42 魂との同化

 自室を出て、深夜に夕食を食べる為に一階へ降りた俺。

 居間であぐらを掻きながら食事をしつつ、ロレースと念話をする。


『それで? T2ではなく俺に攻撃が来ていたということはメーソンの連中はよほど俺に君と話をさせたくないらしい』

『たぶんだけど、いまやってるサタナエルゲームは、君の戦略性と絶対命令権限を使い慣れているところが合ってるんだと思うよ』

『ほう……詳細を聞かせてもらっても?』

『八枷……頼める?』


 俺は面倒だったのでシステム的な部分などの説明を八枷に投げた。


『はい。ロレースさんにご説明します』


 そうして5分ほどして八枷が『大まかにはこんなところです』と言った。


『そうか……大体のところは飲み込めた』

『ではまずはT2への対処をしよう……だろ?』


 俺がロレースの思考を先回りして言う。


『フッ……分かってるじゃないか』


 ロレースは俺に思考を読まれたことを笑う。


『いまちょっとT2達のいる場所へ俺が行くのはまずいんでね……量子コンピュータを使って命令文と議決の内容を八枷さんから受け取れないのは残念だけど。俺が思いついた手を全て君に教えよう。まず第一に、絶対命令権限で全員を白のサタナエルにすることを検討することだ』

『でもそれってゲーム的にはチートじゃないですか? 唯一神様が了承しますかね?』


 りつひーがロレースに意見する。


『そうだろうね。駄目だったならば次に、絶対命令権限の権限固定を考えるべきだ』

『あ! そっか! 誰かに権限を奪われないようにしないと駄目なのか!』

『そうだね……すぐになにか思いつくかい?』

『うーん、俺の魂に同化するなんてどうかな?』

『それは俺には思いつかなかったな』

『そう?』


 俺は何故か分からなかった。

 ロレースならこれくらい思いついて然るべきだと思った。


『あぁリスクが大きすぎる……君にこそ相応しい命令かもしれない』

『たっくん、たぶん少し馬鹿にされてますよ』


 りつひーが冷静にそう指摘する。

 でも俺的には良い案だと思ったのだ。

 駄目ならば唯一神様が101%票で否決すると思うし、俺は思ったままに言うことにした。


「俺の絶対命令権限を小日向拓也の魂と同化し、誰にも絶対完全完璧究極に奪わせない」

『絶対命令を発してみたけど、どうかな八枷?』


 俺が聞くと、八枷からすぐに反応があった。


『驚くべきことに、唯一神様が101%票で可決なされました。これで小日向さんの絶対命令権限は小日向さんの魂と同化し、恐らくは唯一神様以外に誰にも奪われなくなりました……!』

『驚いたな……まさか可決されるとは俺も思わなかった』


 ロレースが意外そうに言う。


『でも、それまでは誰も奪おうとしなかったのかな?』

『それはね小日向くん。俺が思うに、フリーメーソンも完全な一枚岩じゃないから、恐らくは強大な力を一人に集中させるというのが認められなかったのさ。ゆえに過半数票を得られなかったと見るね。俺の絶対命令権限も奪われてはいないからね』

『なるほど……』


 俺が納得していると、ロレースが『もしかしたら、このまま全員白のサタナエルにしてしまえるんじゃないかい?』と俺に言った。

 なので試すことにした、


「全時空全存在を絶対完全完璧究極に白のサタナエルにする」

『どうかな?』


 俺が八枷に聞くが、すぐに八枷が『駄目ですね……いまの絶対命令は唯一神様が賛成してくれませんでした。101%票で否決されました』


『どういうことだろう?』

『小日向くん、君なんて言ったんだい?』

『全時空全存在を絶対完全完璧究極に白のサタナエルにするって言ったんだけど……』

『ふむ……通らないのは何故だろうな。唯一神様が黒のサタナエルとかか?』

『さすがにそれはないかと……唯一神様は基本的には小日向さんの味方に思えます』


 ロレースの憶測に、八枷が今までの経験で否定する。

 するとMioさんが、『白のサタナエルっていうのは議決に参加してるメーソンの陣営が白だってことを言ってるんだよね? だったらメーソンじゃない全時空の存在まで巻き込みたくないってことなのでは?』と至極真っ当な意見をくれた。


