27 襲撃について

 午前3時の襲撃をやり過ごした後、再びベッドに入り込み眠りについた俺は、いつもよりも遅い午後1時過ぎまで寝ていた。

 きっと驚きと疲れが溜まっていたのだろう。

 朝起きて、自室を出てすぐの洗面台で顔を洗うと、俺は遅い朝食の為に一階へと降りていった。今日は土曜日だからか、母が居間で寝転がってTVを見ていた。

 俺はそんな様子を眺めつつ電子レンジで温めた朝食を取り終えると、二階の自室へと戻っていく。

 自室へと戻り、俺はみんなとの念話を開始した。

 話題は昨日の襲撃についてだ。


『香月さんと亜翠さんから聞きましたけど、昨日確かに、たっくんの部屋がロックオンされたんですよね?』


 りつひーが不思議そうに聞く。


『あぁ、うん。確かに緑と赤のロックオンを受けたように思うけど、でもただの統合失調症の幻覚かもしれないし……』


 俺がそう言うと、りつひーが『それはないですよ』ときっぱりと言いきった。


『まぁ、たっくんにとっては幻覚なのかもしれないですけど、私達にとってみたら共同生活は確実にやらされてるしで、絶対に幻覚とかじゃないですから』

『……みんなはそう言うと思うんだけどさ……俺にとっては微妙な出来事だったよ?』


 俺が統合失調症であるという主張を諦めてそう口にすると、矢那尾さんが『でも、たっくんの部屋にロックオンの光だけは届いたって、一体どういうことなんでしょうか?』と本題に入る。


『そもそもレーザーによる光学ロックオンって本当にあんななのかな? 緑と赤色の大きなレティクルというかロックオンマーカーというかがはっきりと部屋に浮かび上がっていたけれど……』


 俺は経験したことをそのまま表現する。


『え? レーザーの光で照らされただけってわけじゃないんです?』


 りつひーが聞く。


『うん。はっきりと部屋中にロックオンマーカーみたいなのが表示されてたよ』

『うんうん、あとたっくんの顔の周囲もロックオンされてたよね!』


 俺の言い分に視覚共有で見ていた香月さんも乗っかる。


『でも俺の部屋には間違いなく一級遮光カーテンが掛かっていたし、そんな光が舞い込むような隙間は無かったように思うんだよね』

『確かに! たっくんの部屋にはカーテン掛かってたよね!』


 香月さんも同意し、ますます謎は深まるばかりだ。


『あとパルヴァンさんからの報告じゃ、無人機が確認した映像によれば、たっくんの部屋にはレースカーテンしか掛かってなかったって話ですけど……』


 矢那尾さんが不思議を深めるように言い、俺は『それも不思議だよね……確かに遮光カーテンがかかってたんだけどな……』と返した。


『うーん、私が思うに、掛かっていたカーテンの違いから、別の時空のたっくんの部屋を無人機は観測していたのかなって』


 矢那尾さんが自身の意見をまとめる。


『別の時空を?』

『はい。量子フィールド内ではたっくんを守るように因果律が乱れるって話ですよね? だから別の時空のたっくんの部屋を観測しつつ、攻撃そのものは因果律操作によってキャンセルされたのかなと! ロックオンの光だけはその因果律操作の対象外だったんじゃないかって』

『それでロックオンの光だけが俺の部屋に貫通してきたと?』

『はい。荒唐無稽ですかね?』


 矢那尾さんが自信無さげに聞く。


『いや、量子フィールドでの因果律操作がマジであるっていうならないわけでもないのかなって気はするけど……別の時空かぁ。でもそうだとしたら、そもそも俺の観測してる世界と、みんなが観測してる世界そのものも別時空であるっていう方が納得かなぁ』


 そう俺が感想を述べると、亜翠さんが『つまりどういうこと?』と聞いてきた。


『だって俺からしたら今日だって、みんなが仕事をほぼ休んでるとか信じられないですし……人気声優さんって連日連勤だって聞いてますよ? そんなに土日休めるものなんですか? 別時空だって言われたほうがすっきりするなぁ』


 いちいちみんなのスケジュールを母からスマホを借りて確認するのも億劫だった俺は、みんなのスケジュールを把握しているわけではない。だから今日だってみんながほぼ休みだと言う話が信じられないでいた。


