39 第二次サタナエルゲーム勃発
『どうしましょうか小日向さん』
ポールさんによる勝利条件の提示を聞き、八枷が俺に聞いてくる。
『いいよ。やってやろうじゃんかサタナエルゲームを』
俺がそう言うと、ポールさんがひゅーっと口笛を鳴らす。
『そう言うと思っていたよ。悪いが僕は黒のサタナエル陣営だからね。これで失礼させてもらうよ。せいぜい僕らの邪魔を受けながら味方を増やすといいさ』
ポールさんはそう言って通信を切った。
『では会議は一先ずここまでとします。白のサタナエル勢力の方のみ作戦会議を行いますので残って貰えますか?』
八枷が会議の終了を宣言し、俺の味方となってくれる白のサタナエル勢力の人のみが残ることになった。
数分して黒の勢力の人たちが退出したミーティングルームには白の勢力の人のみが残った。
『残った面子を紹介させてもらってもいいかな?』
老紳士、笹田さんがそう言って切り出した。
『はい。構いません。よろしくお願いします』
『うむ、それでは最初に女性メイスンでありメソニックの巫女でもある大潟南くん』
『改めまして声優の大潟南です。よろしくお願いします。唯一神様の御心に沿えるよう全力で頑張りたいと思います』
大潟さんが紹介され挨拶する。
救世主の試練の終了に賛成してくれただけあって、白のサタナエル勢力らしい。
『次に、京都御門ロッジから医師の須郷克人さん……あぁこちらは小日向くんの時空にいた須郷さんだよ。元々メイスンだった者は即日でこちらのフリーメーソンに取り込まれたんだ』
『初めまして小日向くん。須郷克人です。別時空と言っても基本理念は大体は同じだからね。友愛団体であることに変わりはないということだったから、僕は即日でこちらのフリーメーソンに入ったんだ。まさか救世主殺しなんてことをやっているとは思わなかったがね』
須郷さんがそう言って苦笑する。
須郷さんと言えば、歯に絹着せぬ論調で論壇にも有名な医師だったので、俺も知っていた。それに須郷さんは俺の時空でもフリーメーソンであることを公言していたので、もしかしたらいるのかもしれないと思っていた。
『初めまして須郷さん。こちらでもメーソンなんですね。よろしくお願いします』
俺が丁寧に挨拶すると、次々に笹田さんが味方を紹介してくれた。
しかしその中に梅井さんはいなかった。
まぁそれはそうだろう。あれだけ俺の絶対命令権限の脅威を指摘していたのだから、黒のサタナエル勢力だったのだろう。
『それから最後に、このミーティングルームを用意してくれたサークルソフトウェアの野宮鉄狼くんを紹介しよう。彼はたったいま議決を用いてこちらの勢力に加わった。まぁ、恐らくは向こうの勢力が送り込んできたスパイだね』
『いやだなぁ笹田さん。僕はスパイなんかじゃないですよ。ただ小日向くんの絶対命令権限で自害とかを命じられても困るからこっちに擦り寄っただけですって。あぁ野宮鉄狼です。ゲームクリエイターって言ったら分かるかな? そっちの時空でも僕は割と有名だよね?』
『はい。分かります。それと……野宮さんたち、こっちの時空にナノマシンとか放ってますよね? 俺が泣きじゃくっていた時に絵を書いたの野宮さんでしょ?』
俺がそう指摘すると、野宮さんは『いやぁまさかあんなちょっとだけ書いて僕だって看破するとはね、恐れ入ったよ小日向くん』と感心しているようだったが、ナノマシンについては答えてくれなかった。
『俺の時空の野宮さんではないんですよね?』
『あぁ……彼なら今頃、政府によって用意された自宅で僕の作品を見てるんじゃないかな。同じ野宮鉄狼とはいえ、生み出した作品には多少違いがあるからね』
『なるほど……みなさんまだこちらの時空に遷移してきたばかりで色々大変なんですね』
俺がそう時空遷移した皆の状態を慮ると、りつひーが『そうですよ! 私達もまた7人全員同じ宿舎だったんですよ』と報告する。けれどもう香月さんも矢張さんもいない。加えて言えば、亜翠さんと持田さんの二人は洗脳されている。そうだ!
