34 新たなキャラクター
目覚めると、俺はやはり自室のベッドの上にいた。
どうやら量子テレポートとやらは失敗したらしい。
「生きてる……?」
そう呟くと、くそでかいアニメ画像を伴ったT2が通信をよこした。
『まったく……馬鹿なことをしたな』
『T2……やっぱりあれフリーメーソンの連中の策略だった?』
『あぁそうだ。もう少しで心臓発作を起こすところだったが、私がそれを防いだ。有り難く思えよ君』
T2はそう言ってため息をつく。
『けど、二人の量子テレポートはマジでやってたの? それともそれも嘘?』
『どうやら量子テレポートは行われたようだ。安心しろ、香月も矢張も無事だ』
『え? それ本当!?』
『あぁ間違いない。だが君のいまいる時空の香月や矢張と同期したというわけではないらしいな。どこへ行ったのか不明だ』
『そ、そっか。俺のいる時空に来たわけじゃないんだ?』
『あぁ、厳密にはそのようだ』
T2がそう言うと、りつひーが横から割り込んできた。
『たっくん! T2と私も話させてください!』
『あぁ、うん』
『桜屋立日か……周りにフリーメーソンの連中はいないな? それと量子通信機は身につけていないな?』
『はい。どっちも大丈夫です』
『ならば良いだろう。話とは何だ?』
T2はりつひーに聞く。
『まず、香月さんと矢張さんが消えた件ですけど、大丈夫なんですよね?』
『あぁ、どこの時空へ飛んだのかは解析が必要だが、量子テレポートそのものに問題は無かったように思える。恐らくは二人共無事だ』
『そっか……それなら良いんです。じゃあ私も追加で量子テレポートとかしなくて大丈夫ですよね?』
『あぁ、というか止めろと言っておくぞ。これ以上小日向に負担をかければどうなるかは私にも分からない』
『分かりました……これ以上たっくんに負担はかけません。それともう一つ、T2さんみたいな味方の人たちって他にはいないんですか?』
『それは……いくらでもいると言っておこう』
T2がなんだかちょっとだけ楽しそうな表情を見せた。
『マジで!? 他にもアニメキャラクターとかいるの!?』
俺は驚きの声を上げる。
『あぁ……私もそろそろメーソンの連中に補足されそうだからな。味方のことを教えておこう。まず今回の件に関して私が連絡を取れているのは、八枷声凛だ』
『え……? 声凛?』
『そうだ……驚いたか?』
T2は楽しそうに目を細める。
『いずれそちらの、立日達のいる時空の量子コンピュータを通して連絡を取ると聞いている。彼女は100人力だぞ。強い味方なのは間違いない』
『え? 八枷声凛って確か、香月さんがアニメ化したら声をあてる予定だったっていう、たっくんの革命のレヴォルディオンって小説のキャラですよね!?』
りつひーも驚きを隠せないようだ。
『そうだ。その八枷声凛だ』
『で、でも俺の小説のキャラですよ!?』
『虚構があれば実在もある。そう言ったはずだぞ? フフフ』
T2が怪しく笑う。
『それは……確かにそうですけど……自分の小説のキャラが実在するだなんて……』
『無論、設定にいくらかの変更はあるがな……君の作った八枷声凛であることは間違いはないと聞いている。どうやら今回も話ができるのはこれくらいのようだ。メーソンの連中に私も補足されたらしい。未だこちらの方がアドバンテージはあるが、しかしギリギリの戦いになる。引き続き、君は余り踊らされないことだ。もう量子テレポートはするなよ。以上だ』
T2が一方的に言うと映像が途切れた。
『……りつひーどう思う?』
『分かりませんけど、信じたいですね。わたしたちの世界に連絡があるみたいですから、それを待ちましょう!』
りつひーがそう言い、俺達は八枷声凛からの連絡を待つことになった。
俺は疲れ切っていたので、風呂へと入るとそのまますぐに寝ることにした。
翌日。午後2時過ぎ。
ハイパーベンチレーションと腹筋とで疲れ切った体は、午前に起きることを放棄していたようだった。起きてすぐトイレに行くと、血尿に似た褐色のいつもはみない色の尿が出た。