『そうは言うけど、今日は私は休みだよ? 明日は操と一緒にイベントだけどね!』


 と香月さんが答える。


『まぁ、たっくんの気持ちも分からないではないけど、でもたっくんは日本国民で量子フィールドもあって、それが動いてることも確認できてるんだよ?』


 亜翠さんが冷静にそう指摘し、俺は『うーん……』と唸ることしか出来なかった。


『それよりもさ、たっくん! 昨日攻撃をプラント大統領に進言した将軍たちの色を見て欲しいんだけど!』


 香月さんが提案してくる。

 だが俺は将軍たちの名前も知らなければ顔も知らない。

 どうイメージの色を見ろっていうのか。


『それは無理ですよ。だって俺、将軍たちの名前も顔も知らないじゃないですか』

『あーそっか。それだとイメージが浮かんでこないから色があるかも分からない感じ?』

『試したこと無いのでわからないですけど、たぶん……』

『うーんそっかー。でもダメ元でやってみようよ! パルヴァンさん、いますか?』


 香月さんがパルヴァンさんを呼ぶが、パルヴァンさんは聞いていないようだ。

 時間的にもうあちらは0時頃なので寝ているのだろう。なのでこちらから声をかけることにした。


『パルヴァンさん。お休みのところ申し訳ありません。昨夜俺を攻撃するって進言した将軍のことを伺いたいんですが』

『あぁ……コヒナタか。将軍のことを知りたいのか? 何故だ?』

『香月さんが将軍たちの色を確認しろって言うので……』

『なるほど、確かお前の言い分を信じそうにない人たちが色がないんだったか?』

『はい。そうだと思っていたんですけど、今回の将軍たちはどうだったのかなって』

『いいだろう。将軍たちの名前を教える』


 そう言ってパルヴァンさんが俺に将軍の名前を挙げ始める。

 しかし……。


『カーター将軍ですか?』

『いや違うぞコヒナタ。間違っているぞ」


 そう言い再度名前を挙げるパルヴァンさん。

 だが、再び名を問い返すもどうやら間違っていたようだ。

 前に起きた現象がまた起きているらしい。


『どういうことだ、お前が知らない相手の名前を伝えることができないのか……?』

『うーんどうなんでしょう。明らかに邪魔されますよね。でも香月さんが人質に取られた時、佐籐才花さんの名前は確かに俺に伝わってましたけど、りつひー、まさか佐籐才花さんって名前も間違ってるの?』

『え、いえ合ってますよ。佐籐才花さんの手術費用を支払ったので間違い無いと思いますけど……』


 りつひーが不思議そうに答える。


『ではそうだな。面倒だが、空将Aとか陸将Aとかで伝えることにするか』

『はい。それならば問題はないかと』

『そうか……お前の殺害計画を提案したのは陸将BとC、賛成したのは空将Aと海将Bだ』


 言われ、俺はそれらの人物をイメージする。

 イメージは陸将が戦車、海将が戦艦、空将が戦闘機にアルファベットを付けたものという漠然としたものだったが、確かに頭の中に浮かび上がってきた。

 そしてやはり、全員に色がなかった。


『イメージできましたけど、やっぱり全員色なしですね』

『それは本当か?』

『はい。間違いないかと』

『どういうことだ。外国のスパイというわけではあるまい?』

『たぶん……単に俺のことを認めてない人みたいな感じじゃないかと』

『ふむ……そうか。今後はコヒナタのことを決める際には、各人の色を確認したほうがいいだろうか……』


 パルヴァンさんは迷っているようだ。


『なんだか色があると善の味方で、色がないと悪の勢力の味方みたいだね。たっくんは光の救世主だからもちろん善の味方だよね!』


 香月さんが印象で語り、俺もまさにその通りかもしれないと思っていた。


『例のコヒナタが光の救世主になったとかいう話か?』


 パルヴァンさんはどうやら話を香月さん達から聞いていたようだ。


『確かにコヒナタは口でそう言ったんだったな?』

『はい。間違いないです』


 パルヴァンさんの質問に香月さんが真剣に答えるが、当の俺はなんだかちょっぴり恥ずかしかった。


『コヒナタ……お前の口から出た言葉が全て絶対命令になるとは言い切れんが、しかしお前の口から出た言葉なのは確かだ。俺は神を信じてはいるが、神は直感的にお前を味方であると俺に告げている……』


 そう言ったパルヴァンさんは『……良いだろう。今後、コヒナタが関わる話し合いでは、色のある将軍のみの参加を許可するようにプラント大統領に進言する』と続けた。


『うんうん、それが良いと私も思うな。たっくんが攻撃されるかもって考えるのは辛いしね!』


 香月さんが賛成し、亜翠さんも『私もそれが良いと思います』と言った。


『それを言うなら、私達の護衛の人もそうだと嬉しいんですけど』


 りつひーが提案し、即座にパルヴァンさんによって『良いだろう』と認められた。

 熊総理にもパルヴァンさんが話をつけてくれるらしい。

 そうして俺は、護衛の米軍と自衛隊との人員の色を見る作業に追われることになった。

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