が可決される事を前提に、1巡目の議決案を提案されていたみたいです』
1と1/2のみさおんがそう教えてくれた。
ならば俺はそのままで行くのがいいかもしれない!
『じゃあ、そのままでお願いします!』
『はい。たっくん、たっくんの議決提案は、【救世主の因子を全時空全存在にばらまく】。本当にこれで良ーい?』
『良いです!』
『うん、分かった! じゃあ議決を開始するね!』
1と1/2のみさおんがそう言い、俺の提案による議決が開始されたようだった。
『八枷、1と1/2のみさおんに任せて大丈夫だよね?』
『はい。議決提案通りの議決が1と1/2のみさおんによって小日向さんの案として代理提案されました。どうやらサポートAIは正常に機能しているようです』
八枷が報告してくる。そうして議題の提案は二巡目へと突入した。
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