きっと昨日の量子テレポートで体にガタが来てる。そう思った。
『たっくん、実は来たみたいです連絡』
りつひーが朝一番にそう言った。
『え? 連絡ってあの?』
『はい。詳細はMioさんに聞いて下さい』
『え? なぜMioさんに?』
『それが、あちらからの指名だったらしいです。とにかく詳細はMioさんに!』
『分かった!』
俺は返事をして、すぐにMioさんを呼んだ。
『Mioさん? いますか?』
『あ! たっくん! もしかして立日ちゃんに聞いた?』
『はい。連絡があったとだけ……』
『うん、あのね。私達が次元上昇して時空遷移したのは知ってるよね?』
『はい。なんとなくは……』
とはいえ、詳細を把握しているわけではない。
『うん。とにかく新しい時空では量子コンピュータがかなり発達してるんだけどさ、そのうちの1台がどうやら私達の時空とは別時空の存在によってハッキングされたみたいなの。それで、ハッキングした存在が八枷声凛って名前を名乗って、私との対話を指名して来たって言うんだけど……』
『それは……そうなんですか?』
『うん。亜翠さんによれば八枷声凛ってたっくんの小説のキャラだって聞いたよ? 私もそれで読もうと思ったんだけど、こっちの世界の大手小説投稿サイトにはたっくんの革命のレヴォルディオンってなかったんだ。だからあっちの事情とか全然分からない状態で対話してるところ』
Mioさんは状況を教えてくれた。
『それで、相手の要求は?』
『それが……まずはたっくんと話をさせろって言って、私達の量子通信機と相互通信させろって言ってるみたい。でもそれを皆は渋ってて……』
『なるほど、じゃあ俺が言ったらいいですかね?』
『え? たっくんちょっと待って! 私、あんまり詳しくないけど、それって絶対命令権限使うってこと!?』
『はい。ちゃっちゃと済ませますね』
そう言うと、俺は「八枷声凛と話をさせろ!」と絶対命令を発した。
『どうですか?』
『うん……みんな大急ぎでハックされた量子コンピュータに量子通信機の相互接続を開始したみたい。あぁ……ちなみにそんな大掛かりな設備じゃないから、すぐ終わると思うよ。私も出来ればたっくんとは量子脳で話すんじゃなくて、通信機を使えって言われてるんだけど、いちいちヘッドセット被るの面倒じゃんか? それで今はただの量子脳での念話してるけど……あ、終わったみたい』
Mioさんが接続の完了を宣告し、俺は八枷声凛との会話を待った。
俺が一階へと降りて居間に入りストーブを点けた頃、俺の脳に一人の少女の声が響いた。
『こほん。繋がっていますか?』
『あぁ……繋がっているよ。君が八枷声凛かい?』
『はい。おはようございます小日向拓也さん。それとも創造主様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?』
少女の声が聞こえ、俺は驚きで満たされた。
その声は香月さんが落ち着いた知的ロリボイスを出せと言われたら出してきそうな演技そのものだったからだ。だが、まさか香月さんが演っているわけではあるまい。
『いや、呼び方は何でも良いよ。でも、できれば創造主様ってのは堅苦しいから止めてほしいかな。それで、最初に聞いておきたいんだけど、香月伊緒奈さんではないんだよね?』
俺が息を呑んでから聞くと、八枷声凛を名乗る香月さんの声をした存在は答えた。
『はい。厳密には、私は香月伊緒奈と呼ばれる個体ではありません』
『そっか。それならいいんだ』
『はい。香月さんがご心配ですか?』
『あぁ! うんうん! なにか知ってるの?』
『いえ、詳しくは……私は協力者達と共に貴方を助ける為にこちらの時空にアクセスしている部外者なもので、観測データを提供さえして頂ければ分析差し上げますが?』
八枷はそう提案してくる。
だが俺は香月さん達の無事を信じていたし、データ提供をフリーメーソンの連中が拒むと思っていたので、そこまでは頼まないことにした。
『いや、取り敢えずはいいよ。俺は香月さんたちは無事だって思ってるからさ』
『そうですか……それで、話に移ってもよろしいでしょうか? まずはMioさんに……おはようございますMioさん、テキストでのやり取り、ありがとうございました』
『あぁ! うん、テキストだとあれだったけど、本当に香月さんの声してるんだね?』
『はい。私の声は先日までは全時空的には曖昧でしたが、小日向さんの時空における2017年11月16日を以て、香月伊緒奈の声と同等の声であると確定しました』
11月16日……きっと亜翠さんが香月さんを自宅に呼んだ日だ。
『そうなんだ! それは良かったのかな?』
『はい。私としてはこの声が気に入っています』
『そっかそっか! それならいいんだ。それで、なんで私を対話役に指名したのかな?』
『それは……』
八枷が一瞬考えあぐねる。
『いえ、貴方の考えであればある程度シミュレートできるという人物がこちらにいましたので、貴方を指名させて頂きました。それとMioさん。一つ忠告をさせてください』
『はい……?』
『貴方は絶対に量子通信機を使わないようにしたほうがいい。いえ、使わないでください。そしてできれば、他の小日向さんの6人にも同様のことを伝えてください』
『うん……分かったけど、どうして?』
俺も何故なのか理由が気になった。
すると八枷は少し躊躇うように間を空けた。
しかし1分ほどして喋り始める。
『……そうですね。面倒ですし、私の量子コンピュータへの逆ハックも行われているのではっきり言いましょう。あれらの機器はフリーメーソンによって管理され、洗脳にまで使われているからです』
『え? 洗脳!?』
Mioさんが驚きの声を上げる。
『はい。そちらの時空の量子通信機では少しずつ少しずつ、彼らの都合の言いように洗脳が施されるようにできています。ですから小日向さんと話す際にも量子脳を使うことをおすすめします』
『たっくん! みんなに繋いで! 私から説明するから!』
Mioさんが急いで俺にみんなを呼ぶように言った。
だが香月さんと矢張さんは繋がらない。
『亜翠さん! いますぐ量子通信機を付けるのやめてください』
『へ? どうして?』
亜翠さんはきょとんとした言葉を返す。
『八枷声凛ちゃんによれば、洗脳されてるってことみたいです!』
『またまたMioちゃん、大袈裟だってば、それにハッキングしてきたのは八枷声凛ちゃんの方じゃなかったっけ? 大丈夫だよ、大丈夫』
亜翠さんはそう言って量子通信機を使うのをやめる気がないようだった。
それもそうだろう。たぶん量子テレポートのオペレータをしていた頃から使い通しだ。
きっともう既に亜翠さんは……。
『矢那尾さん! 矢那尾さんはやめてくれるよね!?』
『え? 洗脳って本当なんですか?』
『うんうん! 私合ってるって直感してる!』
Mioさんがそう直感で矢那尾さんを説得する。
『分かりました……じゃあ使うのやめます』
矢那尾さんは納得してくれたようだ。
『立日ちゃん!?』
Mioさんがりつひーへと聞く。
『私はそもそも怪しいと思ってたので使ってないです』
『そっか! さすが慎重な立日ちゃん! 持田さんは?』
『私もそんなには使ってないけど、でもこれがないと仕事に支障が出ませんか?』
『そんなの良いから! だって洗脳されちゃうかもなんだよ!』
『分かりました。じゃあできるだけ控えます』
持田さんは冷静にそう返すが、完全に使うのをやめてはくれないようだった。
そうして説得が一通り終わると、八枷が喋り始めた。
『洗脳が済んでいそうなのは2名だけで良かったです……そしてこの会話を聞いているであろうフリーメーソンに宣戦を布告します。私達はあなた達の真の目的を……各時空における救世主殺しを、断じて認めるわけにはいかない』
八枷声凛は堂々とそう言いきった。
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