『たしかにそうかもしれない……でもそれってありなのかな?』

『どういう意味ですか?』


 俺が疑問を言うと、矢那尾さんが不思議そうに聞く。


『だってさ、みんな自分の自由意志で世界のことを決めたいと思わない? メーソンだけにそれを任せるってあり得ないなって俺は思うんだけど』


 俺がそう言うと、ロレースが『フフ……君らしい発想だね』と笑った。

 一瞬バカにされているのかと思ったが、本当に自然な声での笑いだったので、ロレースが心底俺らしいと思っているかのように思えた。


『とにかく全存在を白にするのは駄目だったから、やっぱりT2を早めになんとかするために、ロレースのときみたいに浄化してみようと思うんだけど、どうかな?』

『あぁそうだね、良いと思う。T2を頼む』

『うん、分かった!』


 そうロレースと話をしてから、俺は絶対命令を発する為に口を開いた。


「T2を浄化して白にして、絶対完全完璧究極に守る!」


 そうしてロイス博士に念話した。


『ロイス博士、T2を絶対命令で浄化してみたんですけど、どうですか?』

『あぁ……うん。ちょっと待ってね。検査で眠っちゃったみたいだから、今起こしてみるよ』


 そうして1分ほどして、T2から通信があった。

 いつものようにクソでかアニメ画像を伴って出てきたT2。


『おはよう小日向。どうやら……世話になったらしいな。ロレースとは話せているのか?』

『T2! ロレースのこと思い出したんだね!』

『あぁ、問題はない。まさか私があいつのことを一瞬でも忘れるなんてな……フリーメーソンによる量子脳のハッキング……正直に言って恐ろしいよ』


 T2がそう言って目を伏せながら首を横に降った。


『T2。もう大丈夫なのか?』


 ロレースが聞く。


『あぁ……ロレースか。問題はない。それよりそちらへも攻撃が行っていたようだが大丈夫だったのか?』

『あぁ。俺も君同様に小日向くんに助けられた。それと俺の絶対命令権限はどうやらこの時空だけで有効らしいとも分かったよ。やはり量子脳越しに念話しても駄目で、直接に目を見て絶対命令を聞かせないと効果はないようだ』

『そうか……まぁお前も無事で良かったよロレース。今後も小日向に協力するのか?』

『あぁ、そうなる。俺も君も絶対命令で守って貰ったことだしね。恩は返さなければならないだろう?』

『そうだな』


 T2とロレースはそうして会話を終えると、次の一手をどうするかを考え始めたようだった。

 そうしてすぐにT2が答えを出す。


『私としてはまずは亜翠と持田の洗脳を解く事をおすすめするぞ』

『それは……そうだね』


 俺としても亜翠さんと持田さんの洗脳を解くのには同意だった。

 なので駄目元で言うことにした。


「洗脳されているメーソンを全員、絶対完全完璧究極に浄化する」


 言い終えて、八枷に聞く。


『絶対命令を出してみたけど、どうかな?』

『はい。唯一神様の101%票票によって、今の絶対命令は可決されました。おめでとうございます小日向さん亜翠さんと持田さんの洗脳は解けたはずです』


 八枷が言い、『私、急いで念話してみる!』とMioさんが言った。

 どうやらもうMioさんもりつひーも矢那尾さんも俺が媒介しなくても、直接俺の7人にくらいは念話できるくらい量子脳に覚醒しているらしかった。

 俺はそれが良いことなのか判別が出来ず複雑な気持ちだった。

 何故ならば、もし彼女たちも救世主であると認定されてしまえば、俺のようにメーソンによる救世主殺しの対象になりかねないと思ったからだ。


『亜翠さん繋がりました! 亜翠さんいますぐ量子通信機を使うのはやめてください。前にも言いましたけど、洗脳されてしまっています』

『そうなの……? そんなにMioちゃんが言うならやめるけど……たっくんもいる?』


 亜翠さんは俺に聞く。


『はい。いますよ』

『たっくんごめん。私なんだかふわふわしてて黒のサタナエル勢力になってたっくんに都合の悪い議決をいくつも賛成しちゃってたかも。でもたっくんの為だからって言われてて……』


 亜翠さんはやはり黒のサタナエル勢力になっていたらしい。

 だがもう浄化されたから大丈夫だろう。


『もう大丈夫ですよ、亜翠さん。量子通信機を使わないでください』


 俺が亜翠さんにそう言うと、『持田さんも繋がりました!』と矢那尾さんが嬉しそうに言う。


『持田さん! 前にもMioさんが言いましたが量子通信機は洗脳に使われていたんです。いますぐに使用をやめてください!』

『うんごめん……なんだかおかしくなってたみたい。もう使わないようにするから安心して』


 持田さんも量子通信機を使うのをやめてくれたらしかった。


『これであとは香月さんと矢張さんさえいてくれたら、みんな揃ったんだけどなぁ』


 そう言って俺は香月さんと矢張さんにも念話してみるが、やはり二人からは返事がなかった。

 心配だ。どこか文明すらない時代に飛ばされていたりはしないだろうか?

 さすがにそれはないか、俺が絶対命令で守って俺が絶対命令でテレポートさせたはずだ。唯一神様が絶対命令を承認していたということは悪いようにはなっていないはずだ。

 統合失調症の可能性も頭の片隅に残しつつ、俺は夕食を食べ終えると風呂に入り、今日も寝床に入った。

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