『そう言えば、亜翠さんと持田さんを洗脳していたのは笹田さん達じゃないんですか?』
『それは違うよ小日向くん。彼女たち量子脳を覚醒させている一部のそちらの時空の者達は、主に黒のサタナエル陣営によって量子通信機を用いて洗脳されている。下手すると君のように第二第三の救世主になりかねないからね』
笹田さんはそう教えてくれた。
そうしてもっとたくさんの情報を交換しようと思ったのだが、笹田さんが話し始めた。
『さて、あと少々でインターバル開けだ。この後は私と話そうと思っても私であるとは限らないよ小日向くん。黒のサタナエル勢力の者達が私達のフリをしてくるからね。君は救世主としての能力を十全に発揮して、これらを看破し説得したまえ。健闘を祈る』
笹田さんはそう言って通信を切った。
なるほど、以前のサタナエルゲームで久沢直弥さんがそうだったように、黒のサタナエル勢力は声まで模倣できるということらしい。
『八枷は八枷以外になったりするのかい?』
俺はいまのところの一番の生命線である八枷に聞いた。
『いいえ。私の方で、私の音域の声を完全に抑えさせて貰います。以降の通信では私が他のものになり変わられることはないでしょう。ただし……』
『ただし?』
『割り込まれる……ということだけ言っておきます。小日向さんなら大丈夫でしょうが、私の声真似をしてくる者がいても騙されないでください。さぁインターバルが開けます』
八枷がそう言い、俺は何が起こるのか心配になりながらも待機した。
しかし何も起こらない。
どういうことかと八枷に尋ねる。
『八枷?』
『はい。なんでしょう小日向さん』
聞こえた声は明らかに八枷とは違っていた。
だから言う。
『その八枷声凛は黒のサタナエル』
『けーっけっけ、よく分かったな! まぁもう安易にあの少女とは話はさせないぜ』
八枷のフリをしていた、黒のサタナエル勢力の男の声が遠ざかっていく。
『八枷?』
『もうお分かりでしょう。割り込まれるとはこういうことです』
『そっか、難儀だね……』
『はい』
「じゃあこうしよう。俺の8人と白のサタナエル勢力の人の声を、黒のサタナエル勢力の人は完全に真似できなくさせる!」
俺はそう絶対命令を発した。
きっと唯一神様がこれを許可してくれるはずだ。
『良い命令ですね!』
矢那尾さんが聞いていたのか、感想をくれる。
『うん。これでまずはなんとか亜翠さん達の洗脳を解くところから始めてみよう』
『そうですね! それがいいかと!』
Mioさんが俺の提案に賛成し、りつひーも『はい。頑張りましょうたっくん!』と言ってくれた。
そうして俺は次の絶対命令を考え始めた。
『熊総理に話を聞きたいと思うんだけど、誰か熊総理が量子通信機を使っているか知ってる?』
『はい。私知ってます。熊総理は量子通信機は使ってないです』
そうりつひーに似ているが明確に違う声がした。
『その桜屋立日は黒のサタナエル』
『だめかー。結構似てたでしょ?』
という女性の声が聞こえた。しかし女性の声であっても声を自由に変えられるのだから男性かも知れない。そう思った。
「そうだ。こうしよう。亜翠みずき、持田沙里衣、熊新造は量子通信機を使うなってのはどうかな?」
『本当にそれでいいのですか? 確かにその3人は量子脳を覚醒させているようですが……しかし……』
八枷が、本物の八枷がそう聞いてくる。
『なにか不味いかな?』
『はい。議決でしか勢力変更を行っていませんから、いま恐らく黒のサタナエル勢力に意識せずになっている亜翠さんと持田さんの二人が、自分から勢力変更を出来なくなる恐れがあります』
『あぁ……そっか、俺馬鹿だな。八枷に言われなかったら気付けなかったよ』
『その度に使用の許可を絶対命令で出せばいいことではありますが、しかしそれを利用されて洗脳が解けないままで固定化される危険性もあります』
追加で八枷が危険性を指摘してくれる。
なるほど……面倒な頭脳戦というわけだ。
『じゃあ。全人類は洗脳をやめろってのはどう?』
『はい。それならばいいかと』
八枷がそう言い、俺は絶対命令を発するために口を開いた。
「全人類は洗脳をやめろ!」
『問題はないでしょうが、しかし既に人類以外が洗脳を行っていた場合にそれをやめさせる必要性がないことになります。例えばAIやプログラムを用いた洗脳を行っている場合がそれです。なので、全人類は洗脳をやめさせろとも言ったほうが良いかと』
八枷の、本物の八枷声凛の提案に乗り俺は再度口を開いた。
「全人類は洗脳をやめさせろ!」
俺が言い終えた、その時だった。
クソでかいアニメ画像が目の前に展開され、T2が姿を現した。
しかし、そのアニメ画像は黒の勢力に侵食されて